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第三章
優しい帰り道 2
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御影さんを送りながらの帰り道。
もちろんここは俺の地元では無いし来るのも初めてだ。だから、ついついキョロキョロと辺りを見回す。
……ここが御影さんが普段通る道なんだなあ。
「いいなあ。俺もここに生まれたかったです」
「え?」
「だって、そしたら偶然にでも御影さんに会う可能性もあるじゃないですか。……偶然にバッタリ出会う幸せ……。いいなあ、ほんっと羨ましい。ここに住んでる人たち!」
「それって俺のこと?」
「え!?」
突然の背後からの声に、俺も御影さんもびっくりして振り向いた。
「愁」
「鈴木さん! うわー、びっくりした」
「ハハッ。そんなに驚かなくても、……デートの帰りか?」
「ああ」
「そうか」
頷く御影さんに、鈴木さんが微かに微笑んだ。
「凄いな、松田くん。御影の鎧を脱がせたのは君が初めてなんじゃないか?」
「鎧?」
「なんのことだ?」
どうやら鈴木さんの言いたいことを御影さんも理解できていないようだ。訝しい表情で首を傾げた。
「だってほら、お前誰かに甘えるなんてことしたことないだろ」
「当たり前だろ」
「でも今は松田くんに甘えてる。……というか、自覚は無かったかもしれないけど、付き合う前からその兆候はあったよな」
「…………」
御影さん的には図星だったのだろうか?
鈴木さんの言葉に一瞬表情が止まり、顎に手をやり俯いた。
俯いたその顔に当たる風がハラハラと髪をなびかせて、そこからチラチラと御影さんの耳が顔を覗かせた。
その耳がほんのりと赤くなっていることで、御影さんが鈴木さんの言葉に思い当たったのだと分かって、なぜだか俺まで頬が熱くなってきた。
「まったく……、何でお前こんな時間にいるんだよ」
ぶつぶつ文句を言いながら御影さんが歩き出したので、俺らも自然に歩き始めた。
「ん? 久しぶりに声がかかったから……。達志に会いに行ってた」
「ああ……! そういや働きながら大学に行ってるんだよな? 元気そうだったか?」
「まあね。バイト先が居酒屋だし。忙しいみたいだけど食いっぱぐれは無いらしい。賄いが、ちゃんと出るらしいぞ」
2人の会話に口を挟むことが出来ずにただ聞き役に徹していると、そんな俺に気づいた御影さんが教えてくれた。
「達志さんってのは、俺らの中学時代からの先輩で愁の恋人だ」
「え?」
びっくりして鈴木さんを見ると、少し照れたように笑っていた。
ああ、そうか。
だから俺が御影さんを好きだと分かっても、偏見なしに応援してくれることが出来たんだ。
「ああ、見えて来た。あれが俺の家だ。で、その手前にあるのが愁の家だよ」
うわーー、本当にお隣さんの幼馴染なんだなあ。
「やっぱり鈴木さん、羨ましいです」
「そうか? 何なら松田くん、俺んちの子になるか?」
「いいですね!」
「おい、なに言ってんだよ蒼空。何も愁の家の子じゃなくても……。……っ、それより! どうする? 上がってくか?」
「あ、いえ。もう時間も遅いですから……。てか、御影さん、その前! なに言おうとしてました?」
「……なにがだ。……なにも言ってないぞ。それよりお前、本当に駅までの道覚えているのか?」
あ、流した。
まあいいけど。
「大丈夫です。俺、道を覚えるのだけは得意ですから!」
「……そうか。じゃあ、気を付けて帰れよ」
そう言いながら、御影さんの手が俺の手を取った。
鈴木さんはそんな俺たちを見て、くるんとそっぽを向いてくれた。
……とは言っても御影さんのテリトリーである地元で変な真似は出来ないから、俺も御影さんの手をギュッと握りしめて、気持ちを伝えあうことで我慢する。
「……帰りますね。月曜日、楽しみにしてますから」
「ああ。分かってる」
「気をつけてな、松田くん」
「はい、お2人ともお休みなさい!」
「おう」
「じゃあな」
並んで手を振ってくれる御影さんたちに俺も手を振り返して、俺は駅へと向かい家路を急いだ。
もちろんここは俺の地元では無いし来るのも初めてだ。だから、ついついキョロキョロと辺りを見回す。
……ここが御影さんが普段通る道なんだなあ。
「いいなあ。俺もここに生まれたかったです」
「え?」
「だって、そしたら偶然にでも御影さんに会う可能性もあるじゃないですか。……偶然にバッタリ出会う幸せ……。いいなあ、ほんっと羨ましい。ここに住んでる人たち!」
「それって俺のこと?」
「え!?」
突然の背後からの声に、俺も御影さんもびっくりして振り向いた。
「愁」
「鈴木さん! うわー、びっくりした」
「ハハッ。そんなに驚かなくても、……デートの帰りか?」
「ああ」
「そうか」
頷く御影さんに、鈴木さんが微かに微笑んだ。
「凄いな、松田くん。御影の鎧を脱がせたのは君が初めてなんじゃないか?」
「鎧?」
「なんのことだ?」
どうやら鈴木さんの言いたいことを御影さんも理解できていないようだ。訝しい表情で首を傾げた。
「だってほら、お前誰かに甘えるなんてことしたことないだろ」
「当たり前だろ」
「でも今は松田くんに甘えてる。……というか、自覚は無かったかもしれないけど、付き合う前からその兆候はあったよな」
「…………」
御影さん的には図星だったのだろうか?
鈴木さんの言葉に一瞬表情が止まり、顎に手をやり俯いた。
俯いたその顔に当たる風がハラハラと髪をなびかせて、そこからチラチラと御影さんの耳が顔を覗かせた。
その耳がほんのりと赤くなっていることで、御影さんが鈴木さんの言葉に思い当たったのだと分かって、なぜだか俺まで頬が熱くなってきた。
「まったく……、何でお前こんな時間にいるんだよ」
ぶつぶつ文句を言いながら御影さんが歩き出したので、俺らも自然に歩き始めた。
「ん? 久しぶりに声がかかったから……。達志に会いに行ってた」
「ああ……! そういや働きながら大学に行ってるんだよな? 元気そうだったか?」
「まあね。バイト先が居酒屋だし。忙しいみたいだけど食いっぱぐれは無いらしい。賄いが、ちゃんと出るらしいぞ」
2人の会話に口を挟むことが出来ずにただ聞き役に徹していると、そんな俺に気づいた御影さんが教えてくれた。
「達志さんってのは、俺らの中学時代からの先輩で愁の恋人だ」
「え?」
びっくりして鈴木さんを見ると、少し照れたように笑っていた。
ああ、そうか。
だから俺が御影さんを好きだと分かっても、偏見なしに応援してくれることが出来たんだ。
「ああ、見えて来た。あれが俺の家だ。で、その手前にあるのが愁の家だよ」
うわーー、本当にお隣さんの幼馴染なんだなあ。
「やっぱり鈴木さん、羨ましいです」
「そうか? 何なら松田くん、俺んちの子になるか?」
「いいですね!」
「おい、なに言ってんだよ蒼空。何も愁の家の子じゃなくても……。……っ、それより! どうする? 上がってくか?」
「あ、いえ。もう時間も遅いですから……。てか、御影さん、その前! なに言おうとしてました?」
「……なにがだ。……なにも言ってないぞ。それよりお前、本当に駅までの道覚えているのか?」
あ、流した。
まあいいけど。
「大丈夫です。俺、道を覚えるのだけは得意ですから!」
「……そうか。じゃあ、気を付けて帰れよ」
そう言いながら、御影さんの手が俺の手を取った。
鈴木さんはそんな俺たちを見て、くるんとそっぽを向いてくれた。
……とは言っても御影さんのテリトリーである地元で変な真似は出来ないから、俺も御影さんの手をギュッと握りしめて、気持ちを伝えあうことで我慢する。
「……帰りますね。月曜日、楽しみにしてますから」
「ああ。分かってる」
「気をつけてな、松田くん」
「はい、お2人ともお休みなさい!」
「おう」
「じゃあな」
並んで手を振ってくれる御影さんたちに俺も手を振り返して、俺は駅へと向かい家路を急いだ。
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