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優しい人たち
一休み…
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「遅いね…」
「そうだな」
ため息とともに朔也が立ち上がった。
「追い出してくる」
「え?」
ある程度なら待つ気でいたが、考えてみれば他人の家で堂々とああいう真似をしている神経もいただけない。朔也は業を煮やして、家に向かって歩きだす。そして戸口を開こうと手を伸ばしたところで、いきなり前の戸がガラガラと音を立てた。
「あ! 朔也…」
「は? 君たちだったのか」
朔也の素っ頓狂な声に、後ろから恐る恐るついてきていた藤もびっくりして目を丸めた。
「あ~、もしかして待っててくれてた?」
「まあな」
呆れたような口調で返事をする朔也に、奏汰もバツの悪そうな顔をする。その後ろから雫も顔を出して、ちょっぴり顔を赤くした。
姿を見ずして察せられたという事は、おそらく自分の声が外まで漏れていたのだろうと見当がついて、さすがの雫も恥ずかしいと思ったのだ。
「…で? 何か用なのか?」
他人の情事に興味のない朔也は、変な気まずさを払拭しようと話題を変えた。
「ああ、それ! 昨日休んだろ、寺子屋。丞が家に誰もいなかったって大騒ぎしてたからさ、気になって見に来たんだよ」
「そうか。悪かったな」
今度は朔也と藤が顔を見合わせてバツの悪そうな表情になる。
「ちょっと藤と喧嘩してさ。家を飛び出したりの大騒動になっちゃったんだよ」
「え! 家出したの!? 藤が?」
「…なんでぼくだって分かるんだよ」
あまりの図星に、藤がふてくされて雫を睨む。
「だって、朔也が自棄になって家を飛び出すなんて考えられないもの。やっぱ当たってたんだ?」
「……」
「まあいいだろ、雫。それより、これからどうするんだ? 朔也たちは寺子屋に行くのか?」
「いや、ちょっと疲れたから今日は休もうって藤と話してたんだ」
「そう、か」
朔也は首をコキコキと動かしながら家に入っていく。藤もそのあとに続いた。
「君らはどうするんだ?」
「これから寺子屋に行くよ。遅れたけど、まあいいだろ」
「そうか。じゃあ、また明日」
「ああ、お邪魔して悪かったな。明日な」
朔也と藤に挨拶を交わした後、奏汰たちは元気よく寺子屋へと歩いて行った。
布団を敷いて、コロリと寝転ぶ。
よほど気を張って疲れていたのだろう。朔也はそう間をおかずに、軽い寝息を立て始める。
寝つきは確かに悪い方ではないが、こんなにすぐに寝入る朔也を見るのは初めてだった。
「…疲れてたんだな」
俯せになって顎の下に手を置いて、藤は朔也をじっと見つめる。そうやって朔也の寝顔を見ている内に、藤もだんだん瞼が重くなってきた。
ゴソゴソと、そのまま匍匐前進をして朔也の傍に這って行った藤は、寝入る朔也にぴったりとくっ付く。
そして藤もまた、健やかな眠りへと落ちて行った。
「そうだな」
ため息とともに朔也が立ち上がった。
「追い出してくる」
「え?」
ある程度なら待つ気でいたが、考えてみれば他人の家で堂々とああいう真似をしている神経もいただけない。朔也は業を煮やして、家に向かって歩きだす。そして戸口を開こうと手を伸ばしたところで、いきなり前の戸がガラガラと音を立てた。
「あ! 朔也…」
「は? 君たちだったのか」
朔也の素っ頓狂な声に、後ろから恐る恐るついてきていた藤もびっくりして目を丸めた。
「あ~、もしかして待っててくれてた?」
「まあな」
呆れたような口調で返事をする朔也に、奏汰もバツの悪そうな顔をする。その後ろから雫も顔を出して、ちょっぴり顔を赤くした。
姿を見ずして察せられたという事は、おそらく自分の声が外まで漏れていたのだろうと見当がついて、さすがの雫も恥ずかしいと思ったのだ。
「…で? 何か用なのか?」
他人の情事に興味のない朔也は、変な気まずさを払拭しようと話題を変えた。
「ああ、それ! 昨日休んだろ、寺子屋。丞が家に誰もいなかったって大騒ぎしてたからさ、気になって見に来たんだよ」
「そうか。悪かったな」
今度は朔也と藤が顔を見合わせてバツの悪そうな表情になる。
「ちょっと藤と喧嘩してさ。家を飛び出したりの大騒動になっちゃったんだよ」
「え! 家出したの!? 藤が?」
「…なんでぼくだって分かるんだよ」
あまりの図星に、藤がふてくされて雫を睨む。
「だって、朔也が自棄になって家を飛び出すなんて考えられないもの。やっぱ当たってたんだ?」
「……」
「まあいいだろ、雫。それより、これからどうするんだ? 朔也たちは寺子屋に行くのか?」
「いや、ちょっと疲れたから今日は休もうって藤と話してたんだ」
「そう、か」
朔也は首をコキコキと動かしながら家に入っていく。藤もそのあとに続いた。
「君らはどうするんだ?」
「これから寺子屋に行くよ。遅れたけど、まあいいだろ」
「そうか。じゃあ、また明日」
「ああ、お邪魔して悪かったな。明日な」
朔也と藤に挨拶を交わした後、奏汰たちは元気よく寺子屋へと歩いて行った。
布団を敷いて、コロリと寝転ぶ。
よほど気を張って疲れていたのだろう。朔也はそう間をおかずに、軽い寝息を立て始める。
寝つきは確かに悪い方ではないが、こんなにすぐに寝入る朔也を見るのは初めてだった。
「…疲れてたんだな」
俯せになって顎の下に手を置いて、藤は朔也をじっと見つめる。そうやって朔也の寝顔を見ている内に、藤もだんだん瞼が重くなってきた。
ゴソゴソと、そのまま匍匐前進をして朔也の傍に這って行った藤は、寝入る朔也にぴったりとくっ付く。
そして藤もまた、健やかな眠りへと落ちて行った。
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