上 下
32 / 57
第三章

強いことは知ってます  

しおりを挟む
「あー、美味しかった。やっぱ好きな人と一緒のご飯って、よりおいしく感じられるものなんでしょうね」
「……そうかもな」

普段通りの静かな表情だけど、それでも穏やかな目元が御影さんの気持ちをちゃんと俺に伝えてくれている。
喜怒哀楽のはっきりした人ではないけれど、俺の中ではそこも御影さんの魅力の一つとなっていて、貴重で大好きな表情の一つだ。

「さてと、そろそろ帰らなきゃですよね。俺、送っていきます」
「は? なに言ってんだ。逆だろ」
「……へ?」

「俺の方が年上だし強いんだ。だから俺の方がお前を送っていく」
「…………」

凄く真面目な表情で言い切る御影さんに、ああ……と何となく思い当たる。
たぶん御影さんは、自分が守られる立場だと思ってもいないし思われたくも無いんだろう。

だけど……、俺としては過去の御影さんが被って来た被害が実在のことだと分かった以上、ほんのわずかな可能性の芽も総て潰してしまいたい。

……う~ん、ここはどう言えば俺の気持ちを分かってもらえるだろう。

「あのですねえ、御影さん」
「なんだ?」
「俺は見ての通りの顔なので、痴漢なんてあったことはありません」
「…………」
「御影さんは何度か被害に合ってるんじゃないですか?」
「……被害になんて合ってない、みんな未遂だ。触られる前に察知して防いでる」

ああ、うん。分かってますよ。御影さんが強いことは十分に。

それに、今日だけ御影さんを送ったところで意味の無いことも分かってる。実際学校の時は、たとえ一緒に帰っても家まで送っていくことなんて出来そうにないし。

「……デートの時くらいは最後まで嫌な気持ちになってほしくないなって思うんです。そりゃ、毎日痴漢に遭うわけじゃないだろうけど。それに……、出来るだけ長く一緒にいたいから」

「蒼空……」
「だめ……、ですか?」

頷いて欲しいっていう思いから、ジッと御影さんを見つめる。
ここが往来なんかじゃなかったら、その手をギュッと両手で握りしめて訴えたいくらいだ。

「御影さん?」
「……お前、ずるいっ」

「? へ?」

「俺だって長くお前と一緒にいたいし……。上手に甘やかそうとしやがって」
「そりゃ……、大好きな人のことですから。甘えてくれますか?」

「…………」
「御影さん?」

しばらく唇を尖らせて下を向いていた御影さんは、俺の再度の呼びかけにちょっぴり頬を膨らませた。
そして拗ねたようにそっぽを向いて、ボソボソと呟いた。

「……お前になら許してやる」

「~~~~~~~~!!!!」


こ、この人は……っ!
やっぱり俺をキュン死させる気だ……!

無自覚にもほどがある御影さんの可愛さに、俺はさらに御影さんに溺れていくのを自覚していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

逃げるが勝ち

うりぼう
BL
美形強面×眼鏡地味 ひょんなことがきっかけで知り合った二人。 全力で追いかける強面春日と全力で逃げる地味眼鏡秋吉の攻防。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

【完結】青春は嘘から始める

きよひ
BL
 4組の高校生カップル誕生までの物語。  光安、桜田、梅木、杏山の4人は教師に聞いた「告白ゲーム」を実行することにした。  それは、罰ゲームで告白するという罰当たりなゲームである。  「冗談でした」で済ませられるよう女子にモテモテの同学年のイケメンたちにそれぞれ告白する。  しかし、なんと全員OKを貰ってしまった!   ※1組ずつ嘘の告白からその後の展開を描いていきます。 ※3組完結、4組目公開中。 ※1組2万字程度の予定。 ※本当に一言二言ですが、どんなキャラクター同士が組み合わさるのかを知りたい方は「登場人物」を確認してください。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

処理中です...