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手折ってはいけない花
甘木屋
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少女に案内してもらった店は、甘木屋といって結構な店構えであった。
少女の言っていたように菓子屋の隣でお茶も販売している。
「お父さん、お母さん、ただいま」
「万理、遅かったな」
「お帰りなさい」
少女の両親が奥から出てきた。
そして、後ろに控えている朔也と藤に目をとめた。
「この子たちは?」
「あ、えっと、実はさっき変な男の人に絡まれている所を、こちらの方たちに助けてもらったの」
「え!?」
「何?変な男!?」
「大丈夫だったの?怪我は?」
「何ともないわ。すんでの所でこの方たちが現れて…」
そう言って、万理は二人を振り返った。
「ああ、ありがとうございました。何とお礼を言ったらいいのか…!」
二人は、藤と朔也の手を取り、頭を下げた。
「あー、いえ…」
藤は、自分は何もしていないので、返事のしようがない。
口籠る藤の隣で朔也が返事をした。
「たいしたことじゃないです。たまたま通りがかったもので」
「でも、あなた方が居て下さらなかったら、万理がどうなっていたのか…。本当に有難う御座いました」
何度も頭を下げる両親を横に、万理が先ほどの約束を果たそうと口を開いた。
「それでね、あの、この方たちをこちらで雇ってあげられないかなと思って。住み込みで働き先を探しているらしいの」
「まあ、それなら丁度いいじゃないの」
万理の母親が相好を崩して顔を上げる。
「そうだな。そろばんとか出来るのかな?」
「はい。出来ます」
相当自信があるのか、朔也は顔を上げてはきはきと返事をした。
そうか、そうかと、万理の父親は満足そうにうなずいた後、藤を見る。
「あ、えと…ぼくは…」
朔也と違ってそんな特技を持っていない藤は、なんと答えたものかと戸惑っていた。
その様子を黙って見ていた万理の母親が口を開く。
「あなたは男の子にしては可愛らしいから、お店の方で売り子の手伝いをしてもらうと良いかもね」
「え?」
売り子?と、藤が目を白黒させていると、万理の父親が藤をじっと見て、楽しそうに笑う。
「ああ、そうだな。本来なら奥の仕事をしてもらうんだが、万理を助けてもらったことだし、それに今は奥の仕事は人手が足りているからなあ。それにきみなら看板娘…いや看板息子になれそうだしな」
藤は、可愛いだの看板娘だのと言われ、恥ずかしさに顔が熱くなってくる。
彼は確かに少年にしては愛らしく、少女っぽい雰囲気を持っている。
それでからかわれたりした事が過去に何度もあり、正直あまり嬉しくはなかった。
それを知ってか知らずか、朔也が珍しく口を挿んできた。
「…藤には、裏方のお手伝いの方が良いと思うのですけど…。彼に接客なんて出来るかどうか」
「大丈夫よー、こんなに可愛らしいんだから。きっと、藤目当てのお客さんも増えるわよ」
そう言って、万理の母、おかみさんがコロコロと笑う。
藤は複雑な気分だった。働くのは吝かではないが、可愛いって何度も連呼するなと言いたい。
少女の言っていたように菓子屋の隣でお茶も販売している。
「お父さん、お母さん、ただいま」
「万理、遅かったな」
「お帰りなさい」
少女の両親が奥から出てきた。
そして、後ろに控えている朔也と藤に目をとめた。
「この子たちは?」
「あ、えっと、実はさっき変な男の人に絡まれている所を、こちらの方たちに助けてもらったの」
「え!?」
「何?変な男!?」
「大丈夫だったの?怪我は?」
「何ともないわ。すんでの所でこの方たちが現れて…」
そう言って、万理は二人を振り返った。
「ああ、ありがとうございました。何とお礼を言ったらいいのか…!」
二人は、藤と朔也の手を取り、頭を下げた。
「あー、いえ…」
藤は、自分は何もしていないので、返事のしようがない。
口籠る藤の隣で朔也が返事をした。
「たいしたことじゃないです。たまたま通りがかったもので」
「でも、あなた方が居て下さらなかったら、万理がどうなっていたのか…。本当に有難う御座いました」
何度も頭を下げる両親を横に、万理が先ほどの約束を果たそうと口を開いた。
「それでね、あの、この方たちをこちらで雇ってあげられないかなと思って。住み込みで働き先を探しているらしいの」
「まあ、それなら丁度いいじゃないの」
万理の母親が相好を崩して顔を上げる。
「そうだな。そろばんとか出来るのかな?」
「はい。出来ます」
相当自信があるのか、朔也は顔を上げてはきはきと返事をした。
そうか、そうかと、万理の父親は満足そうにうなずいた後、藤を見る。
「あ、えと…ぼくは…」
朔也と違ってそんな特技を持っていない藤は、なんと答えたものかと戸惑っていた。
その様子を黙って見ていた万理の母親が口を開く。
「あなたは男の子にしては可愛らしいから、お店の方で売り子の手伝いをしてもらうと良いかもね」
「え?」
売り子?と、藤が目を白黒させていると、万理の父親が藤をじっと見て、楽しそうに笑う。
「ああ、そうだな。本来なら奥の仕事をしてもらうんだが、万理を助けてもらったことだし、それに今は奥の仕事は人手が足りているからなあ。それにきみなら看板娘…いや看板息子になれそうだしな」
藤は、可愛いだの看板娘だのと言われ、恥ずかしさに顔が熱くなってくる。
彼は確かに少年にしては愛らしく、少女っぽい雰囲気を持っている。
それでからかわれたりした事が過去に何度もあり、正直あまり嬉しくはなかった。
それを知ってか知らずか、朔也が珍しく口を挿んできた。
「…藤には、裏方のお手伝いの方が良いと思うのですけど…。彼に接客なんて出来るかどうか」
「大丈夫よー、こんなに可愛らしいんだから。きっと、藤目当てのお客さんも増えるわよ」
そう言って、万理の母、おかみさんがコロコロと笑う。
藤は複雑な気分だった。働くのは吝かではないが、可愛いって何度も連呼するなと言いたい。
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