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最終章
先生の話
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少しリラックスした雰囲気で、先生はぽつぽつと話し始めた。
15年前の出来事はやっぱりヤラセで、先生のお父さんはハメられたんだという事。そして今回和田さんが接近してきたのも、もしかしたらお父さんによく似た先生を同じような手口で手に入れようとしていたんじゃないかと、渚さんが推測しているということを教えてくれた。
「……先生のお父さんって、そんなに先生そっくりなんだ」
「そのようだな。……まあ、俺の記憶の中の父親も、鏡に映るその姿に確かによく似ているとは思うけど」
「ふうん……」
「なんだ? 興味あるのか?」
先生が手を伸ばして俺の頭を撫で始めた。
いい機会なので、俺も先生にすり寄り抱き着いた。へへっ♪
「そういう訳じゃないけど……、先生はお父さんに会いたいと思わない?」
「――なんでだ?」
「……ずっと会ってないって言ってたでしょ? それに、お父さんは和田さんに何もしてなかったわけだし、家族を裏切ったってわけじゃないんでしょ?」
「…………」
「先生?」
お父さんの冤罪が晴れて嬉しいはずなのに、先生の表情は微妙だ。
過ぎ去ったことだから、もうどうでもいい事だというような事を言っていたけれど、やっぱり当時受けた傷は、しこりのように残っているモノなんだろうか。
「あの人は……、俺の父は家族のことなんて見てはいなかったんじゃないかと思う。父があの時優先したのは研究者としての自分の人生だ。和田にあることない事騒がれて、自分の仕事を奪われたくない……、それが総てに優先されていた。自分から裏切ることはしていなくても、結局は父が家族を捨てたことには何の変りもないんだよ」
「……先生」
胸がギュウッて痛くなるような悲しい真実。
それを先生が淡々と話していることが、却って痛々しくて心臓が押しつぶされそうになる。
「なんだ。南がそんな顔すること無いんだぞ?」
「だって……」
「悪い、悪い。こんな話は重かったな。教師が生徒に話すことじゃ……」
「そんなことないよ!」
宥めるように抱き寄せようとする先生の体を押して、先生の顔を見ながらキッパリと言う。
「俺は先生の恋人だよ! 病めるときも健やかなるときも一緒なんだからな! 先生が……、先生の心の中に空いてる穴があるんなら、俺が全部埋めてやるんだから、覚悟してろよ!」
「南……」
鼻息荒く言う俺に、先生が驚いたように俺を見つめる。
そしてその表情は、まるで花が綻んでいくようにゆるゆると甘く崩れていく。
息をするのも忘れてしまいそうになるくらい、綺麗な先生のその表情。
こうやって、先生の本当の素の綺麗な笑顔を見られることが出来る存在だってことが、素直に嬉しい。
まるで懐くことを知らない獣を手なずけたような気分になる。
「……なんだ? 今度は嬉しそうな顔だな」
きっと先生は知らない。
自分がどんな表情をしているかなんて。
「……今、先生の恋人なんだよなって、実感してるとこ」
「今更? 変な奴だな」
「いいよ。変でも」
片思いの時に思い描いていた先生とはまるで違う顔を持っていたけれど、でもやっぱり先生は、俺にとっては綺麗な優しい先生に違いない。
もしも、もしも万が一先生が自分のお父さんに会いたいと思える時が来たときは、その時は俺が傍に居て先生を支えて上げられればって思うんだ。
「あー、頑張らなくっちゃ!」
「なんだ、どうした?」
思いに浸っていた俺が、突然拳を突き上げたのを見て驚いたらしい。
目を丸くする先生の顔がかわいい。
「やること一杯あるなーって思って。大学受験だろ? そんでもって管理栄養士になって、先生の胃袋掴んで健康で長生きしてもらわなきゃならないし♪」
「……そうだな」
苦笑しながら引き寄せようとする先生に、キスを強請ろうと目論んでいると、テーブルの上に置かれていたスマホから着信音。思わず顔を見合わす先生と俺。
最初は無視する気満々だったみたいなんだけど、何度も何度も鳴り続ける電話に、ぶちぎれた先生がスマホを手に取った。
「渚! お前いい加減にしろよ!」
「…………」
怒りながら電話をしている先生だけど、本気で嫌がってるわけじゃない。
最近は、俺にもそれが分かるようになってきた。
先生の悪友は、俺にとっても大事な存在だ。
ぶっきらぼうに話し続ける先生を見ながら、渚さんにはいつお味噌汁を作ってあげようかと俺は考えていた。
15年前の出来事はやっぱりヤラセで、先生のお父さんはハメられたんだという事。そして今回和田さんが接近してきたのも、もしかしたらお父さんによく似た先生を同じような手口で手に入れようとしていたんじゃないかと、渚さんが推測しているということを教えてくれた。
「……先生のお父さんって、そんなに先生そっくりなんだ」
「そのようだな。……まあ、俺の記憶の中の父親も、鏡に映るその姿に確かによく似ているとは思うけど」
「ふうん……」
「なんだ? 興味あるのか?」
先生が手を伸ばして俺の頭を撫で始めた。
いい機会なので、俺も先生にすり寄り抱き着いた。へへっ♪
「そういう訳じゃないけど……、先生はお父さんに会いたいと思わない?」
「――なんでだ?」
「……ずっと会ってないって言ってたでしょ? それに、お父さんは和田さんに何もしてなかったわけだし、家族を裏切ったってわけじゃないんでしょ?」
「…………」
「先生?」
お父さんの冤罪が晴れて嬉しいはずなのに、先生の表情は微妙だ。
過ぎ去ったことだから、もうどうでもいい事だというような事を言っていたけれど、やっぱり当時受けた傷は、しこりのように残っているモノなんだろうか。
「あの人は……、俺の父は家族のことなんて見てはいなかったんじゃないかと思う。父があの時優先したのは研究者としての自分の人生だ。和田にあることない事騒がれて、自分の仕事を奪われたくない……、それが総てに優先されていた。自分から裏切ることはしていなくても、結局は父が家族を捨てたことには何の変りもないんだよ」
「……先生」
胸がギュウッて痛くなるような悲しい真実。
それを先生が淡々と話していることが、却って痛々しくて心臓が押しつぶされそうになる。
「なんだ。南がそんな顔すること無いんだぞ?」
「だって……」
「悪い、悪い。こんな話は重かったな。教師が生徒に話すことじゃ……」
「そんなことないよ!」
宥めるように抱き寄せようとする先生の体を押して、先生の顔を見ながらキッパリと言う。
「俺は先生の恋人だよ! 病めるときも健やかなるときも一緒なんだからな! 先生が……、先生の心の中に空いてる穴があるんなら、俺が全部埋めてやるんだから、覚悟してろよ!」
「南……」
鼻息荒く言う俺に、先生が驚いたように俺を見つめる。
そしてその表情は、まるで花が綻んでいくようにゆるゆると甘く崩れていく。
息をするのも忘れてしまいそうになるくらい、綺麗な先生のその表情。
こうやって、先生の本当の素の綺麗な笑顔を見られることが出来る存在だってことが、素直に嬉しい。
まるで懐くことを知らない獣を手なずけたような気分になる。
「……なんだ? 今度は嬉しそうな顔だな」
きっと先生は知らない。
自分がどんな表情をしているかなんて。
「……今、先生の恋人なんだよなって、実感してるとこ」
「今更? 変な奴だな」
「いいよ。変でも」
片思いの時に思い描いていた先生とはまるで違う顔を持っていたけれど、でもやっぱり先生は、俺にとっては綺麗な優しい先生に違いない。
もしも、もしも万が一先生が自分のお父さんに会いたいと思える時が来たときは、その時は俺が傍に居て先生を支えて上げられればって思うんだ。
「あー、頑張らなくっちゃ!」
「なんだ、どうした?」
思いに浸っていた俺が、突然拳を突き上げたのを見て驚いたらしい。
目を丸くする先生の顔がかわいい。
「やること一杯あるなーって思って。大学受験だろ? そんでもって管理栄養士になって、先生の胃袋掴んで健康で長生きしてもらわなきゃならないし♪」
「……そうだな」
苦笑しながら引き寄せようとする先生に、キスを強請ろうと目論んでいると、テーブルの上に置かれていたスマホから着信音。思わず顔を見合わす先生と俺。
最初は無視する気満々だったみたいなんだけど、何度も何度も鳴り続ける電話に、ぶちぎれた先生がスマホを手に取った。
「渚! お前いい加減にしろよ!」
「…………」
怒りながら電話をしている先生だけど、本気で嫌がってるわけじゃない。
最近は、俺にもそれが分かるようになってきた。
先生の悪友は、俺にとっても大事な存在だ。
ぶっきらぼうに話し続ける先生を見ながら、渚さんにはいつお味噌汁を作ってあげようかと俺は考えていた。
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