9 / 16
第二章
揺れる想い
しおりを挟む
「えっと、どういうこと? 僕にも分かるように説明して?」
「ああ。訓練しなきゃいけないだろってこと。加熱した肉を食べることに慣れてもらえれば、ここで生活することだって出来るだろ」
「……ああ! うん、そうだね。そうだよね! ありがとう! ありがとう大翔さん!!」
嬉しくって、やっと安心できた僕は何度も何度もお礼を言った。大翔さんも新さんも笑って頷いて、そして晴斗さんに別荘を使ってもいいか、家族の許可を取ってもらった。
「いいってさ。しかも運がいいことに、先週まで従弟たちが借りてたらしいから掃除しなくてもすぐ使えるようだぞ」
「ありがとう、晴斗さん。お世話になります!」
……というわけで、僕らは各々の家に連絡をして、兄さんの訓練のためさらに一週間晴斗さんの別荘で過ごすことになった。
食べられてしまった人には悪いけど、僕らはそのままチェックアウトを済ませてホテルから出た。
朝の10時にホテルを出発して電車に長々と揺られ、レンタカーを借りて晴斗さんの別荘に到着した時には、既に夕方になっていた。
見た目に反してセレブな晴斗さんは、別荘で過ごすことに慣れていて、手慣れた具合に諸々の手続きを済ませていた。
そして山の麓にある取次所で、食料をどっさり詰めこんだ荷物を受け取った。
「悪いな、晴斗。後でちゃんと清算するから人数分に分けて教えてくれ」
「うん」
「ごめんね、晴斗さん。みんなも……。無理言っちゃって」
いろいろ迷惑かけてる自覚はあるんだ。
ただどうしても、この兄さんそっくりの異世界人を放っておくことが、僕にはどうしても出来ない。
だけどこの異世界人は、自分が悪いことをしているという感覚が無いからだろう。長い時間窮屈な状態に置かれていることに不満そうだ。
時々独り言のように、ぶちぶちと文句らしいことを言っている。
ただ、どうやら自分が助けてもらっている意識はあるようで、僕らにはっきり文句をいうことは無かった。
それぞれの荷物を片付けて、みんなやっと寛いでリビングのソファに座る。
チラッと、向かい側に座っている兄さんそっくりの異世界人を見ると、彼もこちらを見ていたようでパチリと目が合った。
黙って静かにこちらを見ているその顔は、本当に兄さんそっくりだった。
本物だと言ったとしても誰も否定出来ないくらいのレベルのその容姿に、僕は甘えて抱き着いてわんわん泣きたいくらいの衝動に駆られている。
もちろんそんなことは出来ないから、必死で堪えてはいるんだけど。
ジッと目と目を合わせていると、兄さん……違った、異世界人は、ほんの少し表情を和らげて僕に微笑みかけたように見えた。
……トクン。
トクン、トクン。
どうしよう、抱き着きたい!
兄さんって叫んで、何で帰ってこないんだって問い詰めて、わんわん泣いてぎゅうぎゅうと抱き着きたいよ!
恨めしいほどに激似しているこの人に、どうしても兄さんの面影を感じてしまって、僕の心は騒めき始めていた。
「ああ。訓練しなきゃいけないだろってこと。加熱した肉を食べることに慣れてもらえれば、ここで生活することだって出来るだろ」
「……ああ! うん、そうだね。そうだよね! ありがとう! ありがとう大翔さん!!」
嬉しくって、やっと安心できた僕は何度も何度もお礼を言った。大翔さんも新さんも笑って頷いて、そして晴斗さんに別荘を使ってもいいか、家族の許可を取ってもらった。
「いいってさ。しかも運がいいことに、先週まで従弟たちが借りてたらしいから掃除しなくてもすぐ使えるようだぞ」
「ありがとう、晴斗さん。お世話になります!」
……というわけで、僕らは各々の家に連絡をして、兄さんの訓練のためさらに一週間晴斗さんの別荘で過ごすことになった。
食べられてしまった人には悪いけど、僕らはそのままチェックアウトを済ませてホテルから出た。
朝の10時にホテルを出発して電車に長々と揺られ、レンタカーを借りて晴斗さんの別荘に到着した時には、既に夕方になっていた。
見た目に反してセレブな晴斗さんは、別荘で過ごすことに慣れていて、手慣れた具合に諸々の手続きを済ませていた。
そして山の麓にある取次所で、食料をどっさり詰めこんだ荷物を受け取った。
「悪いな、晴斗。後でちゃんと清算するから人数分に分けて教えてくれ」
「うん」
「ごめんね、晴斗さん。みんなも……。無理言っちゃって」
いろいろ迷惑かけてる自覚はあるんだ。
ただどうしても、この兄さんそっくりの異世界人を放っておくことが、僕にはどうしても出来ない。
だけどこの異世界人は、自分が悪いことをしているという感覚が無いからだろう。長い時間窮屈な状態に置かれていることに不満そうだ。
時々独り言のように、ぶちぶちと文句らしいことを言っている。
ただ、どうやら自分が助けてもらっている意識はあるようで、僕らにはっきり文句をいうことは無かった。
それぞれの荷物を片付けて、みんなやっと寛いでリビングのソファに座る。
チラッと、向かい側に座っている兄さんそっくりの異世界人を見ると、彼もこちらを見ていたようでパチリと目が合った。
黙って静かにこちらを見ているその顔は、本当に兄さんそっくりだった。
本物だと言ったとしても誰も否定出来ないくらいのレベルのその容姿に、僕は甘えて抱き着いてわんわん泣きたいくらいの衝動に駆られている。
もちろんそんなことは出来ないから、必死で堪えてはいるんだけど。
ジッと目と目を合わせていると、兄さん……違った、異世界人は、ほんの少し表情を和らげて僕に微笑みかけたように見えた。
……トクン。
トクン、トクン。
どうしよう、抱き着きたい!
兄さんって叫んで、何で帰ってこないんだって問い詰めて、わんわん泣いてぎゅうぎゅうと抱き着きたいよ!
恨めしいほどに激似しているこの人に、どうしても兄さんの面影を感じてしまって、僕の心は騒めき始めていた。
12
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説

初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。


【完結】試練の塔最上階で待ち構えるの飽きたので下階に降りたら騎士見習いに惚れちゃいました
むらびっと
BL
塔のラスボスであるイミルは毎日自堕落な生活を送ることに飽き飽きしていた。暇つぶしに下階に降りてみるとそこには騎士見習いがいた。騎士見習いのナーシンに取り入るために奮闘するバトルコメディ。
当て馬系ヤンデレキャラになったら、思ったよりもツラかった件。
マツヲ。
BL
ふと気がつけば自分が知るBLゲームのなかの、当て馬系ヤンデレキャラになっていた。
いつでもポーカーフェイスのそのキャラクターを俺は嫌っていたはずなのに、その無表情の下にはこんなにも苦しい思いが隠されていたなんて……。
こういうはじまりの、ゲームのその後の世界で、手探り状態のまま徐々に受けとしての才能を開花させていく主人公のお話が読みたいな、という気持ちで書いたものです。
続編、ゆっくりとですが連載開始します。
「当て馬系ヤンデレキャラからの脱却を図ったら、スピンオフに突入していた件。」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/239008972/578503599)

ある意味王道ですが何か?
ひまり
BL
どこかにある王道学園にやってきたこれまた王道的な転校生に気に入られてしまった、庶民クラスの少年。
さまざまな敵意を向けられるのだが、彼は動じなかった。
だって庶民は逞しいので。


そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

残念でした。悪役令嬢です【BL】
渡辺 佐倉
BL
転生ものBL
この世界には前世の記憶を持った人間がたまにいる。
主人公の蒼士もその一人だ。
日々愛を囁いてくる男も同じ前世の記憶があるらしい。
だけど……。
同じ記憶があると言っても蒼士の前世は悪役令嬢だった。
エブリスタにも同じ内容で掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる