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第四章

キスの催促

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御影さんのいろんな表情を知れば知るほど、俺は自分の溺れ具合を自覚する。

今の御影さんは、照れたように笑った後も俺のことをじっと見つめている。
ほんの少し細めた目には優しさと愛おしさが満ち溢れていて、俺の気持ちを簡単に煽ってくれる。


……ああ、触りたいなあ。
あの愛らしい頬に触れて髪の毛を梳いて、あの柔らかい唇に……。

ヤバいヤバいヤバいヤバい。

思わず御影さんの唇に目が引き寄せられていた。

ここは図書館だ。
俺らは勉強しに来てるんだ、うん。

俺は吸い付いて離れようとしない御影さんの唇に向けていた視線をグイ―ッと力業で引き剥がした。


……ふーっ。
勉強、勉強。

俺は無理やり引き剥がした視線を下へと持っていき、数学の問題を解こうと姿勢を正した。


「…………」
「…………」

……チラッ。

え?

見ちゃいけない見ちゃいけないと思えば思うほど御影さんが気になって、チラッと視線を上に向けると御影さんはまだ俺のことを見ていた。しかもなぜか不機嫌さを隠さない剥れた表情だ。


「……み、影さん?」
「……なんで外すんだ」
「え?」
「視線……。俺のこと無視して外しただろ、今」

ええ~っ!?
なに、それで怒ってんの?

「や、違いますよ」
「何が違うんだ、外したくせに」

「……え~っと、だからですね……」

うわー、なんて言えばいいんだよ!
まさかキスしたくなったから拙いと思って外したって言わなきゃなんないの?

「…………」
「…………」


……分かりました。降参ですよ、はい。


「……ヤバイと思ったんです……」
「――何が」

ふーっと俺は大きく息を吐いた。
呆れられるのがおちだけど、言わなきゃ言わないでずっと不機嫌でいられそうだ。
それはヤだし。

「……御影さんを見てたら、……キス、したいなって思っちゃったんですよ。拙いでしょ? ここ、図書館なのに」

俺も御影さんも一応ここが図書館だっていう意識はあるので、いろいろ責められてはいるが2人とも小声だ。
御影さんに今している説明も、小声でボソボソと話した。

俺の本音を聞いた御影さんは一瞬『え?』という顔をした後、表情をいったん止めて、そして手を口元に持って行った。

……ですよね。困りますよね。
だから外したんですよ。

なんとも言えない微妙な空気感に、俺はポリポリと頭を掻いた。

「すみません。じゃあそろそろ……」
勉強しましょうか。と言おうとしたところを、御影さんの爆弾投下に遮られた。

「それの何が悪いんだ?」

……て、
え……?

「騒ぐわけじゃないんだから、構わないだろう?」

えっ、ええっ?

「い、いや。だってここ図書館ですし」

「だからなんだ。席だって皆から離れてるし、誰も気にしたりしない。ここでのマナーは、携帯、スマホの電源を切ること。大声で話をしない。走り回らない。そのくらいだろ?」


ええええーーーーっ!?

そりゃそうかもしれませんけど……!


知ってますよね!
御影さんの憧れてる田上先輩もここにいたりするんですよ!

それに、誰かに見られたらどうすんですかーっ!


……もしかしたら御影さんって、度胸も度量も人一倍ある人なのかもしれない。


催促するかのように俺をじっと見つめ続ける御影さんを見ながら、俺はそんなことを考えていた。
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