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第三章
優しい帰り道
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そして今、坂田方面に向かう電車に乗っている。
多少混んでいるとはいえ満員というわけでは無かったので、空いている席に2人で並んで座った。
腕と腕が触れ合うことで感じる温かさが嬉しい。お互い硬い腕だけどそれでもやっぱりドキドキする。
特に話をするわけでもなかったけど、それでも俺は幸せだった。
ゴトンゴトンゴトンゴトン…
「……?」
さっきまで軽く触れ合うだけだった腕同士の圧が急に強くなった。
不思議に思って顔を横に向けると、目を瞑って寄りかかる御影さんの姿があった。
俯き加減のその顔に、さらさらと揺れる黒髪。その前髪が揺れるたびに見え隠れする長い睫毛……。
無防備に俺の隣でうたた寝をする御影さんがうれしい。
いつも凛としたその瞳が隠れるだけで、こんなにも印象が変わるものなんだな……。
あ、そうは言っても御影さんの場合は凛とした時ばかりじゃないか。
俺の言葉に優しい目元になったり、不貞腐れたり拗ねたりする時はムッとしたような表情になったりするし。
自然と上がる口角。
『ふふっ』
声に出さずに俺は笑った。
きっと御影さんが今俺の表情を見たら訝しい顔をするんだろう。
この人は、自分がどれくらい愛らしいのかホントに分かっていないから。
揺れる電車の中、俺は愛らしい御影さんを独り占めして堪能していた。
「次は、坂田~、坂田です」
あ、次か。御影さん起こさなきゃ。
「御影さ……、あ、起きましたか」
アナウンスの声に反応したんだろう。御影さんが瞼をこすりながら頭を起こした。
「うん……。寝てたか、俺」
「はい、そうみたいですね」
「……悪かったな。退屈だっただろ。……それに重かったよな」
御影さんはそう言って謝ってくれたけど、俺は退屈なんかじゃなかったし、もちろん重いとも思わなかった。それどころかもっとこのまま凭れかかっていて欲しいと思うくらいだ。
「大丈夫ですよ。重くも無かったし退屈でもありませんでした」
「……え?」
「あ、着きましたね。降りましょう」
忘れ物が無いことを確認して電車を降りた。改札を出て、御影さんにどこに向かえばいいのか尋ねた。
「お前ホントに俺んちまで送るつもりか?」
「はい」
「……まあ、送ってもらった後にここまで俺が送ればいいか」
「え? なに言ってるんですか。それじゃ送る意味が無いでしょう? 帰り道なら大丈夫です。俺こう見えても一度通った道は覚えちゃうんで」
「そうなのか?」
「はい、俺野生の勘が凄いんです」
「…………」
俺の言葉に一瞬ポカンとした御影さんは、その後なんのツボにはまったのか大声で笑いだした。
さんざん笑った後、涙を拭きながら顔を上げた。
こんな大笑いする御影さんを見るのは初めてで。
ホント、バカなんじゃないかと思うけど、爆笑した後の赤くなった頬を見ただけで、俺はまたその可愛さにドキドキした。
「……っ、ほんっとお前って……。なんだ? 赤くなってるぞ」
「それは……」
それは御影さんも一緒です、と言おうとして止めた。その代わり、別の本音を言葉にする。
「それは御影さんのせいですよ」
ニッコリと笑ってそう言うと、御影さんは一瞬キョトンとした後俺の言いたいことが伝わったのか、一瞬だけ剥れたように唇を尖らせた後――、困ったように微笑んだ。
多少混んでいるとはいえ満員というわけでは無かったので、空いている席に2人で並んで座った。
腕と腕が触れ合うことで感じる温かさが嬉しい。お互い硬い腕だけどそれでもやっぱりドキドキする。
特に話をするわけでもなかったけど、それでも俺は幸せだった。
ゴトンゴトンゴトンゴトン…
「……?」
さっきまで軽く触れ合うだけだった腕同士の圧が急に強くなった。
不思議に思って顔を横に向けると、目を瞑って寄りかかる御影さんの姿があった。
俯き加減のその顔に、さらさらと揺れる黒髪。その前髪が揺れるたびに見え隠れする長い睫毛……。
無防備に俺の隣でうたた寝をする御影さんがうれしい。
いつも凛としたその瞳が隠れるだけで、こんなにも印象が変わるものなんだな……。
あ、そうは言っても御影さんの場合は凛とした時ばかりじゃないか。
俺の言葉に優しい目元になったり、不貞腐れたり拗ねたりする時はムッとしたような表情になったりするし。
自然と上がる口角。
『ふふっ』
声に出さずに俺は笑った。
きっと御影さんが今俺の表情を見たら訝しい顔をするんだろう。
この人は、自分がどれくらい愛らしいのかホントに分かっていないから。
揺れる電車の中、俺は愛らしい御影さんを独り占めして堪能していた。
「次は、坂田~、坂田です」
あ、次か。御影さん起こさなきゃ。
「御影さ……、あ、起きましたか」
アナウンスの声に反応したんだろう。御影さんが瞼をこすりながら頭を起こした。
「うん……。寝てたか、俺」
「はい、そうみたいですね」
「……悪かったな。退屈だっただろ。……それに重かったよな」
御影さんはそう言って謝ってくれたけど、俺は退屈なんかじゃなかったし、もちろん重いとも思わなかった。それどころかもっとこのまま凭れかかっていて欲しいと思うくらいだ。
「大丈夫ですよ。重くも無かったし退屈でもありませんでした」
「……え?」
「あ、着きましたね。降りましょう」
忘れ物が無いことを確認して電車を降りた。改札を出て、御影さんにどこに向かえばいいのか尋ねた。
「お前ホントに俺んちまで送るつもりか?」
「はい」
「……まあ、送ってもらった後にここまで俺が送ればいいか」
「え? なに言ってるんですか。それじゃ送る意味が無いでしょう? 帰り道なら大丈夫です。俺こう見えても一度通った道は覚えちゃうんで」
「そうなのか?」
「はい、俺野生の勘が凄いんです」
「…………」
俺の言葉に一瞬ポカンとした御影さんは、その後なんのツボにはまったのか大声で笑いだした。
さんざん笑った後、涙を拭きながら顔を上げた。
こんな大笑いする御影さんを見るのは初めてで。
ホント、バカなんじゃないかと思うけど、爆笑した後の赤くなった頬を見ただけで、俺はまたその可愛さにドキドキした。
「……っ、ほんっとお前って……。なんだ? 赤くなってるぞ」
「それは……」
それは御影さんも一緒です、と言おうとして止めた。その代わり、別の本音を言葉にする。
「それは御影さんのせいですよ」
ニッコリと笑ってそう言うと、御影さんは一瞬キョトンとした後俺の言いたいことが伝わったのか、一瞬だけ剥れたように唇を尖らせた後――、困ったように微笑んだ。
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