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嫉妬?

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 曲はワルツだ。
 ダンスは踊れないことはないのだけどあまり得意ではないので、ここは素直にエイドリアンに全てを任せることにしよう。

「あの、エイドリアン」
「なんだい?」
「僕、こんな場でのダンスは初めてで、緊張して失敗しちゃうかもしれないけど許してね」
「ああ、任せろ。大丈夫だ」

 こともなげに笑うエイドリアンが頼もしい。そして彼は決して嘘は言っていなかった。
 優雅に力強くエイドリアンは僕をリードする。ステップを多少間違えても、エイドリアンはそれさえも気にならないように誘導した。

「余分なことは考えないで、曲と俺に身を任せたらいい。気持ちがいいだろう?」
「はい」

 軽やかにフロアを舞っている中、視界にブライアンとジェイミーが踊ってる姿が入ってきた。綺麗で恰好いいブライアンに、妖精のように可愛らしいジェイミー。
 だけど、もう僕の胸は以前の様に掻き毟られるようなことはない。
 
 見上げた僕のそばにはエイドリアンの優しい顔。その顔を見ただけで、ほっと体の力が抜ける。体を支えてもらっているだけで怖いものは無く安心できる。

 逆にもしも、その僕を見る優しい瞳や支えてくれるたくましい腕がなかったら、こんなに平常心でいられただろうか。
 そんなことを考えただけで、僕の胸はぎりりと痛くなった。

 曲が終わり、戻るときに、いくつかの視線を感じた。
 いや、正確にはエイドリアンに向ける視線だ。

 やっぱりモテるんだよな。パートナーがいるくせに、エイドリアンのことをちらちら気にして見ている人の多いこと多いこと。その中には、時折僕のことを眉をしかめて見る人もいて、ちょっとやそっとの更生では、人の印象はそうそう変わらないんだなと実感する。

「そんなことないですよ」とエリックは言う。
 彼が言うには、僕が心を入れ替えてやり直したいと思っていることは、ほとんどの人が理解してくれているそうだ。ただ、今回に関してはエイドリアンの隣に居る僕にただ単に嫉妬しているだけではないのかと言うことだ。

「分かっていたけど、エイドリアンって本当にもてるんだね」
 面白くないものだから、僕はさっきからパクパクとプリンばっかり食べている。

「……大したことはないよ」
 目尻を下げるエイドリアンを、僕はじろりと睨んだ。
「こんなに視線が飛んでくるのに?」

 ムッとしてまたプリンを取ろうとした僕の手を、エイドリアンが握る。

「嫉妬してくれてるのかな? 俺にとってはそっちの方が大ごとだけど」
「はっ? えっ!?」
 し、嫉妬? 僕が?

 取られた手にチュッと口づけをされて、僕の心臓は恐ろしい程に跳ねた。
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