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形見を探しに

雄大の死、そして論門の正体

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「朔也…」

突然現れ冷ややかに自分を見つめる朔也にも、雄大は驚く風もなかった。

「お前、藤が自分の事を信頼していることを分かっていたんだろう。それなのになんで藤を裏切るような真似をしたんだ」
「…信頼?」

雄大の口元から自嘲するような笑い声が漏れる。朔也はそんな雄大に眉を顰めた。

「信頼がなんだっていうんだ? 俺は藤のことが好きなんだよ…。欲しいのは友達の藤じゃない、恋人の藤だ。……だいたい悪いのは藤の方じゃないか、俺をあんなにさんざん煽っておいて辛抱しろだなんて虫が良すぎるんだよ!」

「お前…」

未だに混乱しているのか、雄大の主張はあちらこちらに乱れている。呆れかえる朔也を他所に更に雄大は言葉を続けた。

「藤は魔性だよ」

ポツリと呟くように言う雄大の言葉に朔也の眉がびくりと動く。

「藤に比べりゃ天月なんて可愛いもんだ。……あんな可愛い顔をしているくせに人の劣情を煽って…。藤の色っぽい顔、見たことあるか? あれを見たら誰だって…!?……ダッ!!」

「グワッ! グウゥゥゥッ…!! ンンンンーッ」
「藤を貶めるようなことを言うな」

先ほどから昂っていた朔也の神経に更に追い打ちを与えるような雄大の言葉に、とうとう朔也も切れた。これ以上モノを言わせるものかと雄大の顎を鷲掴みにして、そこから急激に雄大の"気"を吸い上げる。
突然血を吸い取られるような強烈で気持ちの悪い感覚に、雄大がジタバタと暴れ朔也の腕を引きはがそうと必死になった。
もがきながらビクビクと跳ねる雄大の身体を冷ややかに見つめながら、朔也は雄大の全てを吸いつくすまでその手を決して放さなかった。

ドサッと崩れ落ちる雄大の身体。


「藤は魔性なんかじゃない。……あいつは無垢なだけなんだ」

朔也の呟きが風に乗って消えていく。その虚しさにため息を零す朔也の背後から突然声が降って来た。


「お見事。それが君たちの、食事?」

驚いて振り向く朔也の前に、藤を抱いた論門が立っていた。


どう見ても寝入っている藤を抱く論門に、朔也の頭に血が上る。論門に大股で近づいた朔也は、彼の腕の中から藤を引きはがした。

「藤! おい、藤!」
頬をペチペチと叩いても一向に目を覚ます気配が無い。朔也は眉を顰めて論門を見る。

「藤に何をした」

藤をギュッと抱きしめて、警戒しながら睨む朔也に論門がくすりと笑った。

「何…ねえ…。そっちこそ何者だよ。俺は藤のことが気に入ったから自分のモノにしたかったんだけど、どーも上手くいかなかったんだよな。人間じゃないんだろ? 二人とも。…いや、藤の方は元は人間で、後から仲間に引き入れられたって感じかな?」

当たり前のように的確に藤のことを当てられて、朔也の警戒心がさらに増した。どうやら論門も人間ではないようだが、その正体がなんなのか朔也には全く見当がつかなかった。
だが、藤に手を出そうと考えているのだとしたら、正体がなんであろうと放っておくわけにはいかない。朔也の身体から、警戒心が高まって生じる熱がじわじわと上昇し始めていた。

周りの空気が変わり始める。温度が上がり、禍々しい空気が流れ始めた。朔也は抱いていた藤を近くの木に凭れされ、論門に対峙した。

「おいおい、ちょっと待て。そう熱くなるなよ。お前と敵対する気は無いし、藤のことは今は諦めるから」
「…今は?」
「そうだ、とにかく落ち着け。ここで騒ぎを起こしても誰も得はしないだろ」

朔也はじっと論門を見つめていたが、しまいには「ふうっ」と息を吐き出した。

「で? 論門は? そっちこそ、何者なんだ?」

「……本当の名前はロベールだ。元々この国の者ではないよ。というか、この世界の者ではないと言うべきかな。聞いたことは無いかもしれないけれど、

「悪…魔?」

聞いたことのない正体に朔也は首を傾げる。
それを横目で見ていた論門は笑い、「朔也は?」と聞いてきた。
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