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兄と弟

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 僕は待ち焦がれてなんかいなかったけれど、とうとう交流会の日になってしまった。
 夕べなかなか眠れなかった僕は、久しぶりにマリーに起こされた。支度をして朝食を取りに行くと、やはりもうすでに兄上はテーブルについていた。

「おはようございます、兄上」
「おはよう。今日は久しぶりに遅いな。緊張して眠れなかったのか?」
「あっ、はい」

 緊張なのかワクワクなのかドキドキなのかさっぱりわからないけれど。……やっぱり緊張なのかな?

「エイドリアンから聞いたよ」
「えっ? え?」

 何を聞かれたんだろう? 兄上に憧れて、やけになって暴れていたことだろうか。
 それはちょっとやめてもらいたい。

「エイドリアンが、前からショーンのことを気に入っていたのは知っていた」

 えっ、あっ、そっち!
 ……そっちも恥ずかしい。

「エイドリアンがその気なのだから、家格的にはまあまあなんとかなるだろう。今のショーンなら勉学にも励んでいるようだし何の遜色もない。その気があるなら及ばずながら僕も協力するよ」

「兄上……」

 何の遜色もないだなんて、兄上が僕のことをそんなふうに思ってくれてるなんて知らなかった。
 この間は僕のことを気遣ってもくれたし。

「どうだ? エイドリアンと一緒になりたいと思うか?」
「……正直言って、まだ僕は自分の気持ちがよくわかりません。それにエイドリアンは公爵家なので、きっと僕の以前の素行も調べられるでしょう。なのでもう少し自分を律しながら、エイドリアンへの気持ちを確かめてみたいと思います」

 お兄様は少し真顔になった。
「本当に変わったんだな」
「え?」
「言ってはなんだが、前のショーンは人のことを慮ることなんてなかっただろう。今はこうやって周りも見ることができるようになった。感心しているんだ」

「あ、それは多分……」

 誰かに毒殺されるような終わり方をもうしたくなかったっていう気持ちが大きかったんだけど。でも、それよりも今は、エリックと友達になれたことが大きいかもしれない。友人ができて少し気持ちの余裕ができて……。
 それから――。

 エイドリアンだ。

 彼は前も今も、僕に変わらず構ってくれて。


 死ぬ前には気付かなかった。
 ううん、巻き戻った今までも気づいていなかった。公爵家で皆から一目置かれていて、僕のことなんか気遣う必要のないような人なのに、ずっと変わらず僕のことを見てくれていた。

「僕、本当にバカだったな」
「えっ?」
「あっ、いえ。今まで僕は、僕のことを気遣う人もいてくれてたのに、ちっとも気付かないでふてくされていたんです。変わろうと思ったときに自分を省みることが必要だったんだなってやっとわかりました。それに他人を色眼鏡で見ないエリックの存在も大きかったです」

「そうか。僕もショーンの気持ちに気づいてあげられなくて悪かったな」
「いえ、そんなことはないです! 僕は今こうやって話しかけられたり、気遣ってもらえてることが嬉しいですから!」

「……そうか、ならよかった」

 兄上の頬がほんの少し赤かった。
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