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手折ってはいけない花
羽柴との約束
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「さっき聞こえたんだけどさ、お前明日休みなんだって?」
「うん」
「じゃあさ、羽柴さんに連絡つけてやろうか」
「え?」
庄太の言葉にキョトンとして顔を上げる。
「だってお前誘われてんだろ? 遊んで来いよ。あの人、金持ちだからきっと良い物食わせてくれるぞ」
「いや、僕は…」
藤は食べ物なんて興味は無い。というか、どちらかというと人間の食事は正直食べたいとは思えなかった。
元が人間の藤は、お腹を空かせたときのご飯の美味しさを知っている。だからこそ、腹の満たない満足感を伴わないかつての人間の食事が、下手に郷愁を誘って、悲しくなるのだ。
「飯じゃなくてもさ、芝居小屋とかいろいろあるだろ。あんなに優しい人の誘いを無下に断り続けるってお前、人としてどうかと思うぞ」
三人に寄ってたかって説得され、藤はとうとう折れた。
それに朔也だって、という気持ちもその決断を後押ししていた。
「羽柴さんと遊びに行くのは良いけど、もう明日の事だから羽柴さんには急すぎるんじゃないの?」
「大丈夫だろ。よし、今からひとっ走りしてきてやるから待ってろ!」
「「待ってろ!」」
庄太に続き信吾や茂吉も走り出して行った。
そして店じまいをしている最中に三人が戻ってくる。
羽柴からの、午後に迎えに行くという伝言を藤に伝え、彼らは足早に去って行った。
◇◇◇◇◇
「藤」
店での夕餉の時間、朔也が何気なく藤の腕を引っ張る。その際、朔也の掌から掴まれた藤の腕へと温かい"気"が流れ込んでくる。
いつものように優しい"気"。ずっと拗ねて言葉も発しない藤に、変わらず毎日のように"気"を注いでくれる朔也。その根気ある温かく優しい"気"に、藤の拗ねた気持ちも少し和らいできた。
久しぶりにちゃんと顔を上げて朔也の顔を見ると、もう朔也も何も気にしていないと言った風情で、優しい目で藤の瞳を見つめていた。
(人間の食事がすんだら、謝ろうかな)
本当にこの時は、藤は本心からそう思っていた。
「うん」
「じゃあさ、羽柴さんに連絡つけてやろうか」
「え?」
庄太の言葉にキョトンとして顔を上げる。
「だってお前誘われてんだろ? 遊んで来いよ。あの人、金持ちだからきっと良い物食わせてくれるぞ」
「いや、僕は…」
藤は食べ物なんて興味は無い。というか、どちらかというと人間の食事は正直食べたいとは思えなかった。
元が人間の藤は、お腹を空かせたときのご飯の美味しさを知っている。だからこそ、腹の満たない満足感を伴わないかつての人間の食事が、下手に郷愁を誘って、悲しくなるのだ。
「飯じゃなくてもさ、芝居小屋とかいろいろあるだろ。あんなに優しい人の誘いを無下に断り続けるってお前、人としてどうかと思うぞ」
三人に寄ってたかって説得され、藤はとうとう折れた。
それに朔也だって、という気持ちもその決断を後押ししていた。
「羽柴さんと遊びに行くのは良いけど、もう明日の事だから羽柴さんには急すぎるんじゃないの?」
「大丈夫だろ。よし、今からひとっ走りしてきてやるから待ってろ!」
「「待ってろ!」」
庄太に続き信吾や茂吉も走り出して行った。
そして店じまいをしている最中に三人が戻ってくる。
羽柴からの、午後に迎えに行くという伝言を藤に伝え、彼らは足早に去って行った。
◇◇◇◇◇
「藤」
店での夕餉の時間、朔也が何気なく藤の腕を引っ張る。その際、朔也の掌から掴まれた藤の腕へと温かい"気"が流れ込んでくる。
いつものように優しい"気"。ずっと拗ねて言葉も発しない藤に、変わらず毎日のように"気"を注いでくれる朔也。その根気ある温かく優しい"気"に、藤の拗ねた気持ちも少し和らいできた。
久しぶりにちゃんと顔を上げて朔也の顔を見ると、もう朔也も何も気にしていないと言った風情で、優しい目で藤の瞳を見つめていた。
(人間の食事がすんだら、謝ろうかな)
本当にこの時は、藤は本心からそう思っていた。
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