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形見を探しに
天月、動く
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そして翌日。
颯太は藤たちだけではなく色んな人に声をかけていたようで、授業が終わってから竹馬で遊ぼうと思ったみんながぞろぞろと裏庭へと出てきた。
竹馬は一組しか無かったので、じゃんけんで順番を決める。藤はもちろんそのじゃんけんに参加したのだけど、朔也は見てるからと言って断った。
朔也は同世代に見えても実際は百以上も年上だ。だから子供っぽい遊びにはあまり興味を示さない。
藤もそんな朔也の性格を知っているので、あえて無理強いはしなかった。
「へえ、これが竹馬かあ」
論門が興味津々に竹馬を眺めている。
「何、お前竹馬知らないの? 小さいころ遊んだだろ?」
「いや、家には無かった」
「そっか。じゃあ、俺らの乗りっぷりを見て参考にしろよ」
いつもうだうだしているくせに、こういう遊びの時だけは張り切る泰三は、今も論門に偉そうに話している。
朔也は、順番待ちをしながら楽しそうにみんなの輪の中にいる藤を目を細めて見ていたが、その内その輪から離れて、近くの大木の根に腰を下ろした。
もちろんいつでも自分が藤を守りたいとは思っていても、だからと言ってこういうみんなとの時間を藤から奪う事が、必ずしも良いことでは無いということも、朔也はちゃんと気がついてはいたから。
そよ風に吹かれながら、みんなと笑っている藤を目で追いかけていたら、朔也と同じように皆の輪から抜け出てきた天月に声をかけられた。
「朔也は竹馬やらないの?」
「ああ、見てるだけで良い。…天月は行かないで良いのか?」
「うん。僕もいいかな」
そう言って、天月が朔也の隣に腰かける。そしてゆっくりと朔也の方に体を傾げ、朔也の肩に凭れ掛かる。気付いた朔也が、横目で天月をチラリと見た。
「ちょっとだけ、ちょっとでいいから肩貸して…。昨日、家からのゴタゴタした手紙読んで落ち込んじゃって。あんまり寝てないんだ」
「……」
薄く笑う天月の表情は、さすがの朔也でも真意が読み取れない。胡散臭い気はしたものの、少しだけならいいかと、文句は言わず天月にそのまま肩を貸し続けた。
「よいしょ」
雄大に支えてもらい、藤が竹馬に足を乗っける。最初こそ、トトトとバランスを取れずに勢いよく走ってしまったが、その内だんだん思い出して上手く乗れるようになっていた。
一段高い所からみんなを見下ろして、いい気分で横を向くと、朔也に凭れ掛かっている天月の姿が目に入って来た。動揺してぐらりと揺れる藤に、近くにいた雄大が慌てて支える。
「大丈夫?」
「あ、うん。ごめん、大丈夫」
気にはなったけど、あんまり見続けるのも天月を良い気分にさせてしまうようで癪に障り、あえて無視してそのまま竹馬に乗り続けた。だけど藤の心の中は荒れまくっている。
(なんであんな天月なんて奴に肩なんて貸してるんだよ!つき飛ばしちゃえばいいのに!)
心の中でさんざん悪態を吐きながらも、藤自身は表面上は楽しく振舞っているつもりだった。
「……いつまでそうやってるつもりだ?」
何も言わずにいると、そのまま当たり前のように朔也にさらに引っ付いて、肩に凭れ掛かってくる天月にそろそろ離れろと促す。
「いいじゃないたまには。いっつも藤が取っちゃってるんだもんこの場所。まるで親羊が子羊を見守っているみたいにさ」
朔也が眉根を寄せて天月を見ても、少しも動じる気配のない天月はさらに言葉を続ける。
「僕も藤みたいに見守ってほしいな」
甘えるように上目遣いで見上げる天月を、朔也は鼻で笑った。
「君にはそんなもの必要ないだろう?」
うっすら笑って相手にしない朔也に、さすがの天月もムッとする。ふうっとため息を吐いて立ち上がり、「意地悪!」と文句を言った。
颯太は藤たちだけではなく色んな人に声をかけていたようで、授業が終わってから竹馬で遊ぼうと思ったみんながぞろぞろと裏庭へと出てきた。
竹馬は一組しか無かったので、じゃんけんで順番を決める。藤はもちろんそのじゃんけんに参加したのだけど、朔也は見てるからと言って断った。
朔也は同世代に見えても実際は百以上も年上だ。だから子供っぽい遊びにはあまり興味を示さない。
藤もそんな朔也の性格を知っているので、あえて無理強いはしなかった。
「へえ、これが竹馬かあ」
論門が興味津々に竹馬を眺めている。
「何、お前竹馬知らないの? 小さいころ遊んだだろ?」
「いや、家には無かった」
「そっか。じゃあ、俺らの乗りっぷりを見て参考にしろよ」
いつもうだうだしているくせに、こういう遊びの時だけは張り切る泰三は、今も論門に偉そうに話している。
朔也は、順番待ちをしながら楽しそうにみんなの輪の中にいる藤を目を細めて見ていたが、その内その輪から離れて、近くの大木の根に腰を下ろした。
もちろんいつでも自分が藤を守りたいとは思っていても、だからと言ってこういうみんなとの時間を藤から奪う事が、必ずしも良いことでは無いということも、朔也はちゃんと気がついてはいたから。
そよ風に吹かれながら、みんなと笑っている藤を目で追いかけていたら、朔也と同じように皆の輪から抜け出てきた天月に声をかけられた。
「朔也は竹馬やらないの?」
「ああ、見てるだけで良い。…天月は行かないで良いのか?」
「うん。僕もいいかな」
そう言って、天月が朔也の隣に腰かける。そしてゆっくりと朔也の方に体を傾げ、朔也の肩に凭れ掛かる。気付いた朔也が、横目で天月をチラリと見た。
「ちょっとだけ、ちょっとでいいから肩貸して…。昨日、家からのゴタゴタした手紙読んで落ち込んじゃって。あんまり寝てないんだ」
「……」
薄く笑う天月の表情は、さすがの朔也でも真意が読み取れない。胡散臭い気はしたものの、少しだけならいいかと、文句は言わず天月にそのまま肩を貸し続けた。
「よいしょ」
雄大に支えてもらい、藤が竹馬に足を乗っける。最初こそ、トトトとバランスを取れずに勢いよく走ってしまったが、その内だんだん思い出して上手く乗れるようになっていた。
一段高い所からみんなを見下ろして、いい気分で横を向くと、朔也に凭れ掛かっている天月の姿が目に入って来た。動揺してぐらりと揺れる藤に、近くにいた雄大が慌てて支える。
「大丈夫?」
「あ、うん。ごめん、大丈夫」
気にはなったけど、あんまり見続けるのも天月を良い気分にさせてしまうようで癪に障り、あえて無視してそのまま竹馬に乗り続けた。だけど藤の心の中は荒れまくっている。
(なんであんな天月なんて奴に肩なんて貸してるんだよ!つき飛ばしちゃえばいいのに!)
心の中でさんざん悪態を吐きながらも、藤自身は表面上は楽しく振舞っているつもりだった。
「……いつまでそうやってるつもりだ?」
何も言わずにいると、そのまま当たり前のように朔也にさらに引っ付いて、肩に凭れ掛かってくる天月にそろそろ離れろと促す。
「いいじゃないたまには。いっつも藤が取っちゃってるんだもんこの場所。まるで親羊が子羊を見守っているみたいにさ」
朔也が眉根を寄せて天月を見ても、少しも動じる気配のない天月はさらに言葉を続ける。
「僕も藤みたいに見守ってほしいな」
甘えるように上目遣いで見上げる天月を、朔也は鼻で笑った。
「君にはそんなもの必要ないだろう?」
うっすら笑って相手にしない朔也に、さすがの天月もムッとする。ふうっとため息を吐いて立ち上がり、「意地悪!」と文句を言った。
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