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君と運命の糸で繋がっている
ずっと君が欲しかった
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宿に着いた後、鈴海は仕事をしないといけないからと言って、すぐ裏に回ってしまった。本当はもう少し藤との余韻を味わっていたかったのだが、そんな我儘を言うわけにもいかないので、朔也はそのまま宛がわれた部屋へと入った。
「失礼します」
夕食も風呂も済ませて、かなりの時間が経った頃、鈴海が姿を見せた。
「仕事は? もう済んだのか?」
「はい。もうみんな休んでいます」
かなり緊張しているのだろう。鈴海は落ち着かないようで、立ったままだ。手はぎこちなく、自分の着物を掴んだり離したりしている。
「おいで」
朔也は急く自分の気持ちを押し隠し、鈴海を手招きする。呼ばれた鈴海が、ぎこちなく朔也の前で正座した。
「緊張しすぎ」
「だ…、だって……」
朔也はそっと鈴海に顔を近づけて、少し開いた唇を軽く啄んだ。
一瞬の出来事に、鈴海がポカンとする。朔也にされた事に、どうやら頭がついて来れなかったらしい。
2、3度瞬いた後、真っ赤になった。
「さ、朔也っ!!」
真っ赤になって抗議する鈴海の顔を、朔也は楽しそうに見ていたが、すぐに真顔になって鈴海に向き合った。
「僕と藤は、恋人だった。僕にとっての彼は、唯一無二の存在で、それは生まれ変わりである君に対しても同じだ」
「朔也……」
鈴海は照れているのか戸惑っているのか、目をぱちぱちとさせながら赤い顔で朔也の顔を見ている。
「大丈夫。僕は辛抱強い方だから、君が本当に嫌がることはしないよ」
「い、嫌じゃないです!」
赤い顔のままの鈴海が、朔也の手をギュッと握る。突然の鈴海の行動に、今度は朔也の方が瞬いた。
「…正直、自分の気持ちがぐちゃぐちゃで、よく分からない事はあります…。だけど僕が戸惑っているのは、あなたとの関係ではないです…」
俯いて、ポツリポツリと自分の気持ちを吐露する鈴海。
朔也は急かすことなく、じっと聞き入った。そして、それに押されるように、鈴海は訥々と話を続けた。
「僕の前世は藤で、僕と藤とは魂が一緒だから同一人物だってことは分かるんですけど。…だけど、それなのに、僕は少し藤に嫉妬している。あなたとの過去に関わっている藤に……。同じはずなのに何も覚えていないし、共有できないことが…、すごく悔しくって……」
そう言って、鈴海は握りしめた手をそのままに、どうしたらいいのかという表情で朔也を見つめる。そのすがるような鈴海の表情に、朔也の胸の内に熱いものがこみ上げて来た。
「鈴海…」
朔也は握られているその手をそっと外して、鈴海の背中に腕を回す。そしてしっかりと抱き寄せた。
「藤と呼んでください…。僕は、僕は藤だから…」
朔也の胸に頬を擦りつけて縋るように言う鈴海に、先ほどこみ上げて来た熱い感情が愛しさへと変化する。朔也は鈴海をそっと押し倒して唇を重ね合わせた。
「失礼します」
夕食も風呂も済ませて、かなりの時間が経った頃、鈴海が姿を見せた。
「仕事は? もう済んだのか?」
「はい。もうみんな休んでいます」
かなり緊張しているのだろう。鈴海は落ち着かないようで、立ったままだ。手はぎこちなく、自分の着物を掴んだり離したりしている。
「おいで」
朔也は急く自分の気持ちを押し隠し、鈴海を手招きする。呼ばれた鈴海が、ぎこちなく朔也の前で正座した。
「緊張しすぎ」
「だ…、だって……」
朔也はそっと鈴海に顔を近づけて、少し開いた唇を軽く啄んだ。
一瞬の出来事に、鈴海がポカンとする。朔也にされた事に、どうやら頭がついて来れなかったらしい。
2、3度瞬いた後、真っ赤になった。
「さ、朔也っ!!」
真っ赤になって抗議する鈴海の顔を、朔也は楽しそうに見ていたが、すぐに真顔になって鈴海に向き合った。
「僕と藤は、恋人だった。僕にとっての彼は、唯一無二の存在で、それは生まれ変わりである君に対しても同じだ」
「朔也……」
鈴海は照れているのか戸惑っているのか、目をぱちぱちとさせながら赤い顔で朔也の顔を見ている。
「大丈夫。僕は辛抱強い方だから、君が本当に嫌がることはしないよ」
「い、嫌じゃないです!」
赤い顔のままの鈴海が、朔也の手をギュッと握る。突然の鈴海の行動に、今度は朔也の方が瞬いた。
「…正直、自分の気持ちがぐちゃぐちゃで、よく分からない事はあります…。だけど僕が戸惑っているのは、あなたとの関係ではないです…」
俯いて、ポツリポツリと自分の気持ちを吐露する鈴海。
朔也は急かすことなく、じっと聞き入った。そして、それに押されるように、鈴海は訥々と話を続けた。
「僕の前世は藤で、僕と藤とは魂が一緒だから同一人物だってことは分かるんですけど。…だけど、それなのに、僕は少し藤に嫉妬している。あなたとの過去に関わっている藤に……。同じはずなのに何も覚えていないし、共有できないことが…、すごく悔しくって……」
そう言って、鈴海は握りしめた手をそのままに、どうしたらいいのかという表情で朔也を見つめる。そのすがるような鈴海の表情に、朔也の胸の内に熱いものがこみ上げて来た。
「鈴海…」
朔也は握られているその手をそっと外して、鈴海の背中に腕を回す。そしてしっかりと抱き寄せた。
「藤と呼んでください…。僕は、僕は藤だから…」
朔也の胸に頬を擦りつけて縋るように言う鈴海に、先ほどこみ上げて来た熱い感情が愛しさへと変化する。朔也は鈴海をそっと押し倒して唇を重ね合わせた。
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