上 下
20 / 32

エイドリアンの告白

しおりを挟む
 交流会が間近になり、学園内の雰囲気はふわふわしている。令嬢同士ではドレスの話題に花が咲き、片思いを実らせた者たちはそこかしこで愛を語らい合っている。
 みんながみんな両想いでパートナーになったわけではないのだろうけれど、とにかく壁の花にならずに済んだという思いから、ほっとした雰囲気が漂っていた。

 死ぬ前の僕は、そんな中からあぶれていたんだよな。


 昼食を食べ終えた後エイドリアンに呼ばれ、2人で中庭のベンチに座っている。相変わらず居心地の悪さと不思議な気持ちはあるけれど、2度目ともなれば少しは慣れた。 
 少し離れたところでも同じように2人組の人がいる。彼らも交流会でパートナーを組む相手だろうか。

「タキシードはもう届いたのかい?」
「はい。3日ほど前に」
 モード商が来たときのことを思い出して、笑みがこぼれた。
「どうした?」
「あっ、すみません。採寸を取る時の母上のことを思い出してました。生地やレースまで、細かいデザインに関することにまで口を出してまして、なんだかはしゃいでるように見えたので」

「うれしかったんじゃないのかな。かわいい息子が着飾るんだ。――ショーンはパーティーが初めてなんだろ?」
「はい。僕は素行が悪すぎたので、父上から仮病を通すように言い渡されてましたから」

「それは、アランが羨ましかったからだろう?」
「えっ?」

 言葉にしたことなどないはずなのに、それを言い当てられて、心臓がキュッとなった。

「アランは真面目だし、頭がいい。しかも嫡男だからショーンとは教育のあり方も違って差ができた。それに劣等感を覚えていたんだろう?」

「…………」
 自分が今まで隠してきた気持ちを言い当てられて、いい気持ちなどするわけなかった。俯いて唇をキュッとかんだ。
 頭上に、温かい手のひらがポンと乗っかり、えっ?と思う。

「ショーンも真面目で可愛いよね」
「……え?」
「アランに憧れてアランのようになりたかったんだろ? だけど、どうしても思うようにいかないものだから自分に嫌気が差して他人と上手く接することができなくなっちゃったんだよな? 不器用で真面目で可愛いよ」

「……エイドリアン」

 エイドリアンが僕の両手をぎゅっと包み込むように握る。

「俺はそんなショーンをずっと見てきた。優しく手を引いて守ってやれないだろうかといつも考えていた。――俺は、ショーンのことが好きなんだ。俺とのこと、真剣に考えてくれないか」

 ブルーグリーンの瞳が、真剣な色を見せた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

狂わせたのは君なのに

白兪
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。 完結保証 番外編あり

やり直せるなら、貴方達とは関わらない。

いろまにもめと
BL
俺はレオベルト・エンフィア。 エンフィア侯爵家の長男であり、前世持ちだ。 俺は幼馴染のアラン・メロヴィングに惚れ込み、恋人でもないのにアランは俺の嫁だと言ってまわるというはずかしい事をし、最終的にアランと恋に落ちた王太子によって、アランに付きまとっていた俺は処刑された。 処刑の直前、俺は前世を思い出した。日本という国の一般サラリーマンだった頃を。そして、ここは前世有名だったBLゲームの世界と一致する事を。 こんな時に思い出しても遅せぇわ!と思い、どうかもう一度やり直せたら、貴族なんだから可愛い嫁さんと裕福にのんびり暮らしたい…! そう思った俺の願いは届いたのだ。 5歳の時の俺に戻ってきた…! 今度は絶対関わらない!

偽物の僕は本物にはなれない。

15
BL
「僕は君を好きだけど、君は僕じゃない人が好きなんだね」 ネガティブ主人公。最後は分岐ルート有りのハピエン。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

転生先がハードモードで笑ってます。

夏里黒絵
BL
周りに劣等感を抱く春乃は事故に会いテンプレな転生を果たす。 目を開けると転生と言えばいかにも!な、剣と魔法の世界に飛ばされていた。とりあえず容姿を確認しようと鏡を見て絶句、丸々と肉ずいたその幼体。白豚と言われても否定できないほど醜い姿だった。それに横腹を始めとした全身が痛い、痣だらけなのだ。その痣を見て幼体の7年間の記憶が蘇ってきた。どうやら公爵家の横暴訳アリ白豚令息に転生したようだ。 人間として底辺なリンシャに強い精神的ショックを受け、春乃改めリンシャ アルマディカは引きこもりになってしまう。 しかしとあるきっかけで前世の思い出せていなかった記憶を思い出し、ここはBLゲームの世界で自分は主人公を虐める言わば悪役令息だと思い出し、ストーリーを終わらせれば望み薄だが元の世界に戻れる可能性を感じ動き出す。しかし動くのが遅かったようで… 色々と無自覚な主人公が、最悪な悪役令息として(いるつもりで)ストーリーのエンディングを目指すも、気づくのが遅く、手遅れだったので思うようにストーリーが進まないお話。 R15は保険です。不定期更新。小説なんて書くの初めてな作者の行き当たりばったりなご都合主義ストーリーになりそうです。

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…

彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜?? ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。 みんなから嫌われるはずの悪役。  そ・れ・な・の・に… どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?! もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣) そんなオレの物語が今始まる___。 ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️ 第12回BL小説大賞に参加中! よろしくお願いします🙇‍♀️

【doll】僕らの記念日に本命と浮気なんてしないでよ

月夜の晩に
BL
平凡な主人公には、不釣り合いなカッコいい彼氏がいた。 しかしある時、彼氏が過去に付き合えなかった地元の本命の身代わりとして、自分は選ばれただけだったと知る。 それでも良いと言い聞かせていたのに、本命の子が浪人を経て上京・彼氏を頼る様になって…

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

処理中です...