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第九章
和田からの連絡 紫藤視点
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南を送って、マンションに戻った。
風呂を済ませて部屋に戻ると着信があった。手に取って確認してイラッとする。
和田遥花
両親の離婚なんて、もう俺にとっては過去の話だ。今更ほじくり返して恨み言を言うつもりなんてさらさら無いのに、何であのバカ女はわざわざそれを蒸し返そうとするんだか。
折り返し電話なんてする気が起きるわけもなく、俺は名前を確認した後スマホをベッドにポンと放り投げた。
俺の父はいわゆる学者バカというタイプだった。
研究や自分の興味の引くもの以外には全く目を向けず、恋愛にも興味を示さなかったらしい。
そんな父が母と結婚することになったのも、母が父に一目ぼれして、父の上司の知り合いに見合いを頼んだことが切っ掛けだったらしい。
直属の上司からの頼みとあっては無碍にも出来ないと判断した父が、渋々了承し見合いをしたところ、気が付いたら結婚にまで至っていたという何とも間抜けな話だ。
「そう言えば、家庭すら顧みない人だったよな……」
父子の楽しい記憶なんてなかった。
そんな父だから当然なのかもしれないけど、家族サービスなんて言葉すら知らないような人だった。
その反動なのかは知らないが、母は当時俺の事を溺愛していた。まるで俺を可愛がることが父との繋がりを保っているかのように……。
本当に好きだったんだろうなと思う。母は父の事を。
だからこそあの事件は、母にとっては到底許せるような事では無かったのだろう。
『澪くん?』
目を見開いて、俺を凝視したあの女の表情。
会ったことは無かったのに、一目であの男の息子だと分かるほど激似しているんだろう。
――気色が悪い
心の中で悪態を吐いているとスマホからの着信音。
和田からだった。
しつこい電話に腹は立ったが、知らんふりをし過ぎて学校まで押しかけられても不味い。
仕方が無いので電話に出た。
「はい」
「澪くん? さっき電話したんだけど何してたの?」
まるで折り返しの電話が無かったことに拗ねている、恋人のような甘えた声だ。南なら可愛いと思えるのだろうが、この女にそんな声を出す権利なんて無い。
「風呂に入っていたのだと思います。そのまま明日の授業の準備を始めたので、着信の確認はしていませんでした」
「……そう。それなら仕方ないわね。この前も話したけど、会って色々話したいのよ。時間、まだ取れそうにないの?」
「すみません。職場でも雑多な仕事が多々ありまして、やらなければならない授業の準備なども帰ってからという事が多いんです」
「……そういうところもお父さんにそっくりね。あの人も仕事人間だったわ」
「…………」
「でも命令。今度の日曜日、付き合いなさい。その時に貴方のお父さんにされたこと、色々話してあげるわ。いいわね?」
「――はい」
「じゃあ、場所は――」
和田は言いたいことを言い、会う場所を指定して電話を切った。
指定された店を調べてみたら、洒落た感じの居酒屋だった。vipルームもあり、予約をすれば値段は高くなるが離れにある個室も使えるようだ。
1人で行くのは災いの種を拾いに行くようなものだ。
俺はため息を一つ吐いて、渚に電話を掛けた。
風呂を済ませて部屋に戻ると着信があった。手に取って確認してイラッとする。
和田遥花
両親の離婚なんて、もう俺にとっては過去の話だ。今更ほじくり返して恨み言を言うつもりなんてさらさら無いのに、何であのバカ女はわざわざそれを蒸し返そうとするんだか。
折り返し電話なんてする気が起きるわけもなく、俺は名前を確認した後スマホをベッドにポンと放り投げた。
俺の父はいわゆる学者バカというタイプだった。
研究や自分の興味の引くもの以外には全く目を向けず、恋愛にも興味を示さなかったらしい。
そんな父が母と結婚することになったのも、母が父に一目ぼれして、父の上司の知り合いに見合いを頼んだことが切っ掛けだったらしい。
直属の上司からの頼みとあっては無碍にも出来ないと判断した父が、渋々了承し見合いをしたところ、気が付いたら結婚にまで至っていたという何とも間抜けな話だ。
「そう言えば、家庭すら顧みない人だったよな……」
父子の楽しい記憶なんてなかった。
そんな父だから当然なのかもしれないけど、家族サービスなんて言葉すら知らないような人だった。
その反動なのかは知らないが、母は当時俺の事を溺愛していた。まるで俺を可愛がることが父との繋がりを保っているかのように……。
本当に好きだったんだろうなと思う。母は父の事を。
だからこそあの事件は、母にとっては到底許せるような事では無かったのだろう。
『澪くん?』
目を見開いて、俺を凝視したあの女の表情。
会ったことは無かったのに、一目であの男の息子だと分かるほど激似しているんだろう。
――気色が悪い
心の中で悪態を吐いているとスマホからの着信音。
和田からだった。
しつこい電話に腹は立ったが、知らんふりをし過ぎて学校まで押しかけられても不味い。
仕方が無いので電話に出た。
「はい」
「澪くん? さっき電話したんだけど何してたの?」
まるで折り返しの電話が無かったことに拗ねている、恋人のような甘えた声だ。南なら可愛いと思えるのだろうが、この女にそんな声を出す権利なんて無い。
「風呂に入っていたのだと思います。そのまま明日の授業の準備を始めたので、着信の確認はしていませんでした」
「……そう。それなら仕方ないわね。この前も話したけど、会って色々話したいのよ。時間、まだ取れそうにないの?」
「すみません。職場でも雑多な仕事が多々ありまして、やらなければならない授業の準備なども帰ってからという事が多いんです」
「……そういうところもお父さんにそっくりね。あの人も仕事人間だったわ」
「…………」
「でも命令。今度の日曜日、付き合いなさい。その時に貴方のお父さんにされたこと、色々話してあげるわ。いいわね?」
「――はい」
「じゃあ、場所は――」
和田は言いたいことを言い、会う場所を指定して電話を切った。
指定された店を調べてみたら、洒落た感じの居酒屋だった。vipルームもあり、予約をすれば値段は高くなるが離れにある個室も使えるようだ。
1人で行くのは災いの種を拾いに行くようなものだ。
俺はため息を一つ吐いて、渚に電話を掛けた。
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