悪行を重ねた令息は断罪されたくないので生き方を変えました。誰の愛も欲しがらないと決めたのに、様子がなんだか変なんです

くるむ

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第一章

勉強中です

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 試験が近いせいもあるのだろう。エイドリアンも、いつもはいろいろとぼくに構ってくれるのだけど、今日は自分のテキストに集中している。
 その横顔をチラリと窺ってみた。すっと伸びた眉に意外と真剣な瞳。エイドリアンは、やっぱりどこからどう見ても恰好よかった。
 両想いってやつなんだな、こんな素敵な人と。何だか信じられないや。

「コホン」
 わざとらしい咳に顔をあげれば、兄上がちょっぴり眉をしかめて僕を見ていた。

 うわわっ、エイドリアンに見惚れているのを兄上に見られていた。慌てて視線を外した先に、ブライアンの姿があって、おまけに目が合った。無視して目を離すのもなんだか今は変な気がして、軽く会釈をしてからテキストに目を落とした。
 ブライアンもここに来ていたんだな、気がつかなかった。
 それにしても、最近は彼とよく目が合うような気がする。僕が邪魔しない宣言をしたから、あえてもう避けることはないと思ったからなのかな?
 だけど隣のジェイミーは相変わらず僕に対する敵意がありありだから、ブライアンも僕のことなんか気にしなければいいのに。

「ショーン、ここ間違ってる。アルフレッド三世は現在の国王だ。第三代国王はジョージ二世だぞ」
「あ、そうでした。……僕、世界史って苦手なんですよね。計算のほうがまだマシかも」
「暗記ものが苦手なのか?」
「そうですね。退屈になって疲れちゃって」
「飽き性で根気がないのか?」
「まさにそれです」
「それはまずいな。ではそういうときは、」
「んっ、んー」

 わざとらしい咳払いが間近に聞こえて顔を上げると、自習室の今日の監督担当、ブリックニー先生が眉を吊り上げて立っていた。

 なるべく小声で話していたつもりだったけど、エイドリアンの声はわりかし通るいい声なんだ。それで先生としては、他人に迷惑をかける耳ざわりな会話に聞こえてしまったのかもしれない。
 でもそうでなくてもこの先生は、ほかの先生よりも些細なことでうるさいのだけど。

 エイドリアンは苦笑いをして、先生に「すみません」と会釈をした。
 そしてブリックニー先生が戻って行った後、エイドリアンが小声で「ちょっと待って」と言ってサラサラと何かを書いている。そして僕に書いたものを見せた。

「うわあっ」

 年代と統治者の名前、そして主な出来事に可愛らしい絵が添えられている。

「これなら覚えられるかもしれません」

 統治者の顔はわかりやすいように、動物やパンの顔に王冠とマントを着せた絵で表されていて、出来事のとなりにもその絵が描かれているものだから、誰が何をしたのかがわかりやすかった。

「それはよかった。じゃあしっかり覚えておいて。あとで覚えられたかどうか、一緒に確認しよう」
「はい、わかりました」

 エイドリアンがわざわざ僕に作ってくれたんだ。頑張らなくては。

 僕はエイドリアンから受け取った年表を、さっそく覚えることにした。
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