僕の王子様

くるむ

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第五章

優しい水樹先生

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とぼとぼと部室に向かって歩いていると顧問の水樹先生が前を歩くのが見えたので、少し速足で近づいて挨拶をした。

「水樹先生、こんにちは。久しぶりですね」

「やあ、いろいろと忙しくてね。……て、あれ? そういえば鹿倉君早いな。君たちのクラスは練習はしないのか?」

不思議そうに聞かれてたじろいだけど、仮装担当になってしまったと伝えると、「それはそれで大変だな」と労ってくれた。

大変……。
本当にそうだ。

僕はまた、性懲りもなく女装しなければいけないことを思い出して落ち込んでしまった。

「どうかしたか? なんだか元気が無いな」
「あっ……、はい。仮装担当で……」
「ん?」
「……仮装担当で子猫の着ぐるみを着るはずが、女子の策略で女装することになっちゃって……」

「――ああ。……そっか、それは……」

苦笑して僕を見る先生に何にも言えなくて、しばらく黙って2人で部室へと向かう。和風の建物が見えてきたところで、先生がまた口を開いた。

「なあ、鹿倉君」
「……はい」
「――まあ、なんだ。やらなきゃならない事ならさ、学生時代のバカバカしい経験ってことで、後々の笑い話にでもするくらいのつもりで割り切っちまったらいいよ」

「先生……」
「そうは言ってもって感じだな。だけどさ、俺くらいの歳になると分かってくるものだぞ? 学生時代のこういう思い出が、キラキラ輝く大切なものになっていくんだってことがさ」

そう言いながら、水樹先生は優しく笑って僕の頭を撫でてくれた。

「先生……。それ、水樹先生の経験談ですか?」
「ああ、もちろんだよ。……たまにさ、フッと思い出して笑っちまうのは、やっぱりそういう馬鹿馬鹿しいことだったりするもんだ」

「……はい」

居心地の良い人だな……。あ、"人"じゃなくて先生だね。

優しい先生のおかげで、気持ちを少しだけ浮上させることが出来た。そんな僕の表情を見て、水樹先生がまた頭をポンポンと撫でてくれた。

「あー! 涼さん! 浮気しちゃダメだよー」

「え?」
「は?」

驚いて振り向いた僕らのかなりの後ろを、先輩達がこちらに向かって歩いていた。
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