無自覚美少年の男子校ライフ♪

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無自覚美少年の男子校ライフ♪

王子様と2人きり

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「伸之助!」

講堂を出たところで蓮先輩に呼び止められた。
振り返ると、未だキラキラとしたコスチュームに身を包んだ王子様姿の先輩。
壇上で見た時よりも、間近で見る先輩は数段カッコ良かった。

すっごい、すっごい緊張してるんだけど…!
ドキドキと波打つ心臓に翻弄されて、思わず近くに立っていた候の袖をギュッと掴んだ。

バクバクと煩くなる心臓と戦いながら、真っ赤になって先輩を見上げる僕に、なぜか蓮先輩はフイに眉間にしわを寄せ、目を眇めて近寄って来る。

あ、あれ? ご機嫌斜め…?
先輩でも、みんなに見られ過ぎて疲れちゃったのかな?

「伸之助」
うすーく笑いながら先輩が僕の名を呼ぶ。

「は、はい?」

…なんかちょっと怖いんですけど…?
無意識に候の袖をギュッと握りしめると先輩の眉間のしわが更に深くなる。

「おいっ」
隣りからは窘めるような候の声。
見ると焦った顔をしている。何なんだ?

「少しは学習してもらいたいな」
「え…」

蓮先輩の長い腕が伸びてきて、僕を引き寄せる。
ビックリして離れようとしたけれど、先輩に力を入れて抱きしめられて身動きが取れない。

「せ、せんぱ…っ」
「恥ずかしい時も、怖い時も、どんな時でも俺を頼って欲しいんだけどな」

甘い声で耳元でささやかれ、ぞくりと電流のようなものが流れる。

「せ、せ、先輩っっ」
「なんだ」

背中を優しく撫でられて、体がピクリと揺れる。
うう~。もう、力が全然入らないんですけど…。ふにゃふにゃになった体を支えるため、僕は蓮先輩の背中に腕を回した。

「会長、いい加減にしてくれませんかね? 周り見えてます?」

冷やかに進言する浩太の声に、背中を撫でていた先輩の手が止まった。
ホッとしたと同時に、もっと撫でて欲しいだなんてそんな自分の願望に気が付いた。先輩に完全に流されてしまってるよ…。
そんな自分を自覚して、僕はよけいに恥ずかしくなってしまった。

「みんな、立ち止まってないで食事に行きなさい。12時半までにはここに戻って来ないといけないぞ」

先輩は僕を抱きしめたまま、凛とした生徒会長の声で皆を促す。

…ええっと、このカッコでその指示はいかがなものかと思いますけど…。

だけど割と気にする人はいないようで、先輩を軽くパシパシと叩きながら冷かして、ぞろぞろと学食へと向かって行く。
多分、中には僕を睨んで行く人もいるとは思うのだけど、不本意ながら、先輩に抱きしめられた状態なので、幸か不幸か僕にはその姿を確認する事は出来なかった。

「…水沢、きみも行っていいぞ」

え? 浩太、待っててくれてるの? 

「あ、あの。先輩?」
「それとも、俺と伸之助のいちゃいちゃするとこ見て行くか?」

い、いちゃいちゃ!?
せせせ、先輩!?

「先、行っています」

浩太の硬い声がして、足音が遠ざかって行く。
…浩太、心配性だし真面目だからな…。後でちゃんと謝っておかなくちゃ。
だけど、どうしたんだろう、先輩。
そりゃ、多少アレな先輩だけど、ここまで強引な事って今までなかったのに。

一瞬強く先輩に抱きしめられた後、ゆっくりと体を離される。

「伸之助」

優しく目を細めて僕を見つめるその姿は、まさに王子様そのものだ。
顎を掬い、顔を少し傾けて、ゆっくりと先輩の顔が近づいてくる。
僕は震える瞼をそっと閉じて、先輩の唇を受け入れた。

優しく何度も啄まれ、体の力が抜けて行く。
少し開いた唇に、先輩の舌が潜りこんで来た。甘く吸われ、絡まる舌先。
僕はもうそれだけで、いっぱいいっぱいで、崩れ落ちないように先輩の背中にギュッとしがみ付く。

気がついた時には僕の腰と後頭部を、たくましい先輩の腕がしっかりと支えてくれていた。


そして今、僕は蓮先輩に体を預けてくったりとしている。…要するに、体の力が入らない状態になっちゃっているんだけど…。(前にもあったよね、こんな事…)



2人っきりの講堂。
そして2人分のお弁当。

「ここんとこずっと忙しくて、せっかく伸之助と両想いになれてても、なかなか恋人らしい時間も過ごせなかっただろ? だから今日は、まずはこうして2人でご飯でもと思って、弁当作ってもらって来たんだ」

「先輩…」

僕も色んな事でいっぱいいっぱいで、蓮先輩の事を最優先に出来ずにいた。


…そういえば、もうすぐアノ、おぞましいエプロンを付けなきゃいけないんだな…。
良いよなー、先輩は。
カッコイイ王子様姿で。

顔を上げてまじまじと見つめていたら、僕の視線に気が付いた先輩が、にっこり笑い僕の唇にチュッと口付けてきた。
そして鼻先がくっつくくらいの至近距離で見つめられ、じわじわと顔が熱くなってくる。

蓮先輩は、そんな僕に嬉しそうに笑って、頬に瞼に蟀谷に、キスの雨を降らせてくる。
それが耳に移動した瞬間、「んっ」と甘く高い声が漏れてピクンと体が揺れた。

「せ、先輩~」

もうこれ以上されたら、しばらく立てないよぉ。
情けない僕の声に先輩も何かを悟ったのか、少し体を離して、壁に体を預けた。
そしてお弁当を持ち直して、僕にも食べるように促した。


あらかた食べ終えた頃に、先輩がぽつりとつぶやく。

「…本当は、女装コンテストをぶっ潰してしまいたかったんだけどな」
「…え?」

見上げる僕に、先輩は自嘲気味に笑った。

そういえば、前にもそんなことを言っていたっけ。
だけどそういう訳にはいかないとか何とか。

「だいたい、衣装担当が小島ってのもいただけないんだよな」
「え、知ってるんですか? 小島のこと」

「ああ。あいつのセンス、半端ないんだよ。中学の時も衣装担当していてな、女装用の衣装のエロいこと、エロいこと。1年の時はあと一歩のところで優勝には至らなかったんだけど、2年の時は、しっかり優勝してたんだよな」

「そ、そうなんですか…」

てことは、なに?
女装組はたいていエロいって言ってたけど、小島は群を抜いてるって事…?

眉間にしわを寄せて唸っていると、先輩の腕が伸びてきて、またギュウッと抱きしめられた。

「だからな、あえて伸之助の衣装のことを無理に聞くのは止めたんだ。聞いたらきっと、変な権力使って小島に圧力かけてしまいそうだったからさ」

「先輩…」

困ったように、少し情けない表情で笑う先輩に胸がきゅんとした。

好きだな…。
僕、この人の事がホントに好きだ。

少し伸びあがって、先輩の唇に自分のそれを軽く触れ合わせる。たったそれだけの事でも僕にはバクバクものだけど…。
すぐに離してそっと窺うと、先輩は凄くびっくりしたようで、目を見開いていた。
だけどすぐに楽しそうに笑って僕を引き寄せ、深い口づけを仕掛けてきた。

ち、ちょっと待って下さい!
そんなつもりじゃなかったんです~!!


心の中で喚いても、先輩に聞こえるはずもなく…。
僕は時間ぎりぎりまで、先輩の腕の中で脱力していた。
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