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優しい人たち

動揺

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朔也と藤は2人で廃屋に戻り、掃除をまた再開する。天気も良いので、少しでも気持ち良くなるようにと畳も干した。2人で黙々と作業を続けたので疲れはしたが、家は大分住み心地の良いものへと変化していった。

「疲れたろ、藤。おいで」

掃除も済みさっぱりしたところで、朔也が手を広げて藤を呼んだ。それにピクンと反応して、藤が嬉しそうに駆け寄り朔也に飛びついた。
いつもの藤の食事。朔也から与えられる"気"が、藤の身体中を気持ちよく駆け巡った。

「朔也は大丈夫なの?」
「うん?」
「お腹…」
「ああ、寺子屋のみんなからさりげなく貰ったから。結構満ちてるよ」
「そうなんだぁ」

本当の本当に朔也と2人っきり。藤は食事が済んだ後も朔也にぎゅうっと抱き着いたまま、そのまま離れずにいた。
皆とワイワイ騒ぐのも嫌いじゃないけれど、こうやって思う存分朔也に甘えられる時間が、藤にとっては一番幸せな時間でもあった。



翌朝。
寺子屋に向かって歩いている2人のもとに丞が駆け寄って来た。
走る勢いそのままに、朔也に抱き着いて来る。

「おはよう!朔也」
「…おはよう。あのな、丞…」
「何、何? あ、離れろって事なら却下ね」
「お前なー、調子に乗るんじゃないよ!」

朔也に引っ付く丞に業を煮やした藤が文句を言いながら、丞を引っ張って引きはがした。2人でヤイヤイとやりあっていると宰牙がやって来た。

「おはよう。藤らは相変わらずだな」
「…おはよう」
「ああ、悪い。まだ名前教えてなかったな。俺は宰牙だ、よろしく朔也」
「こちらこそよろしく」

朔也は挨拶を返しながら、少し嫌な気分だった。宰牙の雰囲気が、どことなくロベールを思い出させて警戒心が募る。だが、朔也がそんなことを考えているとは思ってもいない宰牙は、言葉を続けた。

「朔也さ、少し考えた方が良いと思うよ」
「え?」

突然初めて話す相手に忠告めいたことを言われて朔也が面食らう。

「藤の甘えん坊ぶりは朔也が原因に見えるからさ」
「…え?」
「龍二先生も、少し考えている風情だったよ」
「……」

眉を顰めて少しムッとしたような朔也の表情に軽く笑い、宰牙は片手を上げて先を歩いて行った。
自分たちの状況を何も知らない相手から度々聞かされる言葉だ。その度にいつもうんざりする思いの朔也だったが、それでも幾度となくいろんな人から忠告されては朔也も少し考えてしまう。

甘えん坊で警戒心の少ない藤を、自分が助長させているのだとしたら、それは確かにこれから先の藤にとって良くない事なのかもしれないと、朔也の気持ちは揺さぶられていた。
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