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優しい人たち
親子ごっこ2
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佐紀は家路をゆっくりと、藤と共に歩いていた。
「ねえ、藤」
「何? おばさん」
「朔也と2人でおばさんたちの子にならない?」
「…え?」
びっくりして藤が佐紀の顔を見る。そして朔也が油断するなと言っていた事を思い出した。
「ごめん、それは無理だよ」
「どうして?」
「……だって」
自分をじっと見つめる佐紀に、なんと説明をすればいいのか分からなくて、藤は目を伏せて俯いた。本当は、もしも藤が人間だったのなら、一も二もなく頷いていたはずだ。
何より佐紀は優しいし、藤が親のいる温かな家庭を欲さないと言えば嘘になる。
「おばさんちの子供になるのは不安?」
「…そういう事じゃ……」
藤の顔を覗き込みながら、優しく問いかける佐紀と目を合わせることが出来なくて、藤はもごもごと言い訳をするのが精一杯だ。
「じゃあ、お試しに一週間くらいお家に泊まりに来ない?」
「え?」
目を見開いて顔を上げた藤に、佐紀はにこりと笑う。
「それでダメだと思うのならおばさんも諦めるわ。でも、こんなに藤と仲良くなれたんだもの。おばさんはきっと大丈夫だと思うの」
ね?と言いながら、藤の手を両手で握りしめる佐紀に、藤は首を横に振ることが出来なかった。
ある程度送った後、佐紀と別れた藤が朔也の待つ家へと帰り着く。どうしたものかと考えながら言葉少なに戻って来た藤に、朔也は自分の勘が当たってしまったことを確信していた。
「何か言われたか?」
「……うん。おばさんちの子供にならないかって」
「やっぱりな…。で? もちろん断ったんだろ?」
「…断ったよ。でも、なんで?って聞かれて答えられなかった」
俯いて、畳の上にのの字を書き始める藤。朔也は眉間にしわを寄せた。
「それで、どうなったんだ?」
「…一週間くらい泊まりに来いって」
「行くのか?」
低く機嫌の悪い朔也の声。
朔也の心配は藤にだって嫌というほど分かっている。だけどあの状況でどうやって、佐紀の誘いを断ることが出来たというのだろう。
藤は本当に佐紀の事が好きだし、邪険になんてしたくはないのだ。
「仕方ないじゃない…。優しい顔でぼくらを引き取りたいって言ってくれてるんだよ。あんまり冷たい事…、言えないよ」
「……」
「ねえ、朔也…」
「僕は行かないよ。なんなら君の事も、断って来てもいい」
「朔也…」
藤は眉を下げた情けない顔で、しかも微妙にウルウルした瞳で朔也を見上げる。
(ほんとにこいつは質が悪い…)藤にじっと見つめられた朔也は、そっとため息を吐いていた。
「君はあの夫婦と一緒に住みたいと思っているのか?」
「まさか…っ。そんな事、ないよ…」
「……」
「朔也…」
「…分かった。行ってくると良いよ。ただし、その一週間のお泊りを終えたら、ちゃんと断るって約束してくれ」
「朔也…! うん。もちろん、そうする」
先程までのしょげた顔はどこへやら、一変して明るい表情になった藤に、また朔也は軽くため息を吐いた。
「僕は行かないからね」
「え? なんで?」
「行く気が無いからな。それに、僕が行ったら藤の大好きなおばさんに、素っ気なくあしらってしまいそうだし」
「そう…なんだ」
「藤」
「うん?」
呼ばれて顔を上げた藤に、朔也は真剣な表情で釘を刺した。
「バレないように、気を引き締めろよ。…一週間は結構長いぞ」
「……分かった」
神妙な顔で頷く藤だが、朔也の心には一抹の不安がよぎる。
それでも、今回は自分が傍にいない方が良いと思った。人間と一緒に住むという事の重大さを、早いうちから知ってもらうには多少の荒療治は仕方がないと考えたのだ。
大人の姿に成りきるまでには、まだまだ時間がかかる。それまでは、こうやって思いもよらないところから厄介な事が舞い込んでしまう事もあるのだろう。
佐紀夫婦の家に泊まりに行くことに、期待と不安の入り混じった表情を浮かべる藤を見ながら、朔也は改めて気を引き締めていた。
「ねえ、藤」
「何? おばさん」
「朔也と2人でおばさんたちの子にならない?」
「…え?」
びっくりして藤が佐紀の顔を見る。そして朔也が油断するなと言っていた事を思い出した。
「ごめん、それは無理だよ」
「どうして?」
「……だって」
自分をじっと見つめる佐紀に、なんと説明をすればいいのか分からなくて、藤は目を伏せて俯いた。本当は、もしも藤が人間だったのなら、一も二もなく頷いていたはずだ。
何より佐紀は優しいし、藤が親のいる温かな家庭を欲さないと言えば嘘になる。
「おばさんちの子供になるのは不安?」
「…そういう事じゃ……」
藤の顔を覗き込みながら、優しく問いかける佐紀と目を合わせることが出来なくて、藤はもごもごと言い訳をするのが精一杯だ。
「じゃあ、お試しに一週間くらいお家に泊まりに来ない?」
「え?」
目を見開いて顔を上げた藤に、佐紀はにこりと笑う。
「それでダメだと思うのならおばさんも諦めるわ。でも、こんなに藤と仲良くなれたんだもの。おばさんはきっと大丈夫だと思うの」
ね?と言いながら、藤の手を両手で握りしめる佐紀に、藤は首を横に振ることが出来なかった。
ある程度送った後、佐紀と別れた藤が朔也の待つ家へと帰り着く。どうしたものかと考えながら言葉少なに戻って来た藤に、朔也は自分の勘が当たってしまったことを確信していた。
「何か言われたか?」
「……うん。おばさんちの子供にならないかって」
「やっぱりな…。で? もちろん断ったんだろ?」
「…断ったよ。でも、なんで?って聞かれて答えられなかった」
俯いて、畳の上にのの字を書き始める藤。朔也は眉間にしわを寄せた。
「それで、どうなったんだ?」
「…一週間くらい泊まりに来いって」
「行くのか?」
低く機嫌の悪い朔也の声。
朔也の心配は藤にだって嫌というほど分かっている。だけどあの状況でどうやって、佐紀の誘いを断ることが出来たというのだろう。
藤は本当に佐紀の事が好きだし、邪険になんてしたくはないのだ。
「仕方ないじゃない…。優しい顔でぼくらを引き取りたいって言ってくれてるんだよ。あんまり冷たい事…、言えないよ」
「……」
「ねえ、朔也…」
「僕は行かないよ。なんなら君の事も、断って来てもいい」
「朔也…」
藤は眉を下げた情けない顔で、しかも微妙にウルウルした瞳で朔也を見上げる。
(ほんとにこいつは質が悪い…)藤にじっと見つめられた朔也は、そっとため息を吐いていた。
「君はあの夫婦と一緒に住みたいと思っているのか?」
「まさか…っ。そんな事、ないよ…」
「……」
「朔也…」
「…分かった。行ってくると良いよ。ただし、その一週間のお泊りを終えたら、ちゃんと断るって約束してくれ」
「朔也…! うん。もちろん、そうする」
先程までのしょげた顔はどこへやら、一変して明るい表情になった藤に、また朔也は軽くため息を吐いた。
「僕は行かないからね」
「え? なんで?」
「行く気が無いからな。それに、僕が行ったら藤の大好きなおばさんに、素っ気なくあしらってしまいそうだし」
「そう…なんだ」
「藤」
「うん?」
呼ばれて顔を上げた藤に、朔也は真剣な表情で釘を刺した。
「バレないように、気を引き締めろよ。…一週間は結構長いぞ」
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それでも、今回は自分が傍にいない方が良いと思った。人間と一緒に住むという事の重大さを、早いうちから知ってもらうには多少の荒療治は仕方がないと考えたのだ。
大人の姿に成りきるまでには、まだまだ時間がかかる。それまでは、こうやって思いもよらないところから厄介な事が舞い込んでしまう事もあるのだろう。
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