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気が早いんじゃないのか?

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「あっ」と小さくエリックが声を上げた。
 ブライアンやジェイミーたちがトレイを持って向こう側の席に歩いていくのが見えたからだ。

 僕らの席を通り過ぎる際、ジェイミーと目が合った。彼は僕のことが大嫌いなので、つんと心持ち顎を上げて小馬鹿にしたような態度を取る。実際、口角が上がっていたので本気で馬鹿にしていたのかもしれない。

 まあ、今の僕にはどうでもいいことだ。

「ところでパーティーに着けて行くタキシードは決まってるのかい?」
 エイドリアンが、ニコニコしながら僕に尋ねる。
「いいえ。僕はどちらかというと今まで引きこもりだったので、それ用の正装は持ちあわせていないんです」
 もっとも引きこもりというよりは、問題児だったせいで引きこもらされていたと言った方が正しいけれど。

「そうかい? じゃあ、ちょうどいい。……実は僕も新調しようと思っていたところなんだ、せっかくだからペアにしないかい?」
「ペアですか?」
 ということは、色違いとかそういった?

「そうだ。俺のは淡いブラウンで、君のはダークブラウンでどうかな? アクセントはブルーで、君のはブルーグリーンで」
「えっ、それって……。後悔しませんか?」
 お互いの髪の色と瞳の色を交換するってことだよね?
「なんで? 後悔するわけないよ。仲がいいんだなあって、一目で分かってもらえるじゃない」

 エイドリアンは僕がみんなから嫌われていることも全く気にしてないみたいだけれど。でも、みんなはそれこそ驚いちゃうんじゃないかな。僕はもうそれを受け入れようと決めたから何ともないけど、エイドリアンにはデメリットしかないような気がする。

「気が早いんじゃないのか?」
 兄上が僕の気持ちに気がついたのかエイドリアンを諭し始めた。

「ショーンも驚いてるし、僕も驚いているよ。せいぜいクラバットをお互いの目の色にするぐらいにすれば?」
 エイドリアンは僕に視線を移した。そしてじーっと僕を見る。
 たじたじするけれど、何も言えるわけがなかった。

「……わかったよ。アランの忠告に従うとするよ」
「結構。そのほうが君のためにもいいと思うよ。慌てるな」
 
 兄上の「慌てるな」の意味はよくわからなかったけれど、ほっとした。婚約者同士ならそういう装いもあるかもしれないけれど、僕とエイドリアンはそんな関係じゃないもんな。

「じゃあ僕もクラバットをブルーグリーンにします」
「ああ」
 
 僕がそう言うと、エイドリアンは微笑んだ。
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