僕の王子様

くるむ

文字の大きさ
上 下
62 / 62
第六章

僕だけの王子様

しおりを挟む
慰労会を終えて、僕はそのまま部室へ直行しようと教室を出た。加賀くんとは方向が逆なのですぐに別れて、加山さんと試合の話をしながら廊下を歩いていた。

そんな僕らを見つけた女子が、普段なら気にも留めないのに声を掛けて来た。

「鹿倉君……、だよね?」
「え? うん」
「ああ、やっぱり! 今日ミミーの女装してた人だよね。紫藤先輩と同じ同好会に入ってるって!」
「……ああ、うん」

礼人さん絡みか。
……紹介してくれって言われたらどうしよう。

「あの……さ、お願いがあるんだけど。実は私たちも同好会に…」
「ダメみたいだよ」

僕が返事をする前に、というか女子に全部言わせない勢いで加山さんがすかさず断った。

「……て、え?」

関係ないはずの加山さんに口出しされて、女子が面食らう。
そして『どういうこと?』と言いたげに僕の顔を見た。

「だから―、女子は前に問題があったみたいで警戒されてるんだって! 知ってる? 上級生からも怖がられている鬼先輩! あんたたちが紫藤先輩目当てで入ろうとしてるって知ったら、即一喝されて追い出されるよ」

「鬼……?」
「ああ! ソレ、聞いたことある。めちゃくちゃ怖い先輩がいて、部員以外は同好会のあの建物に誰も近づかないって」

……東郷先輩って、まるで読書同好会の番犬のような言われようなんだな。
実際には千佳先輩だけの番犬みたいだけど。

「鹿倉君、それ……本当なの?」
「……あ、うん。鬼のような先輩は確かにいるよ。僕は単純に読書が好きだったし文化系の部活に入りたかったからOKだったみたいだけど、それでも当初はちょっと威嚇されてるような感じがして怖かったもの」

ちょっとオーバーかな?とは思ったけど、千佳先輩絡みで確かに威嚇はされた記憶があるから、あながち嘘ではないよね。

僕の言葉に言葉を失った彼女らは、引き攣った顔をして「そっか」と言って去って行った。


「鬼先輩、様様だね」
「……ちょっとオーバーに言っちゃったかな。東郷先輩に悪かったかも」
「なーに言ってんのよ! あれくらいでちょうどいいわよ。嘘ってわけじゃないしね!」
「……そうだね」

「あ……っ」
「え?」

校舎を出て、グラウンド脇の通りに出たところで加山さんが声を上げた。
その視線の先を見ると、部室方向に歩いている礼人さんと黒田先輩達がいた。

「じゃあ、私は帰るね! 紫藤先輩によろしく!」
「うん。じゃあね」
「バイバイー」

加山さんを見送って、礼人さんたちの元へと走り寄った。

「あ、歩」
「こんにちは!」
「やあ」

白石先輩は相変わらず優しい表情で、にっこりと笑って挨拶してくれた。黒田先輩も相変わらずで、軽く頷くようなしぐさが返事の代わりだ。

この2人って、対照的だよなあ。

「礼人さん、今日は本当にありがとうございましたっ!」

向き直って改めてお礼を言うと、礼人さんはクスリと笑った。

「いいって言ってる。気にすんな」
「……はい」

じんわりと沸き起こる礼人さんの優しい気持ちをかみしめて、泣きたくなるくらいの幸せを感じる。

不思議。
幸せだって心底思うと、人って泣きたくなるんだね。

礼人さんと出会うまでは、こんな気持ちがあるなんてこと気が付かなかったけど。

「あー、でもそうだな。せっかくだからご褒美もらっても良いか?」
「ご褒美……ですか? えっと、はい。なんでも言ってください」

「じゃあ、また膝枕してくれるか? 歩の膝で眠るとすごく気持ちがいいんだ」

「礼人さん……。はいっ! 喜んで! それって、僕にもすごい幸せな時間です!」

張り切ってそう言うと、礼人さんは楽しそうに笑った。
笑って僕を抱き寄せてくれた。



初めて礼人さんに膝枕をしてあげた時、夢みたいで嬉しかった。
でもそれと同時に、幸せ過ぎてまずいと思った。

だってまさか、礼人さんとこんな関係になれるとは思ってもいなかったから。
迷惑にならないように、これ以上思いを募らせないようにって思っていたから。



僕らは部室に入って、そのまま備品室に直行した。

「あ、何か本を持ってくるか?」
「いいえ。大丈夫です。……礼人さんの髪の毛撫でたり、寝顔見てる方が楽しいですから」
「えっ?」

ちょっぴり驚いたのか、礼人さんは目を丸くして瞬いた。
だけどすぐに可笑しそうに、「変わってるなー」と笑った。

変わってなんてないですよ。
だって僕は、礼人さんが凄く好きだから。これは僕にとっても、凄く幸せで特別な時間なんです。


綺麗な瞳を閉じて、僕の膝にくったりと体を預ける礼人さん。

さらさらと流れる柔らかな髪を撫でながら、僕にとってもご褒美の礼人さんの眠る姿を堪能している。


綺麗でかっこよくて繊細な……、僕だけの王子様を独り占めできる幸せをかみしめながら。


☆おわり☆
しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

紅月
2020.04.30 紅月

礼人さんという人

礼人さん…僕がんばって受検してよかった

こんな感じの文でした。

受検→受験

くるむ
2020.04.30 くるむ

キャー、ご指摘ありがとうございました~💦
訂正してきました♪(´▽`)

解除
珠希
2018.08.17 珠希

拙いコメント失礼致します
はじめまして!
二人共かわいいキャラで物語に
惹き込まれました。
受けと攻めが可愛くて悶えましたw
もう少し話が長かったら
なお 良かったなぁ…

くるむ
2018.08.17 くるむ

珠希さん初めまして。コメントありがとうございます!
悶えていただけましたか?
うれしいです♪

もう少し長ければ…と仰っていただけて恐縮です。
主人公は素直だけれど"地味な子"という意識があったので、楽しんで読んでいただけているのか分からず私自身この話に自信がありませんでしたw

感想、すごくうれしかったです。ありがとうございました!

解除

あなたにおすすめの小説

今日も、俺の彼氏がかっこいい。

春音優月
BL
中野良典《なかのよしのり》は、可もなく不可もない、どこにでもいる普通の男子高校生。特技もないし、部活もやってないし、夢中になれるものも特にない。 そんな自分と退屈な日常を変えたくて、良典はカースト上位で学年で一番の美人に告白することを決意する。 しかし、良典は告白する相手を間違えてしまい、これまたカースト上位でクラスの人気者のさわやかイケメンに告白してしまう。 あっさりフラれるかと思いきや、告白をOKされてしまって……。良典も今さら間違えて告白したとは言い出しづらくなり、そのまま付き合うことに。 どうやって別れようか悩んでいた良典だけど、彼氏(?)の圧倒的顔の良さとさわやかさと性格の良さにきゅんとする毎日。男同士だけど、楽しいし幸せだしあいつのこと大好きだし、まあいっか……なちょろくてゆるい感じで付き合っているうちに、どんどん相手のことが大好きになっていく。 間違いから始まった二人のほのぼの平和な胸キュンお付き合いライフ。 2021.07.15〜2021.07.16

ポメラニアン魔王

カム
BL
勇者に敗れた魔王様はポメラニアンになりました。 大学生と魔王様(ポメラニアン)のほのぼの生活がメインです。 のんびり更新。 視点や人称がバラバラでちょっと読みにくい部分もあるかもしれません。 表紙イラスト朔羽ゆき様よりいただきました。

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

オレに触らないでくれ

mahiro
BL
見た目は可愛くて綺麗なのに動作が男っぽい、宮永煌成(みやなが こうせい)という男に一目惚れした。 見た目に反して声は低いし、細い手足なのかと思いきや筋肉がしっかりとついていた。 宮永の側には幼なじみだという宗方大雅(むなかた たいが)という男が常におり、第三者が近寄りがたい雰囲気が漂っていた。 高校に入学して環境が変わってもそれは変わらなくて。 『漫画みたいな恋がしたい!』という執筆中の作品の登場人物目線のお話です。所々リンクするところが出てくると思います。

漆黒の瞳は何を見る

灯璃
BL
記憶を無くした青年が目覚めた世界は、妖、と呼ばれる異形の存在がいる和風の異世界だった 青年は目覚めた時、角を生やした浅黒い肌の端正な顔立ちの男性にイスミ アマネと呼びかけられたが、記憶が無く何も思い出せなかった……自分の名前すらも 男性は慌てたようにすぐに飛び去ってしまい、青年は何も聞けずに困惑する そんな戸惑っていた青年は役人に捕えられ、都に搬送される事になった。そこで人々を統べるおひい様と呼ばれる女性に会い、あなたはこの世界を救う為に御柱様が遣わされた方だ、と言われても青年は何も思い出せなかった。経緯も、動機も。 ただチート級の能力はちゃんと貰っていたので、青年は仕方なく状況に流されるまま旅立ったのだが、自分を受け入れてくれたのは同じ姿形をしている人ではなく、妖の方だった……。 この世界では不吉だと人に忌み嫌われる漆黒の髪、漆黒の瞳をもった、自己肯定感の低い(容姿は可愛い)主人公が、人や妖と出会い、やがてこの世界を救うお話(になっていけば良いな) ※攻めとの絡みはだいぶ遅いです ※4/9 番外編 朱雀(妖たちの王の前)と終幕(最後)を更新しました。これにて本当に完結です。お読み頂き、ありがとうございました!

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。