僕の王子様

くるむ

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第五章

落ち込んでいると甘えたくなるわけで… 2

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部室に入るなり、いつもの本棚が添えられている部屋では無くて、礼人さんは奥の部屋に僕を引っ張って行った。

「ちょっと奥借りるぞ?」
「はーい」

「…………」
僕はちょっぴり緊張。
未だに繋がれている手からも、ちょっと汗が滲み出ている。

「千佳たちみたいに人目も気にせずベタベタ甘えられるタイプじゃないだろ? 素直にもなりにくいしな」

礼人さんは掴んでいた僕の手を離して壁に凭れかかり、足を投げ出して座った。
そして足を広げて、ポンポンとここに座れと畳を叩いて促した。

「え……、あ、あのっ」
「ほら」

催促するように手を差し出されて、おずおずとその手を掴んだ。

顔はおそらく真っ赤っか。
だって、もの凄く熱くなってるもん……。

キュッと引っ張られ、素直にそこに腰を下ろした。

背中からギュウッと優しく抱きしめられる。

心地よく背中から感じる礼人さんの規則正しいトクトクと響く心臓の音。
じんわりと温かく広がる礼人さんの体温。

じわじわと広がる幸せに、僕は僕を抱きしめてくれている礼人さんの腕をキュッと握った。


「なにか、あったんだろ?」
「……え?」

礼人さんが腕に力を込めて、僕を引き寄せるように抱き込んでさらに密着する。

ふわわわわっ!

「歩?」
「ふ……ふわぃっ……」

ドキドキするあまり、へんてこりんな返事になってしまった。は、恥ずかしい……っ。

クスッ。「なんだその声。……気のせいなのか? さっき、いつもより気落ちしているのかと思ったんだけど」

トクン……。

「礼人……さん」

気づいて、くれてたんだ……。



「僕……」
「うん?」

礼人さんは僕に無理やり聞き出そうとはしなかった。
しばらくただただ甘えたくて、抱きしめてくれている礼人さんの腕に頬を擦り付けたりギュッと握りしめたりしている最中も、返事を急かすことはせずにされるがままになってくれていた。

だから、話さなきゃと追い詰められた気持ちにならずに、自然と言葉を口にすることが出来た。

「今度の仮装担当で……」
「うん」

「……着ぐるみから、女装させられる羽目になっちゃいました……」
「……そう、か」

キュウッ。
礼人さんの腕の力が、また少し入った。

「……俺もちょっと心配かなぁ」
「え……?」

「だって、お前可愛いから」
「ふええっ!?」
「……ククッ。だから、なんだその声」

だって、だって可愛いって!! なにそれ!

「よいしょっと」

礼人さんが少し体を離して、僕の体をくるんとひっくり返した。(なんて力!)
おかげで、凄い間近で礼人さんと向かい合う形になった。

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