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第五章
不運続き 2
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どんなに僕が嫌がろうが落ち込もうが、高橋君の体は1つしかないわけで……。ほぼ同時刻に起こることを二つ同時にこなせるわけはない。
「…………」
「下でしっかり見ててやるからな」
「私も! だから気落ちしないで頑張って!」
「…………」
みんなの励ましにも気持ちを浮上させることは出来なくて、僕はため息を零しながら俯くことしか出来なかった。
そして、時間になった僕はミミーの衣装に袖を通す。それに誰かが家から持ってきていたかつらをかぶり、即席ミミーの出来上がりだ。
「おお、結構可愛いじゃん。変じゃないぞ歩」
「本当だ。かつらがあるだけで雰囲気だいぶ変わるな」
「うん、うん。鹿倉君変じゃないよ! 可愛い!」
気落ちしている僕を励まそうと加賀くんたちが口々にホメてくれる。
……なんだか微妙。
「そろそろ時間ですよー」
新歓の運営を任されている上級生が、僕らの教室にやってきて仮装担当を呼びにやって来た。
ようするに僕だ。
「……はい」
先をさっさと歩く上級生の後を、僕は俯きながらついて行った。
うなだれながら、グラウンドの傍らに設置されているステージの脇に並んだ。この時間だと残り試合も数少なくなっているので、試合を見ずに仮装を楽しもうとここに来ている人が結構いてため息を吐いた。
何気にチラッと前方に視線を向けたら、読書同好会の先輩方が既に勢ぞろいしていた。
みんなこちらを見ていて、目が合うと千佳先輩と白石先輩はにこやかに手を振ってくれた。
「あ……」
今の僕に出来る限りの笑みを作って、ぺこりと会釈した。千佳先輩はファイト!って感じで軽く拳を握って合図を返してくれた。
その横の礼人さんは、僕の隣に高橋君がいないことに気が付いたんだろう。少し心配そうな表情をしている。
「はい、君。そろそろ出番だからね、心の準備しておいて」
「あ、はい」
係りの人に誘導されて、手のひらから汗が滲み出て心臓もバクバクと激しくなってきた。
とてもじゃないけどこの状況じゃあ、みんなをカボチャと思うことは出来そうにない。
「曲はこちらで掛けてあげるから。壇上に上がってスタンバイしたらかけてもいいかな?」
「……はい。よろしくお願いします」
僕はどうやら次の次らしい。
壇上では今、アイドルグループの曲を掛けて女の子たちが踊っている。
結構可愛い二人組で、男子も女子も楽しそうに手拍子したり手を振ったりして盛り上がっている。
ああ、もう。
緊張し過ぎて卒倒しそうだ。手のひらや背中に嫌な汗を掻いているし。
早いのか長いのか分からない時間を経て、いよいよ僕がステージ上へと通された。
「…………」
「下でしっかり見ててやるからな」
「私も! だから気落ちしないで頑張って!」
「…………」
みんなの励ましにも気持ちを浮上させることは出来なくて、僕はため息を零しながら俯くことしか出来なかった。
そして、時間になった僕はミミーの衣装に袖を通す。それに誰かが家から持ってきていたかつらをかぶり、即席ミミーの出来上がりだ。
「おお、結構可愛いじゃん。変じゃないぞ歩」
「本当だ。かつらがあるだけで雰囲気だいぶ変わるな」
「うん、うん。鹿倉君変じゃないよ! 可愛い!」
気落ちしている僕を励まそうと加賀くんたちが口々にホメてくれる。
……なんだか微妙。
「そろそろ時間ですよー」
新歓の運営を任されている上級生が、僕らの教室にやってきて仮装担当を呼びにやって来た。
ようするに僕だ。
「……はい」
先をさっさと歩く上級生の後を、僕は俯きながらついて行った。
うなだれながら、グラウンドの傍らに設置されているステージの脇に並んだ。この時間だと残り試合も数少なくなっているので、試合を見ずに仮装を楽しもうとここに来ている人が結構いてため息を吐いた。
何気にチラッと前方に視線を向けたら、読書同好会の先輩方が既に勢ぞろいしていた。
みんなこちらを見ていて、目が合うと千佳先輩と白石先輩はにこやかに手を振ってくれた。
「あ……」
今の僕に出来る限りの笑みを作って、ぺこりと会釈した。千佳先輩はファイト!って感じで軽く拳を握って合図を返してくれた。
その横の礼人さんは、僕の隣に高橋君がいないことに気が付いたんだろう。少し心配そうな表情をしている。
「はい、君。そろそろ出番だからね、心の準備しておいて」
「あ、はい」
係りの人に誘導されて、手のひらから汗が滲み出て心臓もバクバクと激しくなってきた。
とてもじゃないけどこの状況じゃあ、みんなをカボチャと思うことは出来そうにない。
「曲はこちらで掛けてあげるから。壇上に上がってスタンバイしたらかけてもいいかな?」
「……はい。よろしくお願いします」
僕はどうやら次の次らしい。
壇上では今、アイドルグループの曲を掛けて女の子たちが踊っている。
結構可愛い二人組で、男子も女子も楽しそうに手拍子したり手を振ったりして盛り上がっている。
ああ、もう。
緊張し過ぎて卒倒しそうだ。手のひらや背中に嫌な汗を掻いているし。
早いのか長いのか分からない時間を経て、いよいよ僕がステージ上へと通された。
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