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第一章

いつもより5割増しです

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「ようアラン、ショーン」
 馬車を降りるなり、エイドリアンがやってきた。

 目の前に現れたエイドリアンは、いつもよりもっともっともっともっと恰好よくなっていた。
 いつもはそのまま降ろされていた前髪が七三に分けられ、かきあげたように後ろへ流されている。そしてゆるく癖をつけられた髪がいつものエイドリアンと違う印象を与えた。

 な、なんだこれ。普段の五割増しに大人っぽくなってるし色気あるぞ。

 ついタジタジとして二、三歩後ずさってしまった。

「ええー? 何、俺似合ってない? 傷つくなー」

 えええっ?

「それ、違うだろ。逆だよ」
「逆?」
「そ。いつもより2割増しに恰好いいから照れてるんだろ」

「本当?」
「五割増しです!」
「えっ?」
「あ」

 僕を覗き込んだ瞳は丸くなり、そして頬がじわじわと赤くなった。そんなエイドリアンに、僕の顔もじわじわと熱くなってきた。
 何で僕はばか丁寧に本心を言っているんだろう。

「全く。初々しいな」
「しょうがないだろ。好きな子に褒められて平常心でいられるやつなんてそうそう居ないぞ」

 なんて言いながらもエイドリアンは、もう立ち直っていて堂々と胸を張っている。
 ちらりと窺うと目が合って、僕の顔にまたカーッと熱が集まる。

  本当にどうしたっていうんだろう、僕は。
 エイドリアンがカッコイイのは今に始まったことじゃないのに直視できない。ドキドキしている。

 エイドリアンの手がスッと伸びてきて僕の手を握った。

「エスコートだ。今日の君は可愛すぎて放っておけないからな。……クラバット、俺の目の色にしてくれたんだな」
「えっ、はい。約束でしたから」
「嬉しいよ」
 そういうエイドリアンのクラバットの色はブルーだ。

「ここにいたのか、みんな」
 これまたいつもより数段綺麗になったレオと、それほど気合いをいれていないタイソンがやってきた。

 兄上もレオには目を奪われたようだった。銀髪の彼に似合っている、白に近い淡いグレーを基調としたタキシードに、兄上の髪の色を意識した金茶の筋がいくつも入っていて、ポケットチーフはブルーだ。

「……いつも綺麗だけど、今日はどう表現していいか分からないくらい綺麗だ」
「アランも素敵だよ。誰にも見せたくないくらいだ」

 兄上がデレている……。普段見かけない態度に、見ているこちらが恥ずかしくなる。
 でもなぜか目が離せなくてじっと見ていると、兄上と目があった。

「さて、そろそろ会場に行くとするか」
 そう言って兄上はレオの手を取って歩きはじめた。僕らもあとに続いた。
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