145 / 161
君と運命の糸で繋がっている
他人から与えられる温もり3
しおりを挟む
「朔也ー、悪い。川越さんまで至急みたらし団子を届けてくれないかな」
「はい、わかりました」
めったに出前とかは無いのだが、たまにこうやって配達を受けることもある。そういう時は手の空いている者が出前を受け持つことになっていた。
川越はお茶の教室を開いていて、一年に二、三度お弟子さんたちと労いの会をするようだった。そしてその際は大抵『甘味処つばき』に注文してくれるのだ。
朔也は十人分のみたらし団子を手に、川越へと急いだ。包みに入ったそれは出来立てで熱々だ。出来ればなるべくその美味しい状態で届けたい。それは真摯に真心こめて商品を作っている職人たちへの、朔也の思いでもあった。
「ちはー。つばきです。みたらし団子をお持ちしました」
「はーい」
奥から若い女性がいそいそと出てきた。視線は朔也の手元の包みへと注がれている。
「これ、お代ね。前回のツケの分も一緒になっているから」
そう言われて渡された金額を朔也は素早く計算し、合っている事を確認した。
「確かに。ありがとうございました。またよろしくお願いします」
朔也はぺこりと挨拶をして川越を後にした。
行きは急いでいたので川越に行く事だけを考えていたが、帰りはのんびりと歩きながら、いつもの癖で辺りを見回しながらゆっくり歩く。
遠くを歩く子供の顔や、すれ違っていく子供の後姿を、朔也はぼんやりと眺めていた。
徐に視線を遠くへと向けた朔也の顔が、ピクリと動く。母親に抱きかかえられているその子供の表情が、藤のソレとダブったのだ。
意識を集中して藤なのかと確認をするが、その子を見ても、魂が揺さぶられるものは何もなかった。
初めて藤を見た時、彼は何者かに襲われた直後で、血にまみれて虫の息で青白い顔をしていた。そんな状態だったから、藤が可愛いかどうかなんて分からなかったし、顔を覗き込んだわけじゃない。
それなのに、朔也は助けなければと思ったのだ。あれほど複雑な感情を人間に持っていたのに。
これはどう考えても理屈ではない。朔也にとっての藤は、まるで魂が欲するように、只々惹かれる存在だと言えるだろう。
だから逆に気づいてしまう。
どんなに可愛い表情でも、どんなに仕草が似通っていても…。
朔也は店への帰り道、気が抜けたようにトボトボと歩いていた。
ときどき、冷えた心に突きつけられる現実。
それは藤を探したいと思えば思う程、嫌になるくらいに突き付けられる。
藤の生まれ変わり…。
そんなものはどこにも居ないのだと。
空は青く澄み渡っている。
それが余計に悲しかった。
朔也はそっと瞳を閉じた。自嘲した笑みが、朔也の口元に浮かぶ。
いつまで僕はそんな夢を見ているんだろう。
「朔也ー!」
離れた所から朔也を呼ぶ明日蘭の声が聞こえた。
目を開けて振り返った先には、元気よく手を振る明日蘭の姿。
「休憩、一緒に取っても良いって! みたらし一緒に食べよう!」
明るく手を振る明日蘭の姿に、朔也は彼に癒されている事をつくづく痛感していた。
「はい、わかりました」
めったに出前とかは無いのだが、たまにこうやって配達を受けることもある。そういう時は手の空いている者が出前を受け持つことになっていた。
川越はお茶の教室を開いていて、一年に二、三度お弟子さんたちと労いの会をするようだった。そしてその際は大抵『甘味処つばき』に注文してくれるのだ。
朔也は十人分のみたらし団子を手に、川越へと急いだ。包みに入ったそれは出来立てで熱々だ。出来ればなるべくその美味しい状態で届けたい。それは真摯に真心こめて商品を作っている職人たちへの、朔也の思いでもあった。
「ちはー。つばきです。みたらし団子をお持ちしました」
「はーい」
奥から若い女性がいそいそと出てきた。視線は朔也の手元の包みへと注がれている。
「これ、お代ね。前回のツケの分も一緒になっているから」
そう言われて渡された金額を朔也は素早く計算し、合っている事を確認した。
「確かに。ありがとうございました。またよろしくお願いします」
朔也はぺこりと挨拶をして川越を後にした。
行きは急いでいたので川越に行く事だけを考えていたが、帰りはのんびりと歩きながら、いつもの癖で辺りを見回しながらゆっくり歩く。
遠くを歩く子供の顔や、すれ違っていく子供の後姿を、朔也はぼんやりと眺めていた。
徐に視線を遠くへと向けた朔也の顔が、ピクリと動く。母親に抱きかかえられているその子供の表情が、藤のソレとダブったのだ。
意識を集中して藤なのかと確認をするが、その子を見ても、魂が揺さぶられるものは何もなかった。
初めて藤を見た時、彼は何者かに襲われた直後で、血にまみれて虫の息で青白い顔をしていた。そんな状態だったから、藤が可愛いかどうかなんて分からなかったし、顔を覗き込んだわけじゃない。
それなのに、朔也は助けなければと思ったのだ。あれほど複雑な感情を人間に持っていたのに。
これはどう考えても理屈ではない。朔也にとっての藤は、まるで魂が欲するように、只々惹かれる存在だと言えるだろう。
だから逆に気づいてしまう。
どんなに可愛い表情でも、どんなに仕草が似通っていても…。
朔也は店への帰り道、気が抜けたようにトボトボと歩いていた。
ときどき、冷えた心に突きつけられる現実。
それは藤を探したいと思えば思う程、嫌になるくらいに突き付けられる。
藤の生まれ変わり…。
そんなものはどこにも居ないのだと。
空は青く澄み渡っている。
それが余計に悲しかった。
朔也はそっと瞳を閉じた。自嘲した笑みが、朔也の口元に浮かぶ。
いつまで僕はそんな夢を見ているんだろう。
「朔也ー!」
離れた所から朔也を呼ぶ明日蘭の声が聞こえた。
目を開けて振り返った先には、元気よく手を振る明日蘭の姿。
「休憩、一緒に取っても良いって! みたらし一緒に食べよう!」
明るく手を振る明日蘭の姿に、朔也は彼に癒されている事をつくづく痛感していた。
10
お気に入りに追加
234
あなたにおすすめの小説

僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

記憶の代償
槇村焔
BL
「あんたの乱れた姿がみたい」
ーダウト。
彼はとても、俺に似ている。だから、真実の言葉なんて口にできない。
そうわかっていたのに、俺は彼に抱かれてしまった。
だから、記憶がなくなったのは、その代償かもしれない。
昔書いていた記憶の代償の完結・リメイクバージョンです。
いつか完結させねばと思い、今回執筆しました。
こちらの作品は2020年BLOVEコンテストに応募した作品です


見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています

代わりでいいから
氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。
不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。
ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。
他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。
鈴木さんちの家政夫
ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる