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形見を探しに

東雲寮との別れ

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しばらく母の記憶の温もりを堪能していたが、ゆっくりしている時間は2人にはなかった。朔也は懐から風呂敷包みを出して、改めてその肩掛けをしまう。
そして藤と2人で天月らの部屋を出て自室へと戻った。

「藤、今のうちにここを出よう」

朔也は棚に置いてある2人の荷物を手繰り寄せた。突然の提案だったにも関わらず、藤は驚くことも無く自分の荷物を朔也から受け取る。
元々この寮に入るのは形見の奪取が目的だったので、ここにいる用は既にないのだ。

部屋から顔をそっと出して辺りを窺がう。
廊下には誰もいず、シンと静まり返っている。朔也と藤はそのまま静かに寮を出て行った。

学校の門を抜けてホッと息を吐くと、目の前に論門が立っていた。

「用は、済んだのか?」
「ああ」

朔也と論門の会話についていけない藤は、論門に見つかったことに緊張して朔也の袖をギュッと掴んだ。その仕草に、論門の正体を藤に告げていなかったことを朔也は思い出す。

「大丈夫だ。こいつ…、本当の名前はロベールらしいが、…人間じゃないそうだ」
「……え?」

朔也の突然の思いがけない言葉に、藤は驚いて論門の顔を見る。論門は藤のその顔に苦笑いを浮かべた。

「お互い様だとは思うけど、正体隠してて悪かったな。……今度会うときは、私の事、ロベールって呼んでくれな」
「あ、はい」
「おい、藤っ」

あまりにも素直に返事を返す藤に、朔也の眉間にしわが寄る。瞬時に叱られて、藤が小首を傾げた。
その様を見ていた論門が笑い声を立てる。

「朔也は色々大変だな。……まあ、それでこそ藤だけどな」

ますます眉を顰めた朔也が藤の手を取って先を促す。

「行こう。みんなが戻って来たら面倒臭い」
「うん、そうだね」

藤も論門を見ていた視線を外して朔也の後に素直について行く。

「記憶、操作しておいてやるよ。また会おう!」

論門は笑いながら大きく手を振って朔也らを見送った。記憶の操作の意味を2人ともいまいち理解は出来ていなかったが、藤は振り返って論門に手を振った。
だが、朔也はそのまま振り返りもせずどんどん先を歩いて行く。

「ホラ、藤! 早く来いよ!」

呼ばれて慌てて走り出す藤。論門はにこやかに、藤らの姿が見えなくなるまで見送っていた。
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