最強美人が可愛い過ぎて困る

くるむ

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第二章

レアな笑顔

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御影さんが田上先輩に俺とのことを隠さずに伝えてくれたという事は、俺たちの関係を特に隠すつもりは無いんだろうか。だったらうれしいんだけど。

「御影さん、あの、もしよかったら今日から一緒に帰りませんか?」
「ああ、いいよ」
「ヤタッ!」

思わず小さくガッツポーズ。
そんな俺に、御影さんはクスッと笑みを漏らした。

おおっ!
御影さんが笑ってくれた!
御影さんのこんな笑顔とかレアだ。

「……蒼空?」

余程にやにやとしまらない顔をしていたんだろう。
御影さんが怪訝そうな顔をして俺を見ている。

「あ、やっ。なんでもないです。ただもう、うれしくって」
「……変な奴」

はい。もう変な奴で結構です。

だってもう、何もかもがうれしすぎて。
御影さんと一緒にいることで突き刺さる数々の視線も、御影さんの盾になっているんだと都合よく解釈できるくらい、今の俺は舞い上がっている。

「おい、お前」

あ。そうだ。
御影さんのお家はどの辺なんだろう?
近いといいんだけど。

「ねえ、御影さ……!?」
「てめえ、無視してるんじゃ……! っ、いでででで!! ギブ!ギブ! は、離せよ御影!」

突然肩を掴まれて驚く間もなく、悲鳴が聞こえてびっくりした。
反射的に振り返ると、御影さんが誰かの腕を捩じるように掴んでいた。

「御影さん、痛そうですよ。この人」
「……そりゃ痛いだろう。放してやってほしいのか?」
「……つ~っ。頼む、頼むよ!」

御影さんに腕を掴まれているこの男は、御影さんをパシパシと叩いて訴えている。

「放してあげてください」
「…………」

俺がそう言うと、御影さんは軽く息を吐いて突き放すように男の腕を離した。

「っ……、て~っ」

涙目になって腕を摩りながらなぜか俺を睨みつける男を、御影さんは冷たい目で見ている。

「懲りないのな。お前」

「……っ、だってしょーがないだろ! 俺のことは断ったのに、なんでこんなどう見てもパッとしない1年なんかと一緒にいるんだよ! ……それに、あんな顔して……っ」

あんな顔……?
あんなって、……ああ! もしかして御影さんの笑顔か!
確かにあの笑顔はうれしかった。

……?
それにしてもこの人って何者?
しかも御影さん、懲りないとか言ってるし。

「……御影さん、この人誰ですか?」

俺の質問に、御影さんの眉間にしわが寄る。
なんだ?

「……こいつは去年俺と同じクラスだった奴だ。……2週間前、無理やり言い寄って来やがったからボコボコにしてやったんだよ」
「はあ!? あんた、御影さんのこと無理やり押さえつけようとかしたのか!?」

噂には聞いたことはあっても、実際御影さんの口から聞かされるまでは、半分は誇張された単なる噂話だと思っていたので心底驚いた。
驚いて、俺はその勢いのままそいつの胸倉をつかんだ。

「悪いかよ! 御影が悪いんだろ? こんなに美人で普段は物静かだから! 誰だってイケると思うだろうが!」
「……おまえっ!!」

とんでもないことを言うこいつに、グワッと火が付いたような怒りがこみ上げて来た。
咄嗟に振り上げた拳を、パシッと何かに勢いよく覆われた。


「……え?」

御影さんだった。
御影さんが俺の拳を握って、拳を振るわないようにと止めていた。

「……お前が殴ることは無いから」

「…………」

御影さんはそう言うと、胸倉をつかんでいる俺の手を外した。
外されたそいつは訳の分からない悪態を吐いた後、逃げるようにこの場を走り去って行った。


……一発くらい殴りたかったな。
そりゃ、御影さんは俺に守られたいだなんて思って無いだろうけど……。

何となくモヤモヤしてしまうのは何でだろう。



「ありがとな」

「……え?」

驚いて振り向く俺に、御影さんがいつもの静かな表情で言葉を続ける。


「あいつは、お前が殴る価値なんて無い奴だ。……だけど、真剣に怒ってくれてうれしかったよ」


喜怒哀楽の少ない静かな人。
一見クールに見える御影さんだけど。


御影さんの言葉は、俺の心にじんわりと温かく広がっていった。
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