きみと運命の糸で繋がっている

くるむ

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形見を探しに

たとえ記憶を失っていても

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サワサワと揺れる木の葉。藤と朔也の周りを優しい風がゆっくりと吹く。

ポカンと見つめ続ける藤に、朔也は自嘲気味に笑い瞼を伏せた。

「こう言っても君には分からないと思うけど…、僕は僕自身から君を守っているんだ」
朔也の言葉に、藤が驚いて目を見開く。そんな藤に薄く笑った朔也は、さらに言葉を続けた。

「…君が僕に話しかけてくれた時は凄く…嬉しかった…。だけど僕は君と友達になってしまったら、きっと君に悲しい思いをさせてしまうから…。憎まれるのは構わないけど、藤を不幸にはしたくないから…」

目を伏せて、どこか悲しそうに自分の思いを伝えてくれる朔也。藤は信じられない思いだった。
記憶喪失になって自分の事を忘れてしまった朔也が、一目自分を見ただけで、そんなふうに思ってくれていたのだ。あんなに項垂れて冷えてしまっていた藤の心が、温かいものに包まれていく。

「それって…、仲間にしたいほど好きだ…ってこと?」

上目遣いに朔也を見ながら尋ねると、朔也がびっくりして目を見開いた。その表情を見た藤の顔が、ぱあっと花開く。
「図星なの?」

驚いた朔也の表情がすごく嬉しく、藤は朔也に近づき、自分が秘炎だと分かってもらおうと、藤の出来るありったけのオーラを出して見せた。
ほんのりと淡く薄い青の光。朔也のそれよりは大分劣るが、秘炎のオーラに間違いは無かった。

「仲間だよ、朔也の。ここには君のお母さんの形見を探すために、潜入したんだよ」
「……」

余りにも驚きすぎて、声が出ないといった風だった。ポカンとしばらく藤を見た後、「ホントに…?」と掠れた声で呟いた。

「嘘なんか言わないよ。それとも、ぼくのオーラが見えない?」

薄く、ものすごく淡く光る青い色。あまりにも淡すぎてところどころ掠れたように途切れている。

朔也に残っている記憶では、秘炎一族は保世の村人たちに絶滅させられている。どう考えても藤が秘炎の生き残りだとは思えなかった。
恐らく、自分の失っている記憶の中に、この藤との経緯があるのだろうと推測した朔也は、改めて藤に向き合った。

ゆっくりと、先ほど藤が詰めたその距離をさらに縮めて手を伸ばす。

「見えるよ」

伸ばした掌を藤の頬へと近づけた。

「感じることも出来る」

ゆっくりと藤の頬を撫でる朔也の手。頬や顎、耳や首筋をとなぞりながら髪に触れる。まるで目の見えない者が、愛しいものの顔の形を確かめるように、ゆっくりゆっくり何度も撫でた。
藤は頬がじわじわと熱くなってくるのを感じていた。瞬きもだんだん増えて、居心地もすこぶる悪い。

「教えてくれれば良かったのに」
「だって…、朔也、怖かったし…。それに…」
「ああ、そうだな、悪かった。…それにって?」
「…ぼくのこと忘れてるんだもん。癪だし…ショックだったから…」

自分の顔をさっきから触り続ける朔也に、真っ赤になりながら上目遣いに文句を言う藤。その藤の言葉に一瞬目を見開いた朔也は、甘く蕩けるような顔になった。


「君って奴は…」


愛しくてしょうがないというように、藤の唇を指でなぞる。その途端、藤の肩がピクンと震えた。

「さ、朔也…。そんなに触らないでよ。恥ずかしい…」
ウロウロと視線を彷徨わせ始めた藤に、朔也がクスリと笑う。

「無理だよ。僕は君と友達になるのをずっと我慢してたんだから」
「朔也ぁ~」
顔から火が噴き出るのじゃないかと思うくらい熱くなっているのに、朔也は一向に止めようとしない。

「ホントはぼくのこと…、虐めてるんじゃないの?」
「まさか」
朔也が愉快そうにクスクス笑う。

「君が僕の仲間だなんて信じられないくらい嬉しいんだよ。だから…」

朔也は藤の頬を両手で包みじっと見る。そして藤の目をまっすぐ見つめ、とんでもないことを口にした。


「僕は、君にキスしたことはあるの?」
「え!?」

(な、何てこと聞くんだよ!)
藤は朔也の言葉につい先日、罰だと言ってされたキスを思い出していた。

「な…無いことはないけど」
「ヘえ?」

どこか嬉しそうに聞こえる朔也の声に、藤はバッと朔也を押し剥がした。

「ダメだからねっ。それは!!」
「どうして? した事あるんだろ?」

「あ、あの時だって朔也がぼくに罰だって言って…。ぼくは嫌だって言ったのに、聞いてくれなかったんじゃない。とっても恥ずかしかったんだからねっ」
「ふーん…」

真っ赤になって抗議する藤に朔也が一歩詰めてきた。

「なんだか僕らの関係が、少しわかって来たような気がするよ」
「朔也…」

口角をゆっくり引き上げニッコリ笑い、藤に押されて離された手を、また彼の頬に持っていった。

「きっと僕は記憶が戻っていたとしても同じことをしているだろうね。…君に対してはたぶん、僕はいつでも本気だ」

ゆっくりと藤の顎を上にあげ、朔也は顔を近づけて来る。藤は真っ赤になって固まって、瞬きも忘れたように朔也を凝視した。

「藤…、目を閉じて。口を少し開けてごらん」
「さ…さく…」
「いいから」

朔也の指が藤の唇をゆっくりと撫でる。藤は反射的に目を瞑った。それでも唇は、ガチガチに閉じたままだ。
朔也は軽く笑って、藤に顔を近づけると、舌で藤の唇をなぞる。

「…っ、朔也…っ」

堪らず声を発した藤の唇に、朔也のソレが潜り込んでくる。
歯列をなぞり、頬や上顎と、藤の口腔内をゆっくりと味わうようになぞる。そしてなすすべもなく引っ込んでいる藤の舌を甘く絡めとった。

「っ…、んっ…」

慣れない藤が溺れるような錯覚に、朔也の袖をギュッとつかむ。甘く漏れた藤の声に、朔也は愛しくて堪らないと、藤の背中に回していた腕に力を籠めた。



朔也の唇から解放された時、藤の頭はボーッとしていた。心も体もふわふわとして、雲の上にいる様だ。藤は朔也にコトンと凭れ掛かり、久しぶりの朔也の体温にギュッとしがみ付いてみた。


合わさる体温が嬉しくて、お互い強く抱きしめあう。
2人の頭上では、木の葉が気持ちよさそうに揺れていた。
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