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手折ってはいけない花

素直になれない

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藤がいつものように店先を掃いていると、三吉が走って来た。

「旦那様が今、休みの日を決めてるんだけど、藤はどうする?」
「休みの日って、あの月一の?」
「そ。俺はもうちょっと後でいいかなと思ってるんだけど」

三吉に言われて朔也はどうするんだろうと、ぼんやり考えていると、店の奥で万理と梅の話し声が聞こえて来た。
格別元気な梅の声はここまで丸聞こえだった。

「で、で? 朔也はお休みをいつ取るんです? もちろんその時はお嬢様をどこかに誘ったりするでしょうから、その時はもちろん承諾なさるんでしょ?」
「いやだわ、梅ったら。でも、そうね。朔也とだったらどこに行っても、きっと楽しいと思うわ」

万理は満更でもなさそうに、嬉しそうに返事をしている。

藤の気持ちが、また嫌なものに侵食されていく。モヤモヤとしたものが広がって、梅の「もちろんその時はお嬢様をどこかに誘ったり」というフレーズが引っかかった。

(もちろんってなんだよ。もちろんって…。梅の見た目からも朔也と万理はそんなに仲が良いって事なのか?)

眉間にしわを寄せて俯いていると、三吉が藤の返事を促した。

「で、どうするんだ? 藤は」

「あ、えっと。いつでもいいや」
「そうなんだ。じゃあ、急だけど明日にするか? それ以降だと確か…」

三吉が手元の紙を広げて、他の休んでいい日の確認をしようとした。

「いいよ。明日で」
「他の日もあるよ? 確認しないでいいの?」
「うん」

万理や朔也を見て、モヤモヤイライラするよりは、気分転換にちゃっちゃと休んで気晴らしした方がいいと藤は思ったのだ。
「分かった。じゃあ旦那様に報告してくる」

三吉が店の中へと入って行ったあと、藤は竹ぼうきを持ち直して、店先の掃除を始めた。

自然と出るため息。
あのまま朔也とはろくに話をしていない。
それというのも藤が拗ねたままになっていて、朔也を変に避けるようになっていたからだ。

「何でこんなことになっちゃったんだろ」

自分の事は棚に上げ、藤は愚痴をこぼしながらごみを掃く。

「よう。お疲れさん」

顔を上げるといつもの三人が手を振って、藤に近づいて来た。
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