お前以外には触らせてないんだよ!

くるむ

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作戦決行

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決行は部活後すぐの方がいいだろうという事になった。

ただその時間になってしまうと暗くて人の顔も判別しにくいだろうという事で、考えあぐねた結果、人気が無く外灯が設置されているのは図書館脇の小庭ぐらいだろうということでそこに決まったのだ。

午後七時前。

……何でこんな茶番をしなきゃならないことになったんだか。

――ああ、そうだ。
和基のバカが、あのクソ生意気な一年の頭を撫でたりなんかするからだ。

「…………」

引っ付くのは抵抗があるけれど、頭を撫でるくらいなら俺でも出来るか。

だいぶ違うとは思うけれど、これはある意味俺と和基の遺恨試合だ。それなら、俺が嫌だと思ったことを全部仕返せば……。
案外、それも良いかもしれない。

「南野先輩!」

俺があれこれ考えている内に、部活を終えた八神が走って来た。

「やあ、すまないな。羽瀬川が無理言ったみたいで」

「とんでもないです。俺、羽瀬川先輩にも言いましたけど、南野先輩と話して見たいなって思ってたんです。……わー、やっぱり間近で見るとドキドキしますね。先輩、美人です」

「……美人は女に言う言葉だ」
「やだなー、何言ってるんですか南野先輩! 南野先輩が美人だって認識はこの学校全体の総意ですよ? 何を、今更」
「…………」

何と返事をしていいやらと絶句していると、急に八神が真顔になった。

「えーっと、そろそろ時間ですよね。色々羽瀬川先輩に注意事項は言われてるんですけど……。触りませんから、もっと近づいても大丈夫ですか?」
「……ああ」

俺が了承すると八神は一歩近づいて、肘を曲げて手を俺の腕辺りに伸ばし、少しかがんだポーズをとった。

……悪かったな。俺の方が年上なのに背は低いんだよ。
まったく和基と言いこの男と言い、年下なのに生意気だ。

「こうすると、和基がいる方向からは俺が南野先輩に抱き着いているように見えるんですよ」
「それは、方向が違っていたらバレバレだってことにならないのか?」
「大丈夫です。既に昼に、羽瀬川先輩とは打ち合わせ済みですから」
「…………」

……あいつ。

本当に抜け目のない奴だ。
と言うか、もしかしてこの状況を楽しんでるんじゃないのか?

「――その格好、ちょっときつそうだな」
「大丈夫ですよー。俺、結構鍛えてるんで」
「……そうか。おい、ちょっと頭撫でるぞ?」
「え!? い、いいんですか?」

何をそんなにびっくりしたのか、反動で八神の背がスッと伸びた。

「ああ、いい。いい。ちょっと屈め」
「は、はいっ」

……?
なんだ?やけに嬉しそうだな、こいつ。

訝しく思いはしたが、まあいいかと流して俺は手を伸ばして八神の頭を撫でようとした瞬間……。

「ごるぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 八神ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

おっそろしい怒号と共に、和基がもの凄いスピードでこちらに向かって走って来た。
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