きみと運命の糸で繋がっている

くるむ

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手折ってはいけない花

丁稚仲間

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しばらくのんびりしていると、新吉が顔を出した。

「…新吉だ。勇七さんから頼まれて食事に呼びに来た。お前らが新入りか?」

見た感じ十四、五歳くらいの年齢に見える。きりっとした目元が、責任感の強い真面目そうな雰囲気をうかがわせる。

「朔也に、こっちが藤だ。分からないこともあるだろうけど、よろしく頼むよ」
「…よろしく」

ぺこりと頭を下げる2人に、新吉は部屋から出るように促す。2人が動き出したところで廊下を歩きだした。そして軽く振り返り、朔也に声を掛けた。

「…お前、読み書きそろばんが出来るのか?」
「ああ」
「なんだ…。そうなのか」

朔也の返事に、少し苦々しい顔をする。

「俺はもう一、二年したら外回りに着いて行っても良いって言われてるんだ。勇七さんに読み書きそろばんも教えてもらってるんだけど、…そうか、出来るのか」

よっぽど朔也が羨ましいのか、何度も朔也の顔を見てはため息を吐く。そして今度は藤に視線を移した。
お前は?と、その目が聞いている。

「…ぼくはどちらも出来ないよ」

むすっと返すと、「そうか」と口元が綻ぶ。
藤は『この野郎』と心の中で呟いた。

一階に下りると主人ら家族が畳の間で食事をしている脇で、使用人たちが土間に椅子を置いて食事を始めていた。
先ほど朔也が助けた万理もそこで食事をしている。下りて来た朔也を見て、頬を赤く染めた。

新吉が一番端の空いている席に2人を座らせた。
それを見た主が箸を持つ手を止めて、パンパンと手を叩く。

「こんな場で悪いが紹介しておこう。万理を暴漢から救ってくれた朔也に藤だ。今日からここで住み込みで働いてもらう事になったので、みんなよろしく頼む」

主の紹介に、皆が一斉に朔也たちの方を見た。朔也が立ち上がったので、藤も習って慌てて立ち上がる。

「ご紹介に預かりました。朔也に藤です。頑張りますのでよろしくお願いします」
ぺこりと挨拶をして腰かけると、「頑張れよ」と声がかかった。



食事を終えた後は皆で湯屋に行ったあと、新吉ら丁稚は勇七にそろばんなどを教わるという。
朔也も藤も手代の部屋に呼ばれ、習う事にした。


藤は人間だったころに寺子屋に通った事はあったのだが、そろばんは苦手だった。
しかも、書く方も読む方もかなり簡単な文字だけしかわからないし、他の三人の丁稚たちよりも随分とデキが悪かった。
隣の朔也を見ると、スラスラと書き写し、そろばんも難なく弾いている。

「…朔也は教えてあげる方でもいいんじゃないの?」

あまりにも自分と違い、上手すぎる朔也に藤の眉がぴくぴく動く。

「そうだよね。いっそのこと、朔也は藤専用の先生になったらどうだ」
「構いませんよ。教えがいがあるね、藤」

にっこり笑う朔也に、藤は頬を膨らまし、思いっきり剥れた。


「あの、もし良かったら俺が教えてもいいよ?」

隣で朔也たちの話を聞いていた三吉が声を掛ける。おずおずと、だけどどこかワクワクした表情の三吉に、藤がキョトンと見つめる。

「そろばん得意なの?」

「おい、おい。三吉! お前は藤に毛が生えた程度だろ?人に構ってる場合じゃないぞ」

二人の会話を聞いていた勇七が、呆れて三吉を窘める。

「え?そうなの?」

驚いて聞き返す藤に、三吉がバツの悪そうな顔で笑う。

「…だってさ、なんか仲間が出来たような気がしてちょっとうれしかったんだよ。それに藤より出来るのは確かだし! でっ!」

後半得意げに話す三吉を、勇七がそろばんで小突いた。それにへへへと誤魔化して、手元の紙を引き寄せる。
どうやら三吉は、ちょっぴりお調子者のようだ。
丁稚仲間に意地悪な人がいると嫌だなと思っていたので、そんな三吉に藤はホッと胸をなでおろしていた。


「藤」
冷ややかな声で朔也に呼ばれて振り返る。

「きみが一番デキが悪いのは事実のようだから、真面目にしろよ」

大人しくしている自分に小言を言う朔也にムッとしたものの、余りにも冷たい雰囲気を纏っている朔也にビビり、「分かったよ」と呟いてそろばんを弾く。
そんな藤の態度に、三吉はますます喜んで笑いかけた。

(…マジで出来の悪い仲間だと思われている)
藤が複雑な思いで笑い返すのを、冷たい目で朔也が見ていたが、当の藤は気がついてはいなかった。


そしてこの勉強会は、就寝時間の三十分前くらいまで続いたのだ。
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