105 / 161
優しい人たち
戸惑う朔也
しおりを挟む
「ねえ、朔也。朔也ってば」
藤と宰牙の事が気になって目で追っていた朔也の袖を、丞が引っ張る。
「ああ、何?」
「夕食に招待した件だけどさ、あれ、来週辺りの話なんだって…」
「へえ?」
「お父様の仕事、もう片付くはずだったんだけど、ちょっと問題が起きちゃって手間取ってるみたいなんだ。お父様ももてなしがしたいから、仕事がちゃんと落ち着いてから招待したいって言ってた」
「そうなんだ。別にこっちは構わないよ」
「おい、そろそろ帰ろうぜ」
雫が奏汰と一緒に朔也たちの傍に来て、丞を呼んだ。
「ああ、そうだね。陽もそろそろ落ちてきた」
立ち上がる丞に、朔也も一緒に腰を上げる。
その様子に、宰牙も柊も奏汰たちのもとに合流した。
「明日は2人共ちゃんと来るんだろ?」
「ああ」
「うん。もちろん行くよ」
「じゃあなー」
手を振り四人がそれぞれの家に帰っていく。それを同じように手を振り返して見ていた2人だったが、互いに小さくため息を吐いていた。
特に、藤は。
朔也だけではなく、宰牙にまで甘えていると言われたことが気になっていた。
「少し頑張ってみようかな…」
「え?」
ポロリと零れた言葉に、朔也が振り返って藤を見る。
「ううん、何でもない。独り言だから」
そう言って笑う藤に、朔也は小首を傾げた。
翌日、寺子屋での藤は少し感じが違っていた。最年少の真輝に声を掛けられた時も、普段なら適当に相槌を打って終わりだったが、根気よく話を聞いたりして、始終朔也にくっ付いているいつもの藤とは別人のようにも見えた。
「……」
「どうしちゃったんだ、藤は? なんかいつもと違う」
「だよね。僕が朔也の傍に来たら、いつもは割って入るのに、今日は気にもしてないみたい」
朔也の傍で、藤の様子を丞と雫が興味津々に見ている。傍では奏汰が、複雑な表情で朔也を見ていた。
「なんか複雑だよね」
小さな声で、朔也だけに聞こえるようにポツリと奏汰が話しかけた。
「……」
「確かに藤はさ、朔也に甘え過ぎてるところはあるかもしれないけど、大事な人が自分だけを頼ってくれるのって、なんだかんだ言ってもさ、本音では嬉しかったりするだろ?」
その言葉に同意するように、返事こそしないが朔也が奏汰に視線を向ける。
「俺だって雫には甘えてもらった方が嬉しいもん」
「そうだな」
「ホラ、みんな席に着けー。始めるぞ」
龍二が入って来て、皆を席に促す。
今日は藤の苦手な算数からだった。
藤は、家から持ってきていた過去に解いた問題を見ながら、龍二に渡された課題に取り組んでいた。前に出した復習だと龍二に聞かされたからだ。
いつもなら、すぐに朔也に相談してくる藤と違うのは明らかで、朔也はどうにも落ち着かない。
本来なら、藤のその姿勢を褒めてやらなければならないのだろうが、そんな気分にはとてもなれなかった。それでついつい自分から藤に声を掛けてしまう。
「…分かるのか? 藤」
「ん~、ちょっと待って。多分これじゃないかと…」
そう言って、以前勉強した紙とを交互に見比べて頷いた。
「分かるかもしれない。頑張ってやってみる」
「…そうか、頑張れ」
「うん」
嬉しそうにやる気になっている藤に文句を言うわけにもいかず、朔也は微妙な気分のまま藤にエールを送った。その後も藤は、本当に分からない時以外はすべて一人で課題に取り組んでいた。
藤と宰牙の事が気になって目で追っていた朔也の袖を、丞が引っ張る。
「ああ、何?」
「夕食に招待した件だけどさ、あれ、来週辺りの話なんだって…」
「へえ?」
「お父様の仕事、もう片付くはずだったんだけど、ちょっと問題が起きちゃって手間取ってるみたいなんだ。お父様ももてなしがしたいから、仕事がちゃんと落ち着いてから招待したいって言ってた」
「そうなんだ。別にこっちは構わないよ」
「おい、そろそろ帰ろうぜ」
雫が奏汰と一緒に朔也たちの傍に来て、丞を呼んだ。
「ああ、そうだね。陽もそろそろ落ちてきた」
立ち上がる丞に、朔也も一緒に腰を上げる。
その様子に、宰牙も柊も奏汰たちのもとに合流した。
「明日は2人共ちゃんと来るんだろ?」
「ああ」
「うん。もちろん行くよ」
「じゃあなー」
手を振り四人がそれぞれの家に帰っていく。それを同じように手を振り返して見ていた2人だったが、互いに小さくため息を吐いていた。
特に、藤は。
朔也だけではなく、宰牙にまで甘えていると言われたことが気になっていた。
「少し頑張ってみようかな…」
「え?」
ポロリと零れた言葉に、朔也が振り返って藤を見る。
「ううん、何でもない。独り言だから」
そう言って笑う藤に、朔也は小首を傾げた。
翌日、寺子屋での藤は少し感じが違っていた。最年少の真輝に声を掛けられた時も、普段なら適当に相槌を打って終わりだったが、根気よく話を聞いたりして、始終朔也にくっ付いているいつもの藤とは別人のようにも見えた。
「……」
「どうしちゃったんだ、藤は? なんかいつもと違う」
「だよね。僕が朔也の傍に来たら、いつもは割って入るのに、今日は気にもしてないみたい」
朔也の傍で、藤の様子を丞と雫が興味津々に見ている。傍では奏汰が、複雑な表情で朔也を見ていた。
「なんか複雑だよね」
小さな声で、朔也だけに聞こえるようにポツリと奏汰が話しかけた。
「……」
「確かに藤はさ、朔也に甘え過ぎてるところはあるかもしれないけど、大事な人が自分だけを頼ってくれるのって、なんだかんだ言ってもさ、本音では嬉しかったりするだろ?」
その言葉に同意するように、返事こそしないが朔也が奏汰に視線を向ける。
「俺だって雫には甘えてもらった方が嬉しいもん」
「そうだな」
「ホラ、みんな席に着けー。始めるぞ」
龍二が入って来て、皆を席に促す。
今日は藤の苦手な算数からだった。
藤は、家から持ってきていた過去に解いた問題を見ながら、龍二に渡された課題に取り組んでいた。前に出した復習だと龍二に聞かされたからだ。
いつもなら、すぐに朔也に相談してくる藤と違うのは明らかで、朔也はどうにも落ち着かない。
本来なら、藤のその姿勢を褒めてやらなければならないのだろうが、そんな気分にはとてもなれなかった。それでついつい自分から藤に声を掛けてしまう。
「…分かるのか? 藤」
「ん~、ちょっと待って。多分これじゃないかと…」
そう言って、以前勉強した紙とを交互に見比べて頷いた。
「分かるかもしれない。頑張ってやってみる」
「…そうか、頑張れ」
「うん」
嬉しそうにやる気になっている藤に文句を言うわけにもいかず、朔也は微妙な気分のまま藤にエールを送った。その後も藤は、本当に分からない時以外はすべて一人で課題に取り組んでいた。
10
お気に入りに追加
234
あなたにおすすめの小説

僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

記憶の代償
槇村焔
BL
「あんたの乱れた姿がみたい」
ーダウト。
彼はとても、俺に似ている。だから、真実の言葉なんて口にできない。
そうわかっていたのに、俺は彼に抱かれてしまった。
だから、記憶がなくなったのは、その代償かもしれない。
昔書いていた記憶の代償の完結・リメイクバージョンです。
いつか完結させねばと思い、今回執筆しました。
こちらの作品は2020年BLOVEコンテストに応募した作品です


見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています

代わりでいいから
氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。
不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。
ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。
他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。
鈴木さんちの家政夫
ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる