74 / 161
形見を探しに
矛盾する思い
しおりを挟む
朔也は藤を抱っこしたまま裏庭に出る。誰もいない草原に藤を下ろした。
そして何も言わず、黙って藤を引き寄せる。藤も導かれるまま朔也の肩に頭を乗せた。
優しく揺れる風、澄んだ高い空、温かな朔也の体温。
本来ならすごく幸せなひと時なのに、藤の瞳からはポロポロと涙が溢れ出てくる。
「つ…っ、うっ、うぅっ」
「……」
「なん…で」
「…うん?」
「なんでこうなんだろ…、ぼく…。雄大は絶対、そんな奴じゃないって…思ってたのに…」
「……」
思えば庄太達や羽柴に酷い目にあわされる前にも、朔也に「君は人を見る目が無いから」と忠告をされていた。それに雄大の事も、あまり良く思っていないような発言もしていた。
だけどそのどの時も、藤は朔也の発言を理解できてはいなかったのだ。
泣きながら自己嫌悪に陥る藤を横目に、朔也がポツリと呟いた。
「…君は何も悪くないよ。今回の事は、勝手に煽られた雄大が悪い」
本当は、朔也は藤を誰にも見せずに、ひっそりと囲ってやりたいと思うくらい溺愛している。だけど、だからといって山奥で人間のいない中での生活は、かなり無理があるし不便だ。いくら食事に金がかからないとはいえ、着る物は必要だし風呂にだって入りたい。真っ裸で川辺に住み着くというのもありかもしれないが、藤はもちろん朔也だってそんな生活はごめんだ。
それだからこそ、やはり藤にも成長はしてもらわないとならない。無邪気な藤は好きだが、素直過ぎて他人の好意を簡単に受け入れてしまうところなど、気を付けなければならない事は多々あるのだ。
だが、そうは言っても藤が自分を必要としないくらいしっかりしてしまえば、それはそれで面白くないのだろうが…。
朔也の中にもある様々な矛盾。だけどそれでも、ある程度の矛盾を抱えながらも、現実に即して生きていかなければならないのだ。
「だけどな、藤」
藤の髪を撫でながら真剣な口調で語りかける朔也に、藤も顔を上げ、朔也の目をしっかり受け止めた。
「やっぱり君は、もう少し人を疑うことも覚えた方が良い。颯太や泰三みたいに、君に邪な思いを寄せなくても親切な人たちはちゃんといるだろ?」
朔也の言葉に藤も、「あっ」という顔をする。
だけどそれと同時に、やはり藤にはその違いを判別する自信がなかった。
「大丈夫、ゆっくりでいい。だから今は、僕の傍を離れないようにしてくれ」
「さく…や」
藤の澄んだ瞳から大粒の涙がまたポロポロと零れ落ちる。
藤は朔也に手を伸ばし、幼い子供が母を慕うようにしっかりと抱き着いた。
そして何も言わず、黙って藤を引き寄せる。藤も導かれるまま朔也の肩に頭を乗せた。
優しく揺れる風、澄んだ高い空、温かな朔也の体温。
本来ならすごく幸せなひと時なのに、藤の瞳からはポロポロと涙が溢れ出てくる。
「つ…っ、うっ、うぅっ」
「……」
「なん…で」
「…うん?」
「なんでこうなんだろ…、ぼく…。雄大は絶対、そんな奴じゃないって…思ってたのに…」
「……」
思えば庄太達や羽柴に酷い目にあわされる前にも、朔也に「君は人を見る目が無いから」と忠告をされていた。それに雄大の事も、あまり良く思っていないような発言もしていた。
だけどそのどの時も、藤は朔也の発言を理解できてはいなかったのだ。
泣きながら自己嫌悪に陥る藤を横目に、朔也がポツリと呟いた。
「…君は何も悪くないよ。今回の事は、勝手に煽られた雄大が悪い」
本当は、朔也は藤を誰にも見せずに、ひっそりと囲ってやりたいと思うくらい溺愛している。だけど、だからといって山奥で人間のいない中での生活は、かなり無理があるし不便だ。いくら食事に金がかからないとはいえ、着る物は必要だし風呂にだって入りたい。真っ裸で川辺に住み着くというのもありかもしれないが、藤はもちろん朔也だってそんな生活はごめんだ。
それだからこそ、やはり藤にも成長はしてもらわないとならない。無邪気な藤は好きだが、素直過ぎて他人の好意を簡単に受け入れてしまうところなど、気を付けなければならない事は多々あるのだ。
だが、そうは言っても藤が自分を必要としないくらいしっかりしてしまえば、それはそれで面白くないのだろうが…。
朔也の中にもある様々な矛盾。だけどそれでも、ある程度の矛盾を抱えながらも、現実に即して生きていかなければならないのだ。
「だけどな、藤」
藤の髪を撫でながら真剣な口調で語りかける朔也に、藤も顔を上げ、朔也の目をしっかり受け止めた。
「やっぱり君は、もう少し人を疑うことも覚えた方が良い。颯太や泰三みたいに、君に邪な思いを寄せなくても親切な人たちはちゃんといるだろ?」
朔也の言葉に藤も、「あっ」という顔をする。
だけどそれと同時に、やはり藤にはその違いを判別する自信がなかった。
「大丈夫、ゆっくりでいい。だから今は、僕の傍を離れないようにしてくれ」
「さく…や」
藤の澄んだ瞳から大粒の涙がまたポロポロと零れ落ちる。
藤は朔也に手を伸ばし、幼い子供が母を慕うようにしっかりと抱き着いた。
10
お気に入りに追加
224
あなたにおすすめの小説
【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される
秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】
哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年
\ファイ!/
■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ)
■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約
力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。
【詳しいあらすじ】
魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。
優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。
オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。
しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。
親友だと思ってた完璧幼馴染に執着されて監禁される平凡男子俺
toki
BL
エリート執着美形×平凡リーマン(幼馴染)
※監禁、無理矢理の要素があります。また、軽度ですが性的描写があります。
pixivでも同タイトルで投稿しています。
https://www.pixiv.net/users/3179376
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/98346398
【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました
及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。
※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19
最強美人が可愛い過ぎて困る
くるむ
BL
星城高校(男子校)に通う松田蒼空は、友人が類まれなる絶世の(?)美少年であったため、綺麗な顔には耐性があった。
……のだけれど。
剣道部の練習試合で見かけたもの凄く強い人(白崎御影)が、防具の面を取った瞬間恋に落ちてしまう。
性格は良いけど平凡で一途な松田蒼空。高校一年
クールで喧嘩が強い剣道部の主将、白崎御影(しろざきみかげ)。高校二年
一見冷たそうに見える御影だが、その実態は……。
クーデレ美人に可愛く振り回される、素直なワンコのお話です♪
※俺の親友がモテ過ぎて困るのスピンオフとなっています。
※R15は保険です。
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる