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形見を探しに
皮肉にも、かみ合わない歯車
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藤の近くには、最近よく雄大がやって来た。
何かと気にかけてくれたり、藤が授業中に分からなかったことなどを自習室に行く前などに教えてくれたり。しかも暑いと茹だっている時なんか、パタパタと風を扇いでくれたりしていた。
風呂場での、いつもの2人っきりの空間。何気ない会話から、聞かれては不味いことなどを誰にも気兼ねなく話せるので、2人にとってこの時間はかなり貴重なものだった。
「最近雄大が優しい」
ぷくぷくとお湯に浸かりながら藤がポツリと呟いた。
「…そうだな」
以前にも増して雄大が積極的に近づいて来るようになっていたので、いかな鈍感な藤でも気が付かないはずがなかった。
「…気を付けろよ」
「何?」
お湯から顔を出し、藤がキョトンと尋ねる。
「…気にして見てるって事は、観察してるという事と同じだ。僕らが人間だってバレないように、気を引き締めて油断するんじゃないぞ。君はすぐ信用して、懐いちゃうから」
意地悪く説教モードに入った朔也に藤はムッとして唇を尖らす。
「分かってるよ。…すぐ懐くって…。だって雄大、良い奴だし…」
「――ばれたら、容赦しないからな」
ぶつぶつ文句を言う藤に、冷たい朔也の声が重なった。本気な表情の朔也に、藤が目を瞬かせる。
「…分かった、気を付ける」
ややもすると忘れそうになる自分の正体。
藤は、秘炎という自分たちから、雄大を守ろうと固く心の中で誓った。
一方、雄大の方も複雑な気持ちでいた。
雄大がどんなに頑張っても、朔也に甘えている時の藤の方が楽しそうに見えて仕方がなかったのだ。
「雄大」
便所から出ると、待ちかねていたように天月に声を掛けられた。怪訝な顔をする雄大に構わず、天月は先だって歩き出し手招きをする。どうやらついて来いと言っているようだ。
藤を敵視する天月をあまり良く思っていなかった雄大は一瞬躊躇するが、何度も手招きをされて仕方なくついて行くことにした。
人のあまり来ない寮の裏手に連れてこられた。
「なんだよ。こんなとこじゃ無いと出来ない話か?」
「まあね。…雄大さぁ、藤のこと好きなんだろ?」
最近の雄大は、自分の藤への気持ちに開き直っていたので、たいていの者は雄大の恋心に気が付いていた。
「そうだよ。それがどうかした?」
「うん。協力し合いたいなーと思って」
ニッコリ笑う天月がどうも胡散臭い。雄大は眉を顰めた。
「何、企んでるんだ?」
「ちょっと! 企むってなんだよ! 僕は朔也が好きなだけだよ。好きだから、自分のモノにしたいんじゃないか…。大体、朔也は藤のこと好きすぎるんだよ…!この僕が誘惑してるのに、ちっとも見向きもしないんだよ、そんな事って信じられる?」
東雲高等中学校に入学して以来、東雲一の美少年ともてはやされて来た天月は、なんでも思い通りになることの方が多かった。難攻不落かなと思われる相手に対しても、ちょっと色目さえ使えば、割とすんなり相手は落ちたものだった。
朔也を一目見た時、天月はいつもと同じ気分だった。
怜悧で独特な雰囲気を醸し出す朔也が、格好いいと思った。きっといつものように自分が声を掛け誘惑すれば、簡単に落ちると思っていたのだ。
だけど朔也はそうではなかった。
どんなに迫っても、色気を振りまいても、まったくの無反応なのだ。まるで藤以外のモノには興味がないと言わんばかりに。
「天月…」
「雄大はどうなんだよ。きっとこのままじゃ、藤の友達でしかいられないよ。それで満足なの? 藤を自分のモノにしたいとは、思わないわけ?」
「俺は…」
雄大は風呂場で襲われた時の、藤を思い出していた。潤む瞳からポロポロと流れる大粒の涙。そして何より、頬を蒸気させ、ほんのりと色づく艶っぽい表情…。
幼い容貌にふさわしくない強烈な色香を思い出すだけで、雄大の欲望に火が点きそうになる。
「欲しくないわけがない…。だけど…」
「僕の部屋を使ったらいいよ。部屋のみんなは上手く言いくるめて連れ出してあげるし、高田先生に協力してもらって、朔也を呼び出してもらうから」
「お前…、高田先生とも出来てるって噂、本当だったのか?」
びっくりして凝視する雄大に、天月はクスリと笑った。
「恰好良いし、優しいだろ? …気持ちいいことしてくれるし、気に入ってるよ」
呑まれたように天月をポカンと見る雄大を鼻で笑って、天月は言葉を続けた。
「で、どうするの? ヤる気があるのなら滑りを良くするゴマ油も持ってるから、分けてあげるよ。どうせなら藤を落とすくらいの気持ちで頑張ってよ」
揶揄うでもなく真剣な表情で話す天月に、雄大はゴクリと唾を飲み込んだ。
何かと気にかけてくれたり、藤が授業中に分からなかったことなどを自習室に行く前などに教えてくれたり。しかも暑いと茹だっている時なんか、パタパタと風を扇いでくれたりしていた。
風呂場での、いつもの2人っきりの空間。何気ない会話から、聞かれては不味いことなどを誰にも気兼ねなく話せるので、2人にとってこの時間はかなり貴重なものだった。
「最近雄大が優しい」
ぷくぷくとお湯に浸かりながら藤がポツリと呟いた。
「…そうだな」
以前にも増して雄大が積極的に近づいて来るようになっていたので、いかな鈍感な藤でも気が付かないはずがなかった。
「…気を付けろよ」
「何?」
お湯から顔を出し、藤がキョトンと尋ねる。
「…気にして見てるって事は、観察してるという事と同じだ。僕らが人間だってバレないように、気を引き締めて油断するんじゃないぞ。君はすぐ信用して、懐いちゃうから」
意地悪く説教モードに入った朔也に藤はムッとして唇を尖らす。
「分かってるよ。…すぐ懐くって…。だって雄大、良い奴だし…」
「――ばれたら、容赦しないからな」
ぶつぶつ文句を言う藤に、冷たい朔也の声が重なった。本気な表情の朔也に、藤が目を瞬かせる。
「…分かった、気を付ける」
ややもすると忘れそうになる自分の正体。
藤は、秘炎という自分たちから、雄大を守ろうと固く心の中で誓った。
一方、雄大の方も複雑な気持ちでいた。
雄大がどんなに頑張っても、朔也に甘えている時の藤の方が楽しそうに見えて仕方がなかったのだ。
「雄大」
便所から出ると、待ちかねていたように天月に声を掛けられた。怪訝な顔をする雄大に構わず、天月は先だって歩き出し手招きをする。どうやらついて来いと言っているようだ。
藤を敵視する天月をあまり良く思っていなかった雄大は一瞬躊躇するが、何度も手招きをされて仕方なくついて行くことにした。
人のあまり来ない寮の裏手に連れてこられた。
「なんだよ。こんなとこじゃ無いと出来ない話か?」
「まあね。…雄大さぁ、藤のこと好きなんだろ?」
最近の雄大は、自分の藤への気持ちに開き直っていたので、たいていの者は雄大の恋心に気が付いていた。
「そうだよ。それがどうかした?」
「うん。協力し合いたいなーと思って」
ニッコリ笑う天月がどうも胡散臭い。雄大は眉を顰めた。
「何、企んでるんだ?」
「ちょっと! 企むってなんだよ! 僕は朔也が好きなだけだよ。好きだから、自分のモノにしたいんじゃないか…。大体、朔也は藤のこと好きすぎるんだよ…!この僕が誘惑してるのに、ちっとも見向きもしないんだよ、そんな事って信じられる?」
東雲高等中学校に入学して以来、東雲一の美少年ともてはやされて来た天月は、なんでも思い通りになることの方が多かった。難攻不落かなと思われる相手に対しても、ちょっと色目さえ使えば、割とすんなり相手は落ちたものだった。
朔也を一目見た時、天月はいつもと同じ気分だった。
怜悧で独特な雰囲気を醸し出す朔也が、格好いいと思った。きっといつものように自分が声を掛け誘惑すれば、簡単に落ちると思っていたのだ。
だけど朔也はそうではなかった。
どんなに迫っても、色気を振りまいても、まったくの無反応なのだ。まるで藤以外のモノには興味がないと言わんばかりに。
「天月…」
「雄大はどうなんだよ。きっとこのままじゃ、藤の友達でしかいられないよ。それで満足なの? 藤を自分のモノにしたいとは、思わないわけ?」
「俺は…」
雄大は風呂場で襲われた時の、藤を思い出していた。潤む瞳からポロポロと流れる大粒の涙。そして何より、頬を蒸気させ、ほんのりと色づく艶っぽい表情…。
幼い容貌にふさわしくない強烈な色香を思い出すだけで、雄大の欲望に火が点きそうになる。
「欲しくないわけがない…。だけど…」
「僕の部屋を使ったらいいよ。部屋のみんなは上手く言いくるめて連れ出してあげるし、高田先生に協力してもらって、朔也を呼び出してもらうから」
「お前…、高田先生とも出来てるって噂、本当だったのか?」
びっくりして凝視する雄大に、天月はクスリと笑った。
「恰好良いし、優しいだろ? …気持ちいいことしてくれるし、気に入ってるよ」
呑まれたように天月をポカンと見る雄大を鼻で笑って、天月は言葉を続けた。
「で、どうするの? ヤる気があるのなら滑りを良くするゴマ油も持ってるから、分けてあげるよ。どうせなら藤を落とすくらいの気持ちで頑張ってよ」
揶揄うでもなく真剣な表情で話す天月に、雄大はゴクリと唾を飲み込んだ。
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