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羽瀬川という奴

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「青葉、これ教えて」
「あ、俺も。この数式なんだけどさー」

受検を意識し始めたのか、最近はこうやって教室にいる時まで教科書片手に俺の所に来る奴が増えている。おまけに今は先生の都合で自習時間になっているので、あちらこちらで席を立つ奴が続出中だ。

でも俺なんかより、羽瀬川の方が成績は良いはずなんだけど……。

チラッと羽瀬川の方を見るとパチッと目が合った。と、同時に羽瀬川がこちらに向かってスタスタと歩いてくる。

「よ! なに、みんな。青葉に数学教えてもらってんの?」

俺の隣の椅子を引き寄せドカッと腰を下ろして、羽瀬川が教科書を覗き込んだ。

「うん。だってほら、青葉の教え方分かりやすいし。な?」
「そうそう」
「そうか―? 俺より、羽瀬川の方が丁寧な気がするけど」
「ま、いいじゃん! それより続き、続き」

そう言いながら、知崎がズィッと前に出て来た。他人と近いのが苦手な俺は、ちょっと後ろに心持ちズレる。

教えるのは嫌じゃないんだけど、あまり近くに寄られるのは好きじゃないんだよな。

「青葉、そこ代われ」
「……え?」
「なんか、ちょっとうずうずしてきた。俺が直々に教えてやる。ほらほら」
「あ、ああ」

羽瀬川に促されて席を立ち、2人入れ替わった。

「おい、羽瀬川~。せっかく青葉に教えてもらってるのに―」
「なんだよ。俺じゃ不満かー? よし、きっちり教えてやる。覚悟しろ、お前ら」
「え~? スパルタかよ!」

「…………」

もしかして、羽瀬川、俺が引いてたの気づいてた?

……何だかな―。
敏い親友はこれだから……。だから柄にもなく頼っちまって弱みまで見せる羽目になっちまうんだ。

頼もしくて心地よくてこそばゆい、……そしてちょっと気が抜けない。羽瀬川相手に気を抜きすぎると、何もかもを見透かされてしまいそうで不味い気がする。

俺にとっての羽瀬川は、そういう存在だったりする。
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