きみと運命の糸で繋がっている

くるむ

文字の大きさ
上 下
100 / 161
優しい人たち

蘇る記憶

しおりを挟む
ふと視線を向けると、藤は必ずと言っていいほど朔也と目が合っていた。これには藤も、いくら朔也の事を思い出せないとは言え、気になってしまう。
しかも、目が合った時の朔也の優しい表情に、何かが思い出せそうでモヤモヤしてしまうのだ。
四人で食事をしている時も、朔也が畑にと出て行くときも藤は朔也を目で追っていた。
藤のそんな様子に気付いた朔也は、やっと何とかなりそうだと胸をなでおろした。


夜も更けて、京香が寝る準備に取り掛かり始めた。

「京香さん。今日は藤と2人で寝させてください」
「…え?」
「藤も、少し慣れたみたいですし…。それに僕の事も気にし始めてるみたいなんで」
「そうなの?」
「はい」
「でも…」
京香は藤を心配しているのか躊躇しているようだったが、朔也は強引に藤の手を取った。

「藤、ゆっくり話もしたいし、良いよな?」
「……」

朔也にじっと見つめられて、藤は戸惑い目を瞬かせたが、やがてゆっくりコクンと頷いた。

朔也と藤はそれぞれ自分の布団を隣の部屋に運び、襖を閉める。そして布団の上に腰を下ろした。

「藤…、この間は悪かった。…出て行っていいだなんて、決して本心じゃないんだ」

そう言いながら朔也は藤の手を取って、藤の目をじっと見つめる。藤も、戸惑いながらも朔也の目をちゃんと見ていた。

「君の事は誰よりも大事に思っているよ。そうじゃなかったら、ここまで君を追ってきたりしない」
「……」
「バレるといけないと思って、君が倒れない程度に送っていたけど…」

朔也が藤の手をキュッと強く握る。それと同時に朔也の触れたところから、温かく気持ちのいい"気"が一気に流れ込んで来た。

『藤…』

身体中を駆け巡る気持ちのいい"気"と共に、ぶわりと一斉にいろんなものが藤の中で覚醒していく。あまりにも大量な記憶の渦に、藤は溺れるような錯覚にさえ陥っていた。

「あ…、…」

「藤…?」

ぼんやりとし始めていた藤の表情が、だんだん焦点が合うように視線がピタリと朔也をとらえる。

「朔…也?」
やっと自分の名前を藤に呼ばれて、朔也は安堵のため息を漏らす。

「朔也? 朔也?」
「そうだよ。僕だよ」

「朔也…!」
藤がぎゅうっと朔也に抱き着く。肩口に頬を擦りつけ、背中に回した腕の力も半端ない。
そんな藤の態度に、朔也はまるで自分の方が藤を待たせていたみたいだと、心の中でこっそりと笑ってしまった。

久しぶりに2人で、一つの布団に包まった。藤は朔也にぴったりとくっ付いて、その手は朔也の寝間着をしっかりと掴んでいた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

目標、それは

mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。 今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?

代わりでいいから

氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。 不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。 ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。 他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

僕は君になりたかった

15
BL
僕はあの人が好きな君に、なりたかった。 一応完結済み。 根暗な子がもだもだしてるだけです。

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

処理中です...