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和基にお灸を据えてやろう
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ご飯を食べ終わり、食堂を出た。
「青葉さん、今度は俺の部屋に来ませんか? 今なら多分、同室の篤史も他の部屋に遊びに行ってるはずですから」
「……止めとく。疲れたから部屋に戻るよ」
軽く手を振ってその場で別れようとすると、和基が愕然としたような顔をして、咄嗟にといったふうに俺のひらひらと動く手を両手で挟んだ。
「ちょっと! ちょっと待ってくださいよ、疲れたって……っ」
「……神経すり減ることがあったんだよ」
お前のせいでな。
「ええっ!? そ、そんな……っ!」
どれだけ切羽詰まっているというのか、和基はグイッと真剣な表情で俺を引き寄せる。
そして一応は場をわきまえてなのか、ひそひそと小声で話し始めた。
「……あれで終わりですか? 俺が青葉さんのいうこと聞かなかったから?」
「? なに?」
言う事を聞かない?
なんだ、それ。
「……だって、しょうがないじゃないですか。確かに青葉さんのキスのお強請りなんて、そうそうないから聞いてあげたかったんですけど、あのまま深いキスしちゃってたら今頃……」
「バ、バカッ!」
なに言ってんだ、こいつ!
何でコイツは鈍感なうえに、こんな恥ずかしい勘違いなんてしやがるんだ!
「とにかく! 今日は部屋に戻る。じゃあな!」
「青葉さん!」
和基の手をバシッと振りほどいて、俺はドスドスと荒々しい足取りで部屋へと向かった。
ホント―に、腹が立つ、このバカわんこ!!
あの一年の頭を撫でるのは特別な事じゃないのか?
部活中の日常茶飯事だとでも言うのか!
悔しくて情けなくて涙が出そうだ。
そのままの勢いで部屋のドアをバタンと開けると、既に戻ってきていた羽瀬川が驚いた表情でこちらを見た。
「なんだ、どうした? 荒れてんな、……和基絡みか?」
「どうだっていいだろ、そんなこと」
ボスンとそのままベッドにうつ伏せにダイブした俺に、忍び笑いをした後、羽瀬川が俺の所に近寄って来た。そしてベッドに腰を下ろした。
「お前さー、いい加減、和基に対して素直になってみれば?」
「ああ?」
うつ伏せにしていた顔を羽瀬川の方に向けて、何言ってんだという気持ちで不機嫌に返事を返す。
案の定羽瀬川は、いつもと同じように楽しそうな表情で俺を見ていた。
こういう時の羽瀬川は、たいていからかい半分本気半分だ。だけど、俺にとっては的を射た忠告の方が多いんだから嫌になる。
「……俺がそういうことが出来ない性分だってことは、お前もよく知ってるだろう」
ボソボソと呟く俺に、「そうだなー」と羽瀬川も返した。
そして、
「なあ、お前が一番和基に怒っているのは何だ?」
「な……、なんだっていいだろ! そんなこと」
言えるかよ。そんな恥ずかしいこと!
俺は羽瀬川の方に向けていた顔を、プイッと反対側に向ける。
「――和基に気がありそうな奴らに、和基がふつ―にスキンシップとかしてる事か?」
!!!
だから―、何でお前はそんなにいつもいつも的を射るかな!
鈍感すぎる恋人は腹立たしいが、敏すぎる親友も困りものだ。
無言で何にも返せない俺に、羽瀬川は「やっぱ、そうかー」と言いながら笑っている。
「なあ、青葉。……それ、解決してやろうか」
ギクッ。
「……え、あ、いや。これは俺たちの問題だし……」
「なんで? 親友の危機だろ? ちょっぴり和基にお灸を据えてやるだけだよ。それでついでに、青葉が言えないでいる気持ちもあいつに伝わるかもしれないよ?」
そろりと羽瀬川の顔を窺うと、案の定こいつは口角を上げて静かに笑っている。
羽瀬川は、見た目も中身も爽やかで頼りになる良い奴だが、ちょっぴり冷えた冷酷さを内包している。それはたまに揉め事の核心を冷徹について、一気に解決に進むこともあるのだが……。
コイツがこういう表情をしている時は、過激な解決策の方が多いんだよ!
「……あ、いや。でもさ……」
「なあ、青葉。俺の一番って誰だか知ってる?」
「? 夕月だろ?」
「もちろん、シノは特別だ。恋人だからね。……だけど親友として、友人での一番はお前だぞ? そのお前を、こんなふうにイライラさせる和基には俺もお灸を据えてやりたい」
「羽瀬川……」
なんだ、こいつ!
良い奴だけど……、ムズムズするじゃないか。しかも、俺が天邪鬼だと知ってのこれだ。
……こいつも大概、質が悪い。
「……酷いことには、ならないんだろうな?」
「ならないだろ。何なら、アフターフォローはしてやる。……ま、その心配は無いだろうがな」
「……じゃあ、頼む」
「りょーかい!」
ニコリと微笑む親友に、俺はちょっぴり背中に冷や汗を掻いていた。
「青葉さん、今度は俺の部屋に来ませんか? 今なら多分、同室の篤史も他の部屋に遊びに行ってるはずですから」
「……止めとく。疲れたから部屋に戻るよ」
軽く手を振ってその場で別れようとすると、和基が愕然としたような顔をして、咄嗟にといったふうに俺のひらひらと動く手を両手で挟んだ。
「ちょっと! ちょっと待ってくださいよ、疲れたって……っ」
「……神経すり減ることがあったんだよ」
お前のせいでな。
「ええっ!? そ、そんな……っ!」
どれだけ切羽詰まっているというのか、和基はグイッと真剣な表情で俺を引き寄せる。
そして一応は場をわきまえてなのか、ひそひそと小声で話し始めた。
「……あれで終わりですか? 俺が青葉さんのいうこと聞かなかったから?」
「? なに?」
言う事を聞かない?
なんだ、それ。
「……だって、しょうがないじゃないですか。確かに青葉さんのキスのお強請りなんて、そうそうないから聞いてあげたかったんですけど、あのまま深いキスしちゃってたら今頃……」
「バ、バカッ!」
なに言ってんだ、こいつ!
何でコイツは鈍感なうえに、こんな恥ずかしい勘違いなんてしやがるんだ!
「とにかく! 今日は部屋に戻る。じゃあな!」
「青葉さん!」
和基の手をバシッと振りほどいて、俺はドスドスと荒々しい足取りで部屋へと向かった。
ホント―に、腹が立つ、このバカわんこ!!
あの一年の頭を撫でるのは特別な事じゃないのか?
部活中の日常茶飯事だとでも言うのか!
悔しくて情けなくて涙が出そうだ。
そのままの勢いで部屋のドアをバタンと開けると、既に戻ってきていた羽瀬川が驚いた表情でこちらを見た。
「なんだ、どうした? 荒れてんな、……和基絡みか?」
「どうだっていいだろ、そんなこと」
ボスンとそのままベッドにうつ伏せにダイブした俺に、忍び笑いをした後、羽瀬川が俺の所に近寄って来た。そしてベッドに腰を下ろした。
「お前さー、いい加減、和基に対して素直になってみれば?」
「ああ?」
うつ伏せにしていた顔を羽瀬川の方に向けて、何言ってんだという気持ちで不機嫌に返事を返す。
案の定羽瀬川は、いつもと同じように楽しそうな表情で俺を見ていた。
こういう時の羽瀬川は、たいていからかい半分本気半分だ。だけど、俺にとっては的を射た忠告の方が多いんだから嫌になる。
「……俺がそういうことが出来ない性分だってことは、お前もよく知ってるだろう」
ボソボソと呟く俺に、「そうだなー」と羽瀬川も返した。
そして、
「なあ、お前が一番和基に怒っているのは何だ?」
「な……、なんだっていいだろ! そんなこと」
言えるかよ。そんな恥ずかしいこと!
俺は羽瀬川の方に向けていた顔を、プイッと反対側に向ける。
「――和基に気がありそうな奴らに、和基がふつ―にスキンシップとかしてる事か?」
!!!
だから―、何でお前はそんなにいつもいつも的を射るかな!
鈍感すぎる恋人は腹立たしいが、敏すぎる親友も困りものだ。
無言で何にも返せない俺に、羽瀬川は「やっぱ、そうかー」と言いながら笑っている。
「なあ、青葉。……それ、解決してやろうか」
ギクッ。
「……え、あ、いや。これは俺たちの問題だし……」
「なんで? 親友の危機だろ? ちょっぴり和基にお灸を据えてやるだけだよ。それでついでに、青葉が言えないでいる気持ちもあいつに伝わるかもしれないよ?」
そろりと羽瀬川の顔を窺うと、案の定こいつは口角を上げて静かに笑っている。
羽瀬川は、見た目も中身も爽やかで頼りになる良い奴だが、ちょっぴり冷えた冷酷さを内包している。それはたまに揉め事の核心を冷徹について、一気に解決に進むこともあるのだが……。
コイツがこういう表情をしている時は、過激な解決策の方が多いんだよ!
「……あ、いや。でもさ……」
「なあ、青葉。俺の一番って誰だか知ってる?」
「? 夕月だろ?」
「もちろん、シノは特別だ。恋人だからね。……だけど親友として、友人での一番はお前だぞ? そのお前を、こんなふうにイライラさせる和基には俺もお灸を据えてやりたい」
「羽瀬川……」
なんだ、こいつ!
良い奴だけど……、ムズムズするじゃないか。しかも、俺が天邪鬼だと知ってのこれだ。
……こいつも大概、質が悪い。
「……酷いことには、ならないんだろうな?」
「ならないだろ。何なら、アフターフォローはしてやる。……ま、その心配は無いだろうがな」
「……じゃあ、頼む」
「りょーかい!」
ニコリと微笑む親友に、俺はちょっぴり背中に冷や汗を掻いていた。
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