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第二章

油断しちゃダメ

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「……一理の奴、最近顔つきが険しくなってきているな」
「生肉を食えないストレスなんじゃないか? ……あいつ、本当にここで暮らしていけるのか?」
「…………」
「…………」

「気を付けた方がいいかもしれないな」
「え?」

深刻な表情で呟く大翔さんに、なにを考えているのか少し嫌な予感がした。

「……一理は、元は人を食うこともためらわない肉食人種だ。ストレスが溜まって、人を襲い掛かりたくなるかもしれん」
「そんな……。そんなことないよ。だって、人を食べるのは戦いがあった時に、稀にだって言ってたよ?」
「……だけどホテルの女性は食われたじゃないか。それに今は一理にとっては臨戦状態に近いんじゃないのか? 体は飢えてはいないはずだが、味覚に関する飢餓感は半端ないものだと思うぞ?」

余りにも重い大翔さんの言葉に、誰も二の句を継げなかった。
しばらく重苦しい空気が僕らの周りを漂う。

「とにかく、あいつと2人っきりにはなるな。……志音、油断するなよ?」
「……うん、わかった」

ただ、ストレスばかりを強要するのは良くないと僕らも反省し、晴斗さんに頼んで刺身を追加で頼んでもらうようにお願いして、兄さんに久しぶりにナマものを食べてもらった。

「どう? 美味しかった? 兄さん」
「……ああ。久しぶりにちゃんとした味の物を食べれて美味かった」
「そう。……良かった。……分かってほしいんだけど、僕らは兄さんをいじめたいわけじゃないんだよ? ただ、ここの常識に慣れて欲しいだけだから」

「……ああ」

そう言って頷いてくれた兄さんだったけど、やっぱり加熱した肉を美味しいとは思ってもらえないようだった。

そりゃ、例えばスーパーで買って来たお肉を、そのまま生で食べてもらうというのも良いかもしれないけど、そうやって甘やかしてしまっていては他所様と一緒にご飯を食べに行くことも出来ない。僕んちでずっと引きこもった生活をしなければならない事になる。
それはそれで問題だし、第一生肉を食べる兄さんの姿を見ることは僕自身に抵抗があって仕方がなかったんだ。
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