悪行を重ねた令息は断罪されたくないので生き方を変えました。誰の愛も欲しがらないと決めたのに、様子がなんだか変なんです

くるむ

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第一章

意外とかわいい方なんですね

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 交流会、楽しかった。
 ダンスも夢心地でよかったけどそれよりも、壁際で目立たないようにこそこそしないでいいことがあんなに楽だったなんて。食事も、一人で隠れるようにボソボソ食べるよりもずっとずっと美味しかった。

 ……でも、一つだけ恥ずかしかったことがある。エイドリアンに告白したことだ。
 僕の中では2人の世界だったのだけど、場所が場所のせいもありそうはいかなかったようだ。兄上やエリック達に見られていたのはもちろん分かっていたけど、僕らの近くにいた関係ない人たちまでがしっかりその状況を見ていたなんて思いもよらなかったんだ。

 それと予想ができていなかったのは、僕の気持ちもそうだ。まさかこんなに早く、エイドリアンに恋をするなんて思いもしなかった。……それとも自分が気がついていなかっただけで、本当はとっくにエイドリアンのことを好きになっていたんだろうか?

 いつものようにエリックたちと自習室で勉強しながらも、そんなことを考えてしまう。
「わからないな」
「どこの問題ですか?」
 エイドリアンのことを考えて知らないうちに独り言を呟いていたことが恥ずかしくて、慌てて手を振りながら否定した。
「あ、いや、そういう問題じゃなくて」
「と、言いますと?」

 鈍いエリックに、フローラ嬢がつんつんと小脇をつつく。それでもハテナマークを飛ばすエリックに、キャトリン嬢が「エイドリアン様のことに決まってるじゃないの」とささやいた。

 し、指摘しなくてもいいんだよキャトリン嬢。恥ずかしいじゃないか。
 ていうか僕、そんなに分かりやすい表情をしているのか?

 僕の顔を見たキャトリン嬢が、目を見開いた。

「ショーン様って意外と可愛い方なんですね」
「えっ?」

 実は密かに嫌われていると思っていたキャトリン嬢から話しかけられてびっくりした。しかも最初の言葉がかわいいだなんて驚くしかないだろう。 

「まあ、本当ですわね」
「でしょう? 驚きですわよね」
「今知ったのかい? 僕は前から気付いていたよ」

「な、何言ってるんだよ、エリックまで」

 じわじわと顔が熱くなって、汗まで吹き出してきたよ。僕は絶対にこんなキャラじゃないのに。

「やあ、にぎわってるね。でも静かにしてないと怒られちゃうよ」
 暗に騒がしいよと注意してくれてるのかもしれないけれど、どう考えてもそれに値しない大きな声でエイドリアンがやってきた。後ろには兄上やレオまでいる。

 一瞬ザワっと室内がざわめいた。だけど原則として私語厳禁な場所なので、すぐにまた静かになる。

「すみません、場所もわきまえずに」
「はしたなかったですわね」

 恐縮する令嬢たちの横でエリックも頭をかいていた。

「兄上たちも勉強ですか?」
「ああ、試験も近いだろう? みんなでやると少しは捗るんじゃないかと思って」

 兄上はそう言い、エリックの隣の席の椅子を引いてレオをこしかけさせた。
 最近まで知らなかったんだけど、兄上は意外と紳士なんだなぁと、変に感心してしまったのだ。
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