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エピローグ
エピローグという名の蛇足
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――あれから、1年と8カ月が過ぎて、俺らは卒業式を迎えた。
先生とは相変わらずで、時折南家に招待しては先生の夕飯のお世話をしている。……家族は、そりゃもう先生にメロメロだ。
「卒業おめでとう、南くん」
「あ、ありがとうございます」
ニコニコ笑いながら俺に挨拶をしてくれているのは鳥海先生だ。
鳥海先生との接点は、俺が先生たちを捕まえて勉強を聞きまわるようになってからは自然と無くなっていた。たまに会っても会釈をして挨拶をする程度だった。
「……あんな事件があったから心配していたけど、本当に大丈夫みたいだね。受験勉強も頑張っていたみたいだし。大学の合格発表は、まだなのかな?」
「はい。……5日後、だったかな?」
スケジュールを思い出そうと空中に目をやって視線を戻す途中で、紫藤先生のちょっぴり冷ややかな表情が目に入りちょっぴり動揺。
……ええっと、もしかしたら嫉妬されていらっしゃる?
「陽太ー! お待たせー」
花束と手提げを抱えた利一が、バタバタと走り寄って来た。
「あ、鳥海先生だ」
「……ああ。松本君も卒業おめでとう。確か、スポーツ推薦決まったんだって?」
「あはは。はい、ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げた利一が、頭を上げて「あっ」と声を上げた。
「紫藤先生だ! 先生、お世話になりましたー」
そう言いながら鳥海先生にもう一度頭を下げて、俺を引っ張り紫藤先生の元へと歩いていく。俺は利一に引っ張られながら鳥海先生に慌てて会釈をした。
「2人ともおめでとう。松本君は大学合格おめでとう」
「ありがとうございます」
俺と利一が先生と話をしている間も、女子らがどんどん紫藤先生を見つけて話しかけてくる。真っ赤に目をはらしながら先生にプレゼントを持ってくる人もいて、俺は些か困惑したけれど、先生は慣れたことのようで教師らしく優しく対応していた。
そんな状態だから、長らく先生の傍に居るのも不自然だったので、俺と利一は先生に挨拶をしてそのまま帰ることにした。
「なあ、利一。お前、片思いしてた子とは結局どうなったんだ?」
「んー、一応話とかしてるよ。もしかしたら、大学も一緒になれるかもしれないし」
「そっかー、じゃあその子も同じ大学受けたんだ。……で、その子、先輩とは?」
「……聞いてない。向こうが言ってきたら聞くけど、今は何も考えないようにしてる。その方が、今は良いかなって」
「そっか」
「俺の事もそうだけど、お前紫藤先生ともう少し話ししたかったんじゃないか? 女子らが凄かったからアレだけど……」
「あー」
「……何?」
「うん、実はさ、俺……」
明らかに言いにくそうにしている俺を、利一が不思議そうな表情で見ている。
ずっと利一に内緒にしていたことを、今言わなきゃって思ったんだ。
先生も、卒業したら話しても良いみたいなことを以前言っていたし。
「……先生と、その……、両想いになれた」
「……は?」
「えと、だからさ……」
「…………」
余程驚いたんだろう。目と口をポカーンと開けて、まるで鳩のような顔をしている。
「好きだから付き合ってくれって頼んだら、オーケーしてもらった……ぞ?」
唖然としすぎる利一に、やっちまったかなと思った。
……カミングアウト、するべきじゃ無かった……?
「……す」
「…………」
「すげー!! そんなこともあるんだ!? すげージャン陽太!」
我に返ったと言ったところだろうか。バシバシと俺の肩を叩きながら、利一が凄く喜んでいてくれているのが分かる。
「……引いてない?」
「はあ? なんで引くんだよ? 両思いだろ? 好きになってくれたんだよな? いい事じゃん。引くわけないよ、おめでとう!」
「あ、有難う」
「あー、ホント、人生何が起きるかわかんねーなぁ」
「うん」
「やっぱり俺も……、頑張ってみようかな。全く諦めるんじゃなくってさ」
「うん。何にも出来ないかもしれないけど、俺も応援するよ」
うん。
利一はやっぱり前向きな方が似合ってる。
キラキラ輝く笑顔を残して、利一とはまた会う約束をして交差点で別れた。
~♪♪♪
ポケットから着信音。見ると先生からの電話だった。
「今大丈夫か?」
「うん、利一と別れたとこ」
「そうか。南んちには7時前には着けると思うから」
今日は、母さんから是非先生をお招きしなさいと言われていて、先生の夕飯の予約を取っている。
「うん、待ってるよ。……ねえ、先生」
「なんだ?」
「女子と、あんまりべたべたしちゃだめだからな」
「……もちろんだ。あれは業務的な物だから、心配するな。……ていうよりお前も」
「俺?」
「……鳥海先生を喜ばせていただろう。お前は可愛いんだから、少しは気を付けろよ」
「…………」
「南?」
何度も思うけど、その心配は俺の方が強いと思うんだけどな。計算された紫藤先生の柔らかで優しい表情に、グラグラ来ない奴はきっといない。
そう言ったらきっと、他人に興味はないから関係ないとか、自分は強いから心配ないとか言うんだろうけど……。
「分かった。俺も気を付けるから、先生も気を付けてね」
「……ああ、そうだな」
笑いを含んだ先生の声。
きっと俺と同じような事を考えていたんだろうな。
この先も、ずっと先生と同じ時間を共有出来ますように……。
未来永劫、先生との時間が続くことを願いながら、俺は先生をもてなす為に頼まれた食材を買うためにスーパーへと向かったのだった。
おしまい♪
先生とは相変わらずで、時折南家に招待しては先生の夕飯のお世話をしている。……家族は、そりゃもう先生にメロメロだ。
「卒業おめでとう、南くん」
「あ、ありがとうございます」
ニコニコ笑いながら俺に挨拶をしてくれているのは鳥海先生だ。
鳥海先生との接点は、俺が先生たちを捕まえて勉強を聞きまわるようになってからは自然と無くなっていた。たまに会っても会釈をして挨拶をする程度だった。
「……あんな事件があったから心配していたけど、本当に大丈夫みたいだね。受験勉強も頑張っていたみたいだし。大学の合格発表は、まだなのかな?」
「はい。……5日後、だったかな?」
スケジュールを思い出そうと空中に目をやって視線を戻す途中で、紫藤先生のちょっぴり冷ややかな表情が目に入りちょっぴり動揺。
……ええっと、もしかしたら嫉妬されていらっしゃる?
「陽太ー! お待たせー」
花束と手提げを抱えた利一が、バタバタと走り寄って来た。
「あ、鳥海先生だ」
「……ああ。松本君も卒業おめでとう。確か、スポーツ推薦決まったんだって?」
「あはは。はい、ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げた利一が、頭を上げて「あっ」と声を上げた。
「紫藤先生だ! 先生、お世話になりましたー」
そう言いながら鳥海先生にもう一度頭を下げて、俺を引っ張り紫藤先生の元へと歩いていく。俺は利一に引っ張られながら鳥海先生に慌てて会釈をした。
「2人ともおめでとう。松本君は大学合格おめでとう」
「ありがとうございます」
俺と利一が先生と話をしている間も、女子らがどんどん紫藤先生を見つけて話しかけてくる。真っ赤に目をはらしながら先生にプレゼントを持ってくる人もいて、俺は些か困惑したけれど、先生は慣れたことのようで教師らしく優しく対応していた。
そんな状態だから、長らく先生の傍に居るのも不自然だったので、俺と利一は先生に挨拶をしてそのまま帰ることにした。
「なあ、利一。お前、片思いしてた子とは結局どうなったんだ?」
「んー、一応話とかしてるよ。もしかしたら、大学も一緒になれるかもしれないし」
「そっかー、じゃあその子も同じ大学受けたんだ。……で、その子、先輩とは?」
「……聞いてない。向こうが言ってきたら聞くけど、今は何も考えないようにしてる。その方が、今は良いかなって」
「そっか」
「俺の事もそうだけど、お前紫藤先生ともう少し話ししたかったんじゃないか? 女子らが凄かったからアレだけど……」
「あー」
「……何?」
「うん、実はさ、俺……」
明らかに言いにくそうにしている俺を、利一が不思議そうな表情で見ている。
ずっと利一に内緒にしていたことを、今言わなきゃって思ったんだ。
先生も、卒業したら話しても良いみたいなことを以前言っていたし。
「……先生と、その……、両想いになれた」
「……は?」
「えと、だからさ……」
「…………」
余程驚いたんだろう。目と口をポカーンと開けて、まるで鳩のような顔をしている。
「好きだから付き合ってくれって頼んだら、オーケーしてもらった……ぞ?」
唖然としすぎる利一に、やっちまったかなと思った。
……カミングアウト、するべきじゃ無かった……?
「……す」
「…………」
「すげー!! そんなこともあるんだ!? すげージャン陽太!」
我に返ったと言ったところだろうか。バシバシと俺の肩を叩きながら、利一が凄く喜んでいてくれているのが分かる。
「……引いてない?」
「はあ? なんで引くんだよ? 両思いだろ? 好きになってくれたんだよな? いい事じゃん。引くわけないよ、おめでとう!」
「あ、有難う」
「あー、ホント、人生何が起きるかわかんねーなぁ」
「うん」
「やっぱり俺も……、頑張ってみようかな。全く諦めるんじゃなくってさ」
「うん。何にも出来ないかもしれないけど、俺も応援するよ」
うん。
利一はやっぱり前向きな方が似合ってる。
キラキラ輝く笑顔を残して、利一とはまた会う約束をして交差点で別れた。
~♪♪♪
ポケットから着信音。見ると先生からの電話だった。
「今大丈夫か?」
「うん、利一と別れたとこ」
「そうか。南んちには7時前には着けると思うから」
今日は、母さんから是非先生をお招きしなさいと言われていて、先生の夕飯の予約を取っている。
「うん、待ってるよ。……ねえ、先生」
「なんだ?」
「女子と、あんまりべたべたしちゃだめだからな」
「……もちろんだ。あれは業務的な物だから、心配するな。……ていうよりお前も」
「俺?」
「……鳥海先生を喜ばせていただろう。お前は可愛いんだから、少しは気を付けろよ」
「…………」
「南?」
何度も思うけど、その心配は俺の方が強いと思うんだけどな。計算された紫藤先生の柔らかで優しい表情に、グラグラ来ない奴はきっといない。
そう言ったらきっと、他人に興味はないから関係ないとか、自分は強いから心配ないとか言うんだろうけど……。
「分かった。俺も気を付けるから、先生も気を付けてね」
「……ああ、そうだな」
笑いを含んだ先生の声。
きっと俺と同じような事を考えていたんだろうな。
この先も、ずっと先生と同じ時間を共有出来ますように……。
未来永劫、先生との時間が続くことを願いながら、俺は先生をもてなす為に頼まれた食材を買うためにスーパーへと向かったのだった。
おしまい♪
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