悪行を重ねた令息は断罪されたくないので生き方を変えました。誰の愛も欲しがらないと決めたのに、様子がなんだか変なんです

くるむ

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第一章

エイドリアン・スチュワート・サヴィル

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 毒殺されないためには、僕の普段の言動にも気をつけなければならない。きついだなんてもちろん言っていられない。

 現在の日付から考えれば、このころはブライアンだけではなく、みんなからも陰口や悪口を叩かれていた。
 兄上だって、学園内で僕を見かけても眉をしかめて遠巻きに見ているだけだった。

 あ、でも一人だけ、こんな僕に対しても話しかけたり注意してくれる人が居たな。兄上の親友でサヴィル公爵家の嫡男、エイドリアンだ。うざいと思ってたけど、今から考えたら彼はとても親切だった。


 今までは僕が朝遅いせいで、兄上と同じ馬車に乗っては行けなかったんだけど、今日は同乗している。
 居心地は最悪だ。何も話すことがないから、異様な静けさが漂ってるし。

 馬車が止まった。

「着いたぞ」 
 どうやら一言も喋らないうちに学園についてしまったようだ。

 馬車を降りると見知った顔が近寄ってきた。

「よう、あれー、珍しい顔があるな」
「おはようございます、エイドリアン様」
「うわっ、なんだ今日はあいさつもしてくれるのか」
 やっぱウザい。

 顔をしかめただろう僕を見たのに、エイドリアンは楽しそうだ。

「様はいらないよ」
「えっ?」
「エイドリアンでいい」
「えっ、でも」

 僕が戸惑っているのは分かっているだろうに、エイドリアンは引く気がないようだった。もごもごしていると、エイドリアンは腰に手を当てて小首をかしげた。

「しょうがないな。呼び捨てが難しいなら、エイドリアンお兄様と呼べ」
「エイドリアンで!」
 すかさず反応した僕に、エイドリアンは爆笑した。

「いいなあ、アラン。お前の弟、俺好きだわ」
「それはよかったな」
 兄上の疲れたような声に、エイドリアンは気にもせず笑顔で頷いている。
 エイドリアンは、サヴィル公爵家の嫡男だが気さくな性格だ。だから親友である兄上に対して、敬語を使われるのを嫌がったようだ。おかげでこの規律正しい兄上までもが、エイドリアンに対してぞんざいな口調になっている。
 とにかく変わっているのだ、この人は。

「ブライアン様、おはようございますー」
 聞き覚えのある甘くて少し高めの声。ジェイミーだ。
 殺される前の僕だったら、きっとこの声を聞いたらブライアンのもとに突進して行っただろう。でも今度は、もう間違えたりしない。気のない相手を振り向かせようだなんて、もうそんな馬鹿な事はしないしジェイミーのことも無視だ。

 視線を感じて顔を上げると兄上がじっとこちらを見ていた。

「……何ですか?」
「えっ? ああ、いや」
 どうせ僕がまた、ブライアンの所に走っていくと思ったんだろう。それなのに動こうとしない僕を、不思議に思ってるというところか。

 笑える。
 ほんと笑えるよな。短絡的でバカだった自分に。

 ぐいっと肩を引き寄せられてびっくりした。
「遅刻しないように歩こうぜ」

 えっ? えっ? えっ?
 誰かと肩を組むなんて経験なかったからびっくりしてしまった。エイドリアンは戸惑ってる僕を気にすることなく、そのまま肩を抱いて歩き続ける。兄上はその隣に並んでいる。

 おかげで、まるで仲がいい兄弟のように校内を歩くという、初めての経験をしていた。
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