僕の王子様

くるむ

文字の大きさ
上 下
56 / 62
第五章

不運続き 2

しおりを挟む
どんなに僕が嫌がろうが落ち込もうが、高橋君の体は1つしかないわけで……。ほぼ同時刻に起こることを二つ同時にこなせるわけはない。

「…………」

「下でしっかり見ててやるからな」
「私も! だから気落ちしないで頑張って!」
「…………」

みんなの励ましにも気持ちを浮上させることは出来なくて、僕はため息を零しながら俯くことしか出来なかった。


そして、時間になった僕はミミーの衣装に袖を通す。それに誰かが家から持ってきていたかつらをかぶり、即席ミミーの出来上がりだ。

「おお、結構可愛いじゃん。変じゃないぞ歩」
「本当だ。かつらがあるだけで雰囲気だいぶ変わるな」
「うん、うん。鹿倉君変じゃないよ! 可愛い!」

気落ちしている僕を励まそうと加賀くんたちが口々にホメてくれる。

……なんだか微妙。

「そろそろ時間ですよー」

新歓の運営を任されている上級生が、僕らの教室にやってきて仮装担当を呼びにやって来た。
ようするに僕だ。

「……はい」

先をさっさと歩く上級生の後を、僕は俯きながらついて行った。


うなだれながら、グラウンドの傍らに設置されているステージの脇に並んだ。この時間だと残り試合も数少なくなっているので、試合を見ずに仮装を楽しもうとここに来ている人が結構いてため息を吐いた。

何気にチラッと前方に視線を向けたら、読書同好会の先輩方が既に勢ぞろいしていた。
みんなこちらを見ていて、目が合うと千佳先輩と白石先輩はにこやかに手を振ってくれた。

「あ……」

今の僕に出来る限りの笑みを作って、ぺこりと会釈した。千佳先輩はファイト!って感じで軽く拳を握って合図を返してくれた。
その横の礼人さんは、僕の隣に高橋君がいないことに気が付いたんだろう。少し心配そうな表情をしている。

「はい、君。そろそろ出番だからね、心の準備しておいて」
「あ、はい」

係りの人に誘導されて、手のひらから汗が滲み出て心臓もバクバクと激しくなってきた。
とてもじゃないけどこの状況じゃあ、みんなをカボチャと思うことは出来そうにない。

「曲はこちらで掛けてあげるから。壇上に上がってスタンバイしたらかけてもいいかな?」
「……はい。よろしくお願いします」

僕はどうやら次の次らしい。
壇上では今、アイドルグループの曲を掛けて女の子たちが踊っている。
結構可愛い二人組で、男子も女子も楽しそうに手拍子したり手を振ったりして盛り上がっている。


ああ、もう。
緊張し過ぎて卒倒しそうだ。手のひらや背中に嫌な汗を掻いているし。

早いのか長いのか分からない時間を経て、いよいよ僕がステージ上へと通された。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

理香は俺のカノジョじゃねえ

中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

彼はオレを推しているらしい

まと
BL
クラスのイケメン男子が、なぜか平凡男子のオレに視線を向けてくる。 どうせ絶対に嫌われているのだと思っていたんだけど...? きっかけは突然の雨。 ほのぼのした世界観が書きたくて。 4話で完結です(執筆済み) 需要がありそうでしたら続編も書いていこうかなと思っておいます(*^^*) もし良ければコメントお待ちしております。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

尊敬している先輩が王子のことを口説いていた話

天使の輪っか
BL
新米騎士として王宮に勤めるリクの教育係、レオ。 レオは若くして団長候補にもなっている有力団員である。 ある日、リクが王宮内を巡回していると、レオが第三王子であるハヤトを口説いているところに遭遇してしまった。 リクはこの事を墓まで持っていくことにしたのだが......?

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

処理中です...