53 / 161
形見を探しに
シンヨウデキルヒト
しおりを挟む
雄大にしがみ付いて離そうとしない藤に、颯太が持っていた手拭いをかけてやった。冷えていた体にふわりとあたる温かさに藤が顔を上げる。
「大丈夫か、藤」
「う…ん」
「さて、と。どうする、藤? 俺らは風呂に入りに来たんだけど、一緒に入っていくか?」
論門に聞かれて藤はどうしようかと考えた。
適当にお湯をひとかぶりして出て行っても良かったのだが、正直言って今は一人になりたくないというのが本音だった。部屋に戻るまでのわずかな時間でさえ、柏木たちがまた現れるのではないかと思えてしまい怖かった。
「…一緒に入る」
雄大の袖をギュッと握りしめて、藤はポツリと呟いた。
「そっか。じゃあ、雄大を離してやれ」
パシンと勢いよく颯太に叩かれ、「え?」と顔を上げる。
颯太も論門もすでに着物を脱いでおり、まだそのままなのは雄大だけだった。
藤が雄大の着物を握っているせいで、まだあれから脱衣所に行っていないのだ。
「わっ。ごめん、雄大!」
それに気づいた藤が、真っ赤な顔で手を離した。雄大は笑って「大丈夫」と言って脱衣所へと歩いて行った。
「藤!背中洗ってくれないかな」
呼ばれて振り向くと、論門がすでに背中以外を泡塗れにしていた。いつの間にか体を洗い始めていたようで、論門の前には颯太がいて、その颯太の背中を論門が洗っていた。
2人なので輪になって背中を洗いっこするには足りていない。藤と雄大が入ると、きっと全員の背中を洗ってあげることが出来るだろう。
なんだか楽しそうに見える状況に、藤も迷わず椅子を引き寄せ論門の背中を洗い始めた。
着物を脱いでやって来た雄大も、その光景を見て藤の後ろについた。小さな円を作り皆の背中を洗いあう。
藤は素直に楽しいと思った。いつもは朔也と二人でこっそり入っているので、皆でワイワイとすることは出来ない。もちろん朔也から"気"を貰い、甘やかせてもらうあの時間も楽しいことは楽しいのだけど、たまにはこういう事も出来ると良いのにと思った。
石鹸を流して湯船に浸かりながらのんびりする。風呂の縁にしがみ付いて、藤がぷくぷくと浮いたり沈んだりして遊んでいると、パチッと論門と目が合った。
目を細めて優しい目で藤を見つめている論門。目が合ったとたん、ニコリと優しく微笑まれた。
ずっと論門にそんな目で見られていたのかと思うと、藤の頬がじわじわと熱くなってくる。
(やっぱり何だか論門って苦手…。じっと見られるとそわそわする)
論門に対する自分の感情が分からなくて、藤は小首を傾げる。嫌いとかそういうのとは違うんだけど、初めて会った時からなぜか苦手意識があった。それはいったいなんなのだろう。
「逆上せた?」
ぼーっとしながら、論門の事を考えていたら雄大に心配そうに声をかけられた。
「あ、ううん。大丈夫」
「そっか、ならいいけど」
「おい、そろそろ出ようぜ。熱くなって来た」
ザブンと勢いよく颯太が立ち上がる。ちょうど脱衣所がざわざわし出したので、皆が風呂に押し寄せる時間になって来たらしい。颯太につられて、みんな湯船から出て脱衣所へと向かった。
着物を着て脱衣所を出、廊下を歩いている時に論門がそばに寄って来た。
「大丈夫か、藤」
「え?」
「怖く、ないか?」
論門の言葉で、一太や柏木にされた時の恐怖を思い出した。怖くないと言えば嘘になる。
嘘になるけど…。
「大丈夫。こうやってみんなが傍にいてくれるから。それに雄大も颯太も同じ部屋だから安心だもの」
そう言って藤は、ニコリと論門に微笑んだ。
「そうか」
論門は薄く笑い、そっと雄大に視線を移す。
「…あの調子じゃそう長くは続かないだろうな」
誰にも聞き取れないような小さな声で論門が呟く。
もちろん、聞いている者は誰もいなかった。
「大丈夫か、藤」
「う…ん」
「さて、と。どうする、藤? 俺らは風呂に入りに来たんだけど、一緒に入っていくか?」
論門に聞かれて藤はどうしようかと考えた。
適当にお湯をひとかぶりして出て行っても良かったのだが、正直言って今は一人になりたくないというのが本音だった。部屋に戻るまでのわずかな時間でさえ、柏木たちがまた現れるのではないかと思えてしまい怖かった。
「…一緒に入る」
雄大の袖をギュッと握りしめて、藤はポツリと呟いた。
「そっか。じゃあ、雄大を離してやれ」
パシンと勢いよく颯太に叩かれ、「え?」と顔を上げる。
颯太も論門もすでに着物を脱いでおり、まだそのままなのは雄大だけだった。
藤が雄大の着物を握っているせいで、まだあれから脱衣所に行っていないのだ。
「わっ。ごめん、雄大!」
それに気づいた藤が、真っ赤な顔で手を離した。雄大は笑って「大丈夫」と言って脱衣所へと歩いて行った。
「藤!背中洗ってくれないかな」
呼ばれて振り向くと、論門がすでに背中以外を泡塗れにしていた。いつの間にか体を洗い始めていたようで、論門の前には颯太がいて、その颯太の背中を論門が洗っていた。
2人なので輪になって背中を洗いっこするには足りていない。藤と雄大が入ると、きっと全員の背中を洗ってあげることが出来るだろう。
なんだか楽しそうに見える状況に、藤も迷わず椅子を引き寄せ論門の背中を洗い始めた。
着物を脱いでやって来た雄大も、その光景を見て藤の後ろについた。小さな円を作り皆の背中を洗いあう。
藤は素直に楽しいと思った。いつもは朔也と二人でこっそり入っているので、皆でワイワイとすることは出来ない。もちろん朔也から"気"を貰い、甘やかせてもらうあの時間も楽しいことは楽しいのだけど、たまにはこういう事も出来ると良いのにと思った。
石鹸を流して湯船に浸かりながらのんびりする。風呂の縁にしがみ付いて、藤がぷくぷくと浮いたり沈んだりして遊んでいると、パチッと論門と目が合った。
目を細めて優しい目で藤を見つめている論門。目が合ったとたん、ニコリと優しく微笑まれた。
ずっと論門にそんな目で見られていたのかと思うと、藤の頬がじわじわと熱くなってくる。
(やっぱり何だか論門って苦手…。じっと見られるとそわそわする)
論門に対する自分の感情が分からなくて、藤は小首を傾げる。嫌いとかそういうのとは違うんだけど、初めて会った時からなぜか苦手意識があった。それはいったいなんなのだろう。
「逆上せた?」
ぼーっとしながら、論門の事を考えていたら雄大に心配そうに声をかけられた。
「あ、ううん。大丈夫」
「そっか、ならいいけど」
「おい、そろそろ出ようぜ。熱くなって来た」
ザブンと勢いよく颯太が立ち上がる。ちょうど脱衣所がざわざわし出したので、皆が風呂に押し寄せる時間になって来たらしい。颯太につられて、みんな湯船から出て脱衣所へと向かった。
着物を着て脱衣所を出、廊下を歩いている時に論門がそばに寄って来た。
「大丈夫か、藤」
「え?」
「怖く、ないか?」
論門の言葉で、一太や柏木にされた時の恐怖を思い出した。怖くないと言えば嘘になる。
嘘になるけど…。
「大丈夫。こうやってみんなが傍にいてくれるから。それに雄大も颯太も同じ部屋だから安心だもの」
そう言って藤は、ニコリと論門に微笑んだ。
「そうか」
論門は薄く笑い、そっと雄大に視線を移す。
「…あの調子じゃそう長くは続かないだろうな」
誰にも聞き取れないような小さな声で論門が呟く。
もちろん、聞いている者は誰もいなかった。
10
お気に入りに追加
234
あなたにおすすめの小説

代わりでいいから
氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。
不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。
ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。
他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────


あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。

紹介なんてされたくありません!
mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。
けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。
断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

目標、それは
mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。
今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる