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優しい人たち
丞の家族
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朔也と藤がお互いの気持ちを打ち明けあってから、数日が経った。
そんな中、丞の父親の仕事がひと段落付き、朔也たちは夕食に招待されていた。
「おっきなお家だね…」
丞の家に来るのは初めてな藤は、自分たちの家に比べるとその四倍はあるかと思われる大きさに目を丸くしていた。
「入ろうか」
「…うん」
「今晩はー」
朔也の声に丞がいそいそとやって来る。
「いらっしゃい、朔也! …藤も。みんなお待ちかねだよ」
丞の後ろから丞の母親の信乃と、叔母の佐紀も顔を出した。
「まあ、まあ。いらっしゃい朔也、みんな待っていたわよ。…あなたが、藤?」
丞の母親に優しい笑顔のまま顔を向けられて、藤が緊張の面持ちでぺこりとお辞儀をする。
「はい、えっと…。今日はぼくまでお招きいただいてありがとうございます。朔也が、その…。お世話になりました!」
たどたどしいながらも精いっぱいの挨拶をする藤に、そこにいる丞以外のみんなが好感を抱いた。
「藤…? 可愛らしいわね」
可愛いと褒められて真っ赤になる藤の横で、朔也が首を傾げる。
朔也は丞の叔母と会うのは初めてで、見覚えが無かったのだ。
「あ、ごめんなさい。自己紹介がまだだったわね。私は丞の叔母で佐紀っていうの。よろしくね」
「失礼しました。朔也といいます。こちらこそよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる朔也を見て、藤も慌ててもう一度ぺこりと頭を下げた。
丞の家での夕食は穏やかでとてもいい雰囲気だった。
丞の父親が、寺子屋でのみんなの様子を聞いたり、何気ない日常の楽しい話題を振ったりして何かと朔也と藤に気を遣ってくれていた。
藤はいささか肩透かしを食らった気分だった。
丞自体が寺子屋のみんなを下に見ている傾向があると龍二から聞いていたので、その親ならなおさら酷いのだろうと勝手に想像していたのだ。
しかも丞の叔父夫婦…、特に佐紀は、優しく微笑みながら藤の他愛のない話を聞きたがった。
「佐紀、藤のこと気に入っちゃったみたいね」
「…そうですね」
「藤って、なんなんだよ」
「丞?」
不貞腐れともとれる口調で文句を言う丞に、母親の信乃が振り返った。
「だってさ、ただの甘えん坊のくせに、なんでだかみんなあいつの事気に入ったりするんだよな」
「あら、妬いてるの?」
「そ、そんなんじゃないよ! 不思議だなーって思っただけで!」
真っ赤になって反論する丞を、揶揄うように笑っていた信乃だったが、視線を藤と佐紀に向ける。
「子供がいないからね…。寂しいと思っているんじゃないかしら」
視線を固定したまましみじみと呟く信乃に、朔也が密かに眉を顰める。
なぜだか嫌な予感が朔也の脳裏を過ぎった。
そんな中、丞の父親の仕事がひと段落付き、朔也たちは夕食に招待されていた。
「おっきなお家だね…」
丞の家に来るのは初めてな藤は、自分たちの家に比べるとその四倍はあるかと思われる大きさに目を丸くしていた。
「入ろうか」
「…うん」
「今晩はー」
朔也の声に丞がいそいそとやって来る。
「いらっしゃい、朔也! …藤も。みんなお待ちかねだよ」
丞の後ろから丞の母親の信乃と、叔母の佐紀も顔を出した。
「まあ、まあ。いらっしゃい朔也、みんな待っていたわよ。…あなたが、藤?」
丞の母親に優しい笑顔のまま顔を向けられて、藤が緊張の面持ちでぺこりとお辞儀をする。
「はい、えっと…。今日はぼくまでお招きいただいてありがとうございます。朔也が、その…。お世話になりました!」
たどたどしいながらも精いっぱいの挨拶をする藤に、そこにいる丞以外のみんなが好感を抱いた。
「藤…? 可愛らしいわね」
可愛いと褒められて真っ赤になる藤の横で、朔也が首を傾げる。
朔也は丞の叔母と会うのは初めてで、見覚えが無かったのだ。
「あ、ごめんなさい。自己紹介がまだだったわね。私は丞の叔母で佐紀っていうの。よろしくね」
「失礼しました。朔也といいます。こちらこそよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる朔也を見て、藤も慌ててもう一度ぺこりと頭を下げた。
丞の家での夕食は穏やかでとてもいい雰囲気だった。
丞の父親が、寺子屋でのみんなの様子を聞いたり、何気ない日常の楽しい話題を振ったりして何かと朔也と藤に気を遣ってくれていた。
藤はいささか肩透かしを食らった気分だった。
丞自体が寺子屋のみんなを下に見ている傾向があると龍二から聞いていたので、その親ならなおさら酷いのだろうと勝手に想像していたのだ。
しかも丞の叔父夫婦…、特に佐紀は、優しく微笑みながら藤の他愛のない話を聞きたがった。
「佐紀、藤のこと気に入っちゃったみたいね」
「…そうですね」
「藤って、なんなんだよ」
「丞?」
不貞腐れともとれる口調で文句を言う丞に、母親の信乃が振り返った。
「だってさ、ただの甘えん坊のくせに、なんでだかみんなあいつの事気に入ったりするんだよな」
「あら、妬いてるの?」
「そ、そんなんじゃないよ! 不思議だなーって思っただけで!」
真っ赤になって反論する丞を、揶揄うように笑っていた信乃だったが、視線を藤と佐紀に向ける。
「子供がいないからね…。寂しいと思っているんじゃないかしら」
視線を固定したまましみじみと呟く信乃に、朔也が密かに眉を顰める。
なぜだか嫌な予感が朔也の脳裏を過ぎった。
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