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形見を探しに

母の記憶との対面

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雄大の葬儀に出席する学生や教師が一堂に集まった。同学年の生徒や面識のある者達が大勢集まったが、やはり中には友人の突然の死にショックを受けて、その死事態を受け入れられない者も何人かがいた。

「藤、どうする? 葬儀に出るか?」

朔也の小さな問いに、藤は唇をキュッと噛んだ。そして朔也の着物の袖をつかんで首を横に振った。その子供のような反応に、藤の傷がまだまだ癒えていないことを察した朔也は、「分かった」と頷いて、目立たないように皆と逸れて後ろの方へと移動して、そっと輪の中から外れた。

寮に戻ってみると、同学年の者でも出席をせず残っている人がいた。彼らは皆一様に沈んでいて、いったん出席を決めたものの踏ん切りがつかないのか、慰めあいながら静かに部屋へと戻って行く者もいた。


朔也と藤の同室者は皆出席のようだった。
藤は朔也の肩に凭れながら、ぽつんと呟く。

「…天月の部屋にね、朔也のお母さんの形見らしき物があったよ」
「え?」

突然の藤の言葉に朔也が驚いて藤の顔を覗き込む。藤は言い辛そうにポツリポツリと話を続けた。

「…あの日、形見の肩掛けを探そうと思って天月の部屋に入ったでしょ? その、…手違いがあって、中身までは見る事が出来なかったんだけど、大事そうに風呂敷に包まれた荷物があったんだ。多分、それがそうなんじゃないかと思うんだけど…」

「藤…」

あの日から、もう何日かが過ぎているのに初めて聞くその内容に、朔也は驚いた。今でもそう話しながら、藤の手は震えている。きっとその時の事を思い出すのも怖くて、朔也に伝えたくても伝えられなかったのだろう。
それなのに、意を決して話してくれた藤を、朔也は愛しいと思った。

「…見に行く?」
「いいよ。もう少し落ち着いてからでも…」

未だ傷の癒えていない藤が天月の部屋に行くのはきっと辛いだろうと朔也は藤を気遣ったのだが、藤は首を横に振り朔也の手をギュッと握った。

「大…丈夫。ここにはその為に来たんだし。今は天月の部屋は誰もいないだろう? 行こう? ぼくは朔也が傍にいたら大丈夫だから」
「藤…」

いつもの甘えた表情ではなく朔也の目をしっかり見つめ促す藤に、朔也の気持ちも動いた。

「分かった。行こう」

2人は立ち上がって天月の部屋へと向かった。


そろそろと天月らの部屋の戸を開け、中を窺がうも人の気配は無かった。2人はそろって部屋に上がり込み、作り付けの棚へと向かう。その際も、藤の手は朔也の袖を握っている。
朔也はその袖から藤の手を離し、代わりに藤の手を握った。

「袖なんかよりこっちの方が安心だろ?」

朔也の言葉に藤が顔を上げ、パチパチと目を瞬かせる。そして少しはにかんで「うん」と頷いた。


その風呂敷は、あの日藤が見つけた時と同じ場所に置かれていた。
隅の方に大事そうに置かれた風呂敷包み。朔也は手を伸ばしてその包みを開けた。


するとそこには、藤にとっては見たことも無い、だが、朔也にとっては記憶の奥に押し込まれていた魂を揺さぶるほどの温かな感触がそこにあった。

朔也は震える手で七色に光る肩掛けを、自分の胸元へと引き寄せる。そしてその肩掛けの中に顔を埋め、しばらくそのまま黙って肩を震わせていた。



藤は朔也のその様子を傍でじっと見ていたが、ゆっくりと朔也に近づきそっと抱きしめた。
いつもとはまるで逆の藤の行動に、朔也が顔を上げて藤を見る。


目が合った2人はクスリと笑い、そのまましばらくその肩掛けの感触を楽しんだ。
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