きみと運命の糸で繋がっている

くるむ

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優しい人たち

佐紀との約束

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「藤はお父さんやお母さんがいなくて、寂しくないの?」

他愛ない話をのんびり話している時に、佐紀が藤に問いかけた。
藤は顔を上げ、朔也の方を向いた。その時、パチッと朔也と目が合う。
それにニコリと微笑んだ後、また視線を佐紀に向けた。

「寂しくないって言えば嘘になるけど…。でも、ぼくには朔也がいるから」

その表情はいたって穏やかで、強がりを言っているようには見えなかった。

「そう…」
「はい」

「ねえ、藤? また会ってくれる?」
「え?」
「こんなおばちゃんだけど」

悪戯っぽく笑いながら言う佐紀に、藤もつられて笑った。

「はい。おばさん優しいし。ぼくもまた会いたいです」
「そう、嬉しいわ。約束よ?」

佐紀が指切り、と小指を藤の前に差し出した。
それに笑って応えた藤は、自分も小指を差し出して2人で拳万をする。



想像していたよりも穏やかに楽しく過ごせた藤は、来て良かったと心の底から思っていた。


「随分気が合ってたみたいだね。佐紀さんと」
「うん。凄く優しいおばさんだった! また会おうって約束したよ」
「…そうか」

家に帰りくつろいで、朔也の隣でゴロゴロと甘えている時の会話だ。機嫌の良かった藤だったが、朔也の声音が微妙に慎重にも聞こえる。

「朔也?」
藤は怪訝な顔をして朔也を見た。

「もしかしてあのおばさんも、朔也には何か引っかかるものがあるの?」
「…そうじゃないよ。いい人だとは思うよ。だけどあんまり懐いてもらいたくはないかな」
「懐くって…。ぼく犬じゃないよ?」

「そういう事を言ってるんじゃないよ…。分かるだろ?」

朔也は手を伸ばして、藤の髪をクシャリと混ぜた。その表情は、かなり深刻そうだ。
藤は朔也が何を心配しているのかはわからなかったが、朔也の心配が大抵的を外すことの無い事は経験上分かっていたので、藤は反論をせず、じっと朔也の表情を見つめていた。

朔也の慎重さが伝染したかのように戸惑う表情をする藤に、朔也は少し苦笑して藤の頬を撫でた。

「悪い。そんな深刻にならなくてもいいよ。ただ、相手は人間だから、あまり油断はしないでくれな」
「…うん」


朔也はそのまま藤の顔を上向かせて顔を近づける。
朔也の意図に気付いた藤が、頬を赤く染めた。


朔也は藤の唇を軽く啄んだ後、深いキスに移行する。甘く強く絡まる朔也の舌に翻弄され、藤は甘い声を漏らしていた。
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