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エピローグ

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あの茶番の日から、和基は俺との約束通り誰彼構わずじゃれつくのは止め、あの後輩の頭を撫で繰り回すのも止めたようだ。

時折あの一年と遭遇するとき、恨めしそうに見られて笑いがこみ上げてくる。もちろん顔面筋を総動員して、必死で堪えるけど。

「青葉さーん!」

「おっ。お前のワンコのお出迎えだぞ」
「羽瀬川……」

今日は文化祭で、今さっきエキストラから解放されて体育館の外に出て来たばかりだ。
羽瀬川が揶揄するように、和基はまるで見えない尻尾を振る勢いで俺の下へと駆けてくる。その後ろからは、夕月が可愛らしく手を振りながら羽瀬川の下に駆けて来た。

「ドキドキしましたよ、青葉さん~」
「おい、待てっ」

俺の制止を聞かないふりで、和基が力いっぱい俺を抱きしめた。

……まったく。

日から和基は、俺の制止なんてほとんど聞かなくなってしまった。
だけどその代わり、和基が誰かにじゃれついたり無用に後輩を可愛がることだけは本当に無くなっているから、まあ、本音としては構わないんだけど。

そしてその俺の気持ちの変化を、多分だけど和基は気づいているっぽい気がする。

なんというか、癪だが心の余裕がありありなんだよ、最近のこいつは。
だけど……。

「和……基、力抜ける。不味いから……」

そう。
俺が和基を好きすぎるのは、相変わらずなんだ。
和基の体温を感じて、体中を触られて、熱い吐息なんて感じてしまうと……。

「……青葉さん、不味いですか? ?」

ゴンッ!!

「……つ、て―っ!」

え?

突然の和基のうめき声にびっくりして顔を上げると、羽瀬川が怒った顔で笑顔を作っている。

「お前は場をわきまえろ。どこでもかしこでも盛って青葉に迷惑を掛けるな」
「~~~。だって、青葉さんと学年違うから、羽瀬川さんみたいにしょっちゅう会えないんですもん」
「青葉も!」
「……え?」

和基に凭れながら、ぼんやりと羽瀬川の説教を他人ごとに聞いていたのに、俺にまでお鉢が回ってきてびっくりした。顔を上げると、羽瀬川が意味深な笑顔で俺を見ている。

……こわ。
なんだよ。

「飼い主と飼い犬はセットで教育しないといけないんだよなあ。……俺、調教してやろうか?」

「断る!! 絶対にごめんだ!!」

羽瀬川の、口角を上げた静かな笑顔が恐ろしい。

「和基! 俺のクラスは脱出ゲームだ。行くぞ!」
「え? は、はいっ」
「じゃあな、羽瀬川。お前は夕月と楽しく回ってろ!」

羽瀬川への恐怖でシャキッとなった俺は、和基の腕を掴んで走って逃げた。

去り際にチラリと見えた羽瀬川の顔は、さっきの笑顔とは打って変わっての楽しげなものだ。
揶揄われたか。
まあ、いい。

せっかく少し素直になることが出来るようになってきたんだ。
こうやって、ゆっくり和基と回るのも悪くはないだろう。
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