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気持ちの余裕
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最近、学園内が慌ただしい。あちらこちらでパートナー探しが本格化している。それもこれも、人気のエイドリアンとブライアンがパートナーを決めたという噂が学園中を駆け巡ったからだ。
もしかしたら彼らのパートナーになれるかもしれないと淡い期待を抱いていた人たちが、その機会はもう皆無だと分かったので、本格的に相手探しに乗り出したといったところだろう。
「焦る気持ちわかるなあ」
「えっ?」
思わずこぼした言葉に、エリックの、スープを掬う手が止まった。エイドリアンと兄上も僕に視線を向けた。
「あっ、みんな交流会で焦ってるでしょ? それって、みんなが決まっていくなか自分だけが取り残されるような気分になるんだろうなと思って」
僕もそうだった。だから余計にブライアンに執着した。
「じゃあ、俺がショーンにパートナーを申し込んだのは、ショーンにとってもいいことだったってことだな」
「えっ? あっ、はい」
それは、そうだ。おかげで、前回と同じようにブライアンがジェイミーとパートナーを組んだと聞いてもそれほど気にならなかった。
頷くと、エイドリアンの瞳が優しく細められた。
「ところで最近はどうだ? 嫌がらせとかそういうのはあるのか?」
「あー、そういえば最近ないですね」
嫌がらせと言ってもせいぜい睨まれながら陰口を叩かれたぐらいだ。もともと大したことはされていなかった。
「みんなそれどころじゃないんじゃないかな? パートナーを誰にしようかって、そっちの方に気が取られているような気がするよ。この間、ひとりの令嬢に複数人が申し込んでるのを見たよ」
兄上の婚約者のレオが、笑いながら言った。
レオは一見冷たく見える美男子だけど、兄上に対しては一途で健気だ。どこかの令嬢が兄上に焼き菓子の差し入れをしたのを知り、それに対抗して見目のいい焼き菓子を兄上に渡していた時があった。たまたま現場を見てしまったのだけど、その時の彼の顔が真っ赤だったのを覚えている。
それでもって僕はその後余計にやさぐれたんだよな。兄上はあんなふうに愛してくれる人がいるのに、なんで僕はこうなんだろうって。
「そういえば、タイソンはどうするんだ?」と兄上が聞いた。
タイソンの婚約者は三歳下で、まだ学園に入学できる歳ではない。だけどたいそう仲がいいと聞いている。自分の婚約者がほかの誰かとダンスを踊るなんて聞いたら、きっといい気持ちはしないだろう。
「僕は壁の花ならず、食欲魔人と化しておくよ」
そう言って愉快そうに笑った。
そうだった。彼はそういう人だった。
冷静に見ることさえできれば、兄上の友人たちはまあまあいい人たちばかりだ。
「嬉しそうだね」
エイドリアンが、にこにこと笑いながら僕に言った。
「えっ?」
「幸せそうに笑ってたよ」
「あっ……、そうかもしれません」
そうなんだ。僕は、妬んだり羨んだりする前に自分を省みて、周りのことをもっと見る余裕が必要だったんだ。
もしかしたら彼らのパートナーになれるかもしれないと淡い期待を抱いていた人たちが、その機会はもう皆無だと分かったので、本格的に相手探しに乗り出したといったところだろう。
「焦る気持ちわかるなあ」
「えっ?」
思わずこぼした言葉に、エリックの、スープを掬う手が止まった。エイドリアンと兄上も僕に視線を向けた。
「あっ、みんな交流会で焦ってるでしょ? それって、みんなが決まっていくなか自分だけが取り残されるような気分になるんだろうなと思って」
僕もそうだった。だから余計にブライアンに執着した。
「じゃあ、俺がショーンにパートナーを申し込んだのは、ショーンにとってもいいことだったってことだな」
「えっ? あっ、はい」
それは、そうだ。おかげで、前回と同じようにブライアンがジェイミーとパートナーを組んだと聞いてもそれほど気にならなかった。
頷くと、エイドリアンの瞳が優しく細められた。
「ところで最近はどうだ? 嫌がらせとかそういうのはあるのか?」
「あー、そういえば最近ないですね」
嫌がらせと言ってもせいぜい睨まれながら陰口を叩かれたぐらいだ。もともと大したことはされていなかった。
「みんなそれどころじゃないんじゃないかな? パートナーを誰にしようかって、そっちの方に気が取られているような気がするよ。この間、ひとりの令嬢に複数人が申し込んでるのを見たよ」
兄上の婚約者のレオが、笑いながら言った。
レオは一見冷たく見える美男子だけど、兄上に対しては一途で健気だ。どこかの令嬢が兄上に焼き菓子の差し入れをしたのを知り、それに対抗して見目のいい焼き菓子を兄上に渡していた時があった。たまたま現場を見てしまったのだけど、その時の彼の顔が真っ赤だったのを覚えている。
それでもって僕はその後余計にやさぐれたんだよな。兄上はあんなふうに愛してくれる人がいるのに、なんで僕はこうなんだろうって。
「そういえば、タイソンはどうするんだ?」と兄上が聞いた。
タイソンの婚約者は三歳下で、まだ学園に入学できる歳ではない。だけどたいそう仲がいいと聞いている。自分の婚約者がほかの誰かとダンスを踊るなんて聞いたら、きっといい気持ちはしないだろう。
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そう言って愉快そうに笑った。
そうだった。彼はそういう人だった。
冷静に見ることさえできれば、兄上の友人たちはまあまあいい人たちばかりだ。
「嬉しそうだね」
エイドリアンが、にこにこと笑いながら僕に言った。
「えっ?」
「幸せそうに笑ってたよ」
「あっ……、そうかもしれません」
そうなんだ。僕は、妬んだり羨んだりする前に自分を省みて、周りのことをもっと見る余裕が必要だったんだ。
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