僕の王子様

くるむ

文字の大きさ
上 下
31 / 62
第四章

礼人さんの過去

しおりを挟む
遅れてやって来た黒田先輩と白石先輩、それに桐ケ谷先輩が来た頃には僕の仮装担当の話題は終了していて、また各々が読書をしたりいちゃついたり(?)のいつもの雰囲気に戻っていた。

「あ……」
「ん? 今度はなんだ?」

唐突に、礼人さんに報告しなきゃならないことがある事を思い出した。

「すみません。今度僕んちに来てくれることになってましたけど、さっきの……仮装のせいで出来なくなってしまいました」

「え?」

「……同じ仮装担当になった高橋君と練習しなくちゃならないので、学校に行くことになっちゃって」

「ああ……、そっか」
「はい。楽しみにしてたんですけど……」
「仕方ないな。……何時から行くことになってるんだ?」
「えっと、1時集合です。教室に」
「ふうん……。ま、頑張れ」
「はい……」

あ~、凹む。
何でこうなっちゃうんだろうなあ、もう。

「そういえば、礼人さんはバレーですか?」
「俺? 不本意ながらサッカーだ」
「えっ! そうなんですか?」

あ~。
ライバル増えそう。


でも、……キラキラしたかっこいい礼人さんが見れるんだよね。

どうしよう。
女子が群がるのを見るのは嫌だけど、カッコいい礼人さんを見れそうなことはすごく楽しみだ。

「俺のせいじゃないからな」

え?

心の中で勝手にいろんなことを思い描いて気持ちを乱高下させていたら、奥の方から黒田先輩の声が聞こえて来た。

「分かってるよ。誰もクロのせいだなんて思ってないから」

……?
どういうことだろ?
黒田先輩のせいじゃない……??

「クロと俺同じクラスなんだよ。で、な。あいつ中学の時サッカーやってて結構すごかったんだ。それを知ってる女子がサッカーすべきだって騒いでさ、ついでになぜか俺まで巻き込まれちゃったんだよな」

そういえば、礼人さんも中学の時部活で色々あったって言ってたよな。

「もしかして礼人さんも昔サッカーやってたんですか?」
「いや。俺はテニスだ」

……テニス!!

すごいっ!!
絶対、絶対礼人さんに似合ってるよ!


グリグリ。
え?

「…………」

コツン。

余りにも似合い過ぎるテニスを礼人さんがやっていたって聞いて、思わず勝手にいろいろ想像していたら(多分顔はニヤけていたはずだ)礼人さんが僕の頭をグリグリとした。

そして礼人さんの顔を見て、そんな自分にちょっぴり後悔したんだ。

だって、見上げた礼人さんの表情は、ちょっぴり自嘲したような諦めたような、何とも言えない表情だったから……。

バカだ、僕。
礼人さんが過去のことを話してくれて、それにまだ囚われていることもちゃんと分かっていたのに。


しかも優しい礼人さんは僕の表情を見て、おそらく瞬時に僕の気持ちの変動に気が付いたんだろう。額を優しくコツンと叩いて、暗に"気にすんな"と言ってくれている。


「礼人さん!」
「うん?」

のんびりと返すその返事に、礼人さんの優しさが痛いほど伝わって堪らなくなった。

膝立ちになって、ギュウッと礼人さんを抱きしめた。

「え? あゆ……」
ギュウウウウッ。


何を言っていいのかなんて分からない。
ごめんなさいだなんて、絶対ないし。今の僕の気持ちをどう表現したらいいのかも分からない。


だから、僕が。
僕の気持ちがちゃんと伝われば良いってそれだけを思って、僕は礼人さんの体を力いっぱい抱きしめた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

君の恋人

risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。 伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。 もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。 不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

王様のナミダ

白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。 端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。 驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。 ※会長受けです。 駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。

ポメラニアン魔王

カム
BL
勇者に敗れた魔王様はポメラニアンになりました。 大学生と魔王様(ポメラニアン)のほのぼの生活がメインです。 のんびり更新。 視点や人称がバラバラでちょっと読みにくい部分もあるかもしれません。 表紙イラスト朔羽ゆき様よりいただきました。

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

「婚約を破棄する!」から始まる話は大抵名作だと聞いたので書いてみたら現実に婚約破棄されたんだが

ivy
BL
俺の名前はユビイ・ウォーク 王弟殿下の許嫁として城に住む伯爵家の次男だ。 余談だが趣味で小説を書いている。 そんな俺に友人のセインが「皇太子的な人があざとい美人を片手で抱き寄せながら主人公を指差してお前との婚約は解消だ!から始まる小説は大抵面白い」と言うものだから書き始めて見たらなんとそれが現実になって婚約破棄されたんだが? 全8話完結

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

処理中です...